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その作物廃棄、本当にフードロス? 規格外品にまつわる思いちがいと落とし穴

その作物廃棄、本当にフードロス? 規格外品にまつわる思いちがいと落とし穴

SDGsへの関心の高まりで、フードロスについて考える場面が増えた。それにともなって、畑での作物廃棄にも注目が集まるようになってきている。しかし、畑での作物廃棄をフードロスと考えるべきなのか? 農産物流通ベンチャーを経営する筆者は、大企業による安直な社会貢献に一石を投じる。

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大企業から農家への依頼がブームです

最近のあるある話から。
野菜農家のところに、「当社はSDGsを推進したいので、畑で廃棄になっている野菜を活用したビジネスを考えたい」という話が大企業から来るという。この手の相談はこの数年、すごく増えたように感じている。
「その前に御社の社員食堂の生ごみはどのくらい減らしたんですか?」という野暮な突っ込みはしないでおくとしても、違和感をどうしても抱いてしまう。

ちょっと他の業界を例にこの問題を見てみよう。
今では、ファッション品をアウトレットモールで買うことは当たり前になっている。アウトレットモールで正規品が売られていることもあるが、本来、アウトレット品とはあくまで正規品として販売できなかったもののことを指す。アウトレット品がたくさん売れていると報告を受けて、喜ぶファッションデザイナーはいないだろう。

初見の農家に、「規格外品なら、たくさん売りますよ」と言うことは、ファッションデザイナーに「アウトレット品なら、たくさん売りますよ」と言っているのと同じだ。もちろん悪意があるわけではないが、その農家が品質にこだわりを持っている人であればあるほど、いきなり裏口から商談に入るような形となり、信頼関係を築くのはたいへんだ。

SDGsを背景に、大企業が農業に関心を持っていることは、基本的に歓迎すべきことだ。
ただ、いくつかの思いちがいを農業の外の世界にいる人たちがしているからかもしれない。そんな思いちがいをいくつか挙げてみよう。

思いちがいその1「規格外野菜や廃棄野菜はいつでもたくさんある」

農家は、規格外野菜を狙って作っているわけではない。なるべく秀品率を高くしようとし、そこが腕の見せ所だ。それに、そもそも農業は工業のようには計画的に生産できるわけではない。
だから、規格外品の生産量(生産量という言葉も微妙だが)は、安定しない。多い時もあれば少ない時もある。
「来週、○トンの規格外野菜を用意してください」という発注には無理がある。

思いちがいその2「規格外品も味は変わらない」

工業的な発想だと、外装に傷がついた車でも走行性能は変わらないじゃないか、と思ってしまうかもしれない。作物によっては、傷があったり変形したりしていても味がまったく変わらない場合もある。
しかし、作物によっては、生理現象によって規格外品になる場合もある。たとえばキュウリが曲がるのは、肥料不足や水不足が原因ともいわれる。なので、曲がったキュウリについて、正規品と味がまったく同じだと胸を張って言えるかといえば、実はそうではない。

仮にある年に秀品率が落ちて規格外品がたくさん出たとしよう。その原因は、何かしら技術的に失敗しているか、その年の天候が良くなかったということである。だとすれば、味のレベルも平年より落ちている場合が多いだろう。

思いちがいその3「すべての作物は有効活用されるべきだ」

規格外品や畑での作物廃棄は、バッファー(予備)としての役割もある。つまり、食料安全保障という側面だ。

すべての作物が有効活用されている構図は、理想としては美しい。しかし、凶作になったり、貿易が止まったりすることもある。収穫した作物を活用しつくしていたら、有事の際に困ってしまうだろう。

畑での作物廃棄は、最終的に畑の土に戻るわけで、環境への影響度合いは小さい。家庭の生ごみを焼却することと比べれば、環境負荷は微々たるものだ。SDGsという観点からは、畑での廃棄より優先順位が高いことは山ほどありそうだ。

思いちがいその4「規格外品の活用は農家のためになる」

農家単位や自治体単位では、規格外品の活用は農家所得を向上させる。しかし、日本全体で見た場合、すでに需要が満たされているマーケットへより安い価格の商品を投入すれば、取引価格は下がってしまう。
だから、良かれと思って規格外品を活用しても、結果的に作物の相場を下げ、日本のどこかで離農を促している可能性は高い。
ただし、当該商品を別のマーケットに出す場合(例:輸出する)は別である。

ビジネスとしても難度は高い

このような認識の誤りもあって規格外品などに注目が集まっているのだが、もうひとつ注意すべき点は、規格外野菜や廃棄予定の作物の活用は、ビジネスとしてもそう簡単ではないことだ。
仕入れ値が相対的に安いので、ビジネスとして成り立ちやすいのではないか、と推測してしまう企業もあるだろう。しかし、いくつかの落とし穴があるので、まとめておきたい。

  1. 【供給の非安定性】先述のように規格外野菜や廃棄野菜はいつでも潤沢にあるわけではない。そういう材料を前提として、固定費やイニシャルコスト(初期費用)をかけるのは割に合わない。
  2. 【品質を求められない】農家としては、規格外品に品質を求められても困る。しかし、加工や流通をする側もビジネスである以上、消費者に気に入られる商品を作るために、販売しているうちにより高品質なものを求めたくなってくる。かといって「より高品質の規格外品をください」と言われても農家側は困惑するしかない。秀品と同じ価格で取引してくれるなら、話は別だが……。
  3. 【コスト高】廃棄予定の作物も結局、出荷するとなれば、手間がかかる。収穫し、出荷のための調整をするコストというのは、作物にもよるが、おそらく部外者の想像よりも大きい。そうすると、さほど安くは調達できないかもしれない。さらに、加工する側のコストの精査も必要だ。たとえば、不ぞろいのニンジンであれば、加工する際に手間がかかることを覚悟する必要があるだろう。

このように規格外品や廃棄予定作物の活用は、収益性の面でも高いハードルがある。

供給よりも需要に注目しよう

念のため繰り返して書くが、規格外品や廃棄予定作物の活用は、個々の農家のレベルではどんどん進めるべき方策だし、民間の営業活動としては責められるべきことはなにもない。

しかし、持続可能な農業を目指す、という大義名分を掲げる場合には、いちど立ち止まって考える必要があるだろう。
すでに飽和しているマーケットにわざわざより安い価格の商品を投入することはないのである。

では、マーケットへの影響力が大きい大企業ができることとは何だろうか。

もちろん、民間企業がどのような戦略をとろうと外の人間がとやかく言うことはない。しかし、社会貢献やSDGsといった大義を掲げるのであれば、考え直す必要があるだろう。

まずは、正規品を適正価格で買うことから取り組んでみたい。
たとえば、大企業であればグローバルなネットワークを持っているかもしれない。それを使って、輸出に取り組んだらどうだろうか。あるいは、特定産地と連携し、社員がその産地のものを買い支える仕組みを作る。まず正規品を持続可能な価格で買い支え、その後に余剰のものがあればそれも買おう。

需要を喚起することこそが、いま農業界に必要とされていることである。需要が喚起されれば、おのずと耕作放棄地や離農は減る。
にもかかわらず、農業界は供給を増やすことにやっきになっている。そんな産業はほかにはない。日本人の胃袋は有限なわけなので、供給を増やすのはじつは好ましいことではない。
需要の喚起とは、具体的には輸出の促進や輸入農産物に対抗すること、非食品への活用、そして取引単価をアップすること。
こうしたことが農業を持続可能なものにしていくのである。

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