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全国的なドライバー不足にどう対応? 青果物流の中継拠点の効果と課題とは

窪田 新之助

ライター:

全国的なドライバー不足にどう対応? 青果物流の中継拠点の効果と課題とは

JA全農おおいたが2019年に開設した大分青果センターは、県内の全4JAにとって物流の中継拠点。各JAから青果物を一元的に集荷して予冷した後、分荷して全国に送り届ける。目的は物流費の抑制と市場での有利販売にある。期待した効果は得られたのか、残る課題は何か。

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コールドチェーンに配慮

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大分青果センターの予冷庫

「なかは寒いですよ」。大分青果センター長・須股慶一(すまた・けいいち)さんの案内で施設に入ると、いきなり予冷庫だった。壁にある温度計を見ると「8.8度」の表示。隣には室温を約3度に保っている別の部屋がある。どちらの部屋に入庫するかは品目によって決めているとのことだ。

入庫口と出庫口はトラックが後部の扉を空けたまま荷台を密接できる「ドックシェルター方式」を採用している。外気が入るのを防ぐことで、予冷庫の室温だけでなく青果物の品温の変化を抑えるためだ。同センターはコールドチェーンに配慮しているのが特徴の一つである。

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ドックシェルター方式を採用している

運賃の値上げを防ぐ代替策

JA全農おおいたがその開設に踏み切ったのは、物流業者から運賃の値上げを迫られたためだ。「センターを建てる5、6年前から、運賃を15%から20%上げてほしいと言われ続けてきました」(須股さん)

背景にあるのは全国的なドライバー不足。賃金の安さを主因にドライバーの人数が減っている。ただ、JA全農おおいたにとって運賃の値上げは農家の手取りに響きかねない。代替策として物流業者に約束したのが保管機能を高めた物流拠点「ストックポイント」の開設であり、それによって実現できる積載率の向上だった。

同センターを開設する以前、各JAの荷物は大分市にある物流業者の倉庫で集荷と分荷をしていた。ただ、保管施設が狭いうえに冷蔵施設が備わっていない。常温状態にある青果物の劣化は早い。

それをなるべく抑えるため、当時は入庫から出庫までの時間を短くすることを最も重視していた。そのため積載率が低くても、物流業者に無理を言って輸送してもらっていたのだ。須股さんは「10トン車であれば最大で16パレットが入る。それが端境期の荷物がないときには3、4パレットだけでも運んでもらっていました」と振り返る。

12時間以上の予冷で品質の劣化を防ぐ

積載率を上げるには大きな保管施設が必要になる。そこで建てることにしたのがJA全農にとっては九州地方で初のストックポイントとなる同センターだった。
ただ、ここで別の問題が生じる。荷物が一定量以上集まるのを待つ必要が生じたので、入庫から出庫までの時間が余計にかかることになる。そこで用意したのが予冷庫。事前に冷やすことで、低温状態で輸送できるようにした。狙ったのは品質の保持である。

県産業科学技術センターとの共同研究では、トラックの庫内を低温にしても、段ボールが断熱材となって、青果物を品質が保てるほどの低温にはできないことが分かった。一方、あらかじめ低温で12時間以上冷やせば、輸送中に品質が損なわれることを防げることも確かめた。

大分県のJAにとって主な出荷先は関西地方。予冷庫を整えたことで、以前の「2日目販売」から「3日目販売」に切り替えることができた。それぞれ地域のJAが集荷してから卸売市場で取引が成立するまでの日数を示したものである。市場で取引されるまでに1日余計にかかるようになったものの、予冷することで品質の劣化は以前よりも防げているという。須股さんは打ち明ける。
「わかりやすいのはゴーヤー。少し黄色くなったゴーヤーを常温で輸送すると、市場に到着した時に爆発していることがごくまれにですがありました。いまはそんな問題はまったくありません」

大分青果センターの開設で積載率が上がったことで、今のところ運賃は値上げされずに済んでいる。さらに「3日目販売」に切り替えられたことで、集荷した青果物の品目と数量を市場に1日早く伝えられるようになった。これが有利販売につながっている。「1日時間の余裕が生まれたことで、卸売業者が売り先を見つけやすくなった。そのおかげで新たな契約先が出てきている」(須股さん)
同センターでの取扱高の目標はJA全農おおいたの取り扱いの実績数量の35%に相当する1万6635トン。実績は2019年度が1万1275トン、2020年度が1万4732トンと伸びている。2021年度は1万5000~1万6000トンを見込んでいる。

課題は販売管理システムの統一化

JA全農おおいたが同センターを開設したことで物流の問題が解決したかといえば、決してそんなことはない。たとえば各JAごとに販売管理システムが異なっており、いまだに紙を媒体にしているところもある。その場合はファクスで集荷情報が届くので、センターの職員がそれを基にパソコンで入力する手間が生じる。また箱の規格がJAごとに異なっているので、崩れを防ぐために統一する必要がある。2021年度から一部の品目で同一の規格を導入していくという。
ただ、そうしたこと以上に大きな問題が3年後に迫っている。2018年に成立した働き方改革関連法が物流業界に適用される「2024年問題」だ。須股さんが「いまのままでは最大の得意先である関西地方に荷物が送れなくなる可能性がある」と危惧するほどだ。次回は「2024年問題」とJA全農おおいたによる問題解決の試みについて紹介する。


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