主力の関東地方へ7割を出荷
大分空港から車で10分ほど、川沿いの平場に上原農園の園芸施設や集荷場などが立ち並んでいる。同社は2ヘクタールで小ネギを水耕栽培している。
代表の上原隆生(うえはら・たかお)さん(58)が大分県で経営に携わる農場はほかに3つある。上原農園で研修を受けた家族や元研修生が経営者である向陽グリーンフーズとアグリビジネス大分、グリーンファーム大分だ。いずれも小ネギを水耕栽培していることに変わりはない。作付面積はそれぞれ80アール、75アール、40アール。
3農場が生産した小ネギは上原農園が買い取り販売している。一括で集荷と調製をした後、予冷してパレットに載せた状態で輸送業者に渡す。出荷先は北海道から沖縄まで全国に及ぶ。主力の関東地方への出荷量は全体の7割である。
関東地方への輸送の手段はこれまで空輸が主だった。量販店から注文が入るのは毎日午後5時ごろ。翌日の昼の旅客機に載せて、翌々日の朝には関東地方の小売店に並べられていた。
新型コロナで空輸からトラック便へ
事態が変わったのは、新型コロナウイルスがまん延した2020年5月ごろから。肝心の輸送の手段である旅客機が減便になったのだ。加えてその旅客機も小型になり、貨物を載せない便が増えた。結果、空輸できる量は全体の4~5分の1になった。
主な輸送手段をトラック便にしたことで、1箱当たりの輸送費は100~150円上がった。空輸についても1箱当たり50円上がった。上原さんは「年間にして輸送費は700万円から800万円程度増えた」という。当然、比較的コストが安い空輸に戻していきたい。
その際に気になるのは、コロナ禍が収束に向かった後に空輸の輸送費がどうなるか。上原さんは「コロナ前の値段には戻らないだろう」とみている。
トラック便から空輸に戻していっても、料金は上がったままで、以前よりも輸送費がかさむ事態は避けられそうにない。では、その値上げ分をどう吸収するのか。上原さんは、値上げ分を量販店と折半する交渉をしている。すでに一部の量販店とは合意に達した。
ドライバー不足など物流の環境が悪化する中、運賃が増額する分は生産者や産地の側が持つことが多い。対して上原農園が取引先と折半できるのは、鮮度を維持したまま、一定以上のロットを届けられる物流の仕組みをつくっているから。だがそれだけではない。
上原さんはその他の理由として次の3点を挙げる。一つは注文への柔軟な対応にある。「たとえば内容量の変更について要望があれば、2日後には対応する。だから取引先の信頼を得てきた」
もう一つの理由は「原価計算ができているから」。上原農園では毎月、各農場の責任者が施設ごとに時間当たりの生産量や出荷先ごとの単価などを計算している。上原さんは「原価を伝えることで、理解が得られる」と話す。
3つ目の理由として挙げるのは、取引先にとって永続的な取引が見込めることだ。「うちのグループ会社の経営者は年齢が20代から40代と若い。取引先には、少なくともあと50年は小ネギを安定して仕入れられると話している」(上原さん)
県内の農業法人と「合い積み」を模索
物流対策では自社による努力も欠かさない。その一つは他の農業法人と「合い積み」するという条件で、輸送業者に貸し切り便を用意してもらうことだ。満載することで運賃を安くできる。
上原農園が園芸施設や集荷場、予冷庫などをそろえている敷地では、ウーマンメイクという別の農業法人がリーフレタスやホウレンソウを水耕栽培している。上原さんはすでに同社と合い積みを始めている。加えて大分県内の農業法人にも呼び掛けている。
カットや冷凍の加工品づくりを計画
上原さんが物流対策を含めて計画していることがもう一つある。カットや冷凍といった加工を小ネギに施し、商品として販売することだ。加工場についてはすでに設計図を描き、補助金を申請するところだ。
「カットネギや冷凍ネギの需要はある。でも、大分県内の飲食店では県外産や外国産が使われている。加えて、これからはドライバー不足が深刻になり、青果物を遠方に運ぶのはますます難しくなる。そのリスクを抑える意味も含めて、代わりに地元で消費してもらう仕組みをつくることが大事」(上原さん)
国東市はネギの産地。加工するのは小ネギだけではなく、長ネギや葉ネギなどあらゆるネギを対象にする。他の農家が生産する分も受け入れ、「仲間とともに成長していきたい」と話している。