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果樹王国・山形に新たな特産品を! 国産ラズベリーの産地形成に挑む、非農家出身女性

連載企画:若者の農業回帰

果樹王国・山形に新たな特産品を! 国産ラズベリーの産地形成に挑む、非農家出身女性

サクランボをはじめ、ブドウや洋ナシなどの果樹栽培が盛んな山形県で、新たにラズベリーの栽培が行われている。その名も「最上ラズベリー」。ほとんどを輸入に頼るラズベリーを国内栽培する地域生産者団体の取り組みと、その中心で奔走する非農家出身女性の活躍を取材した。

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豪雪地帯・山形県最上地方にベリーの里を

果樹王国で知られる山形県だが、その多くは比較的降雪量が少ない山形盆地を中心とした村山地方で栽培されている。県北東部に位置する最上地方は国内有数の豪雪地帯であり、平地でも毎年1メートル以上の積雪がある。そのため雪の重さで枝が折れるなど、果樹栽培には不向きな地域とされてきた。

その最上地方で近年、栽培が盛んに行われているのがラズベリーだ。もともとは山形県産地研究室が中心となって研究を重ね、サクランボのように枝を大きく張らないラズベリーは雪の重みの影響を受けにくく、生命力も強いことから、豪雪地帯でも栽培が可能であることが分かっていた。

その栽培を一手に担うのが、山形県新庄市の生産団体「最上ラズベリー会」である。同会では、多くを輸入に頼る国産ラズベリーの希少性に目をつけ、地域の新たな特産品とするべく、2012年から生産を始めた。現在は11人の会員が年間約500キロを生産し、首都圏のホテルなどに出荷しているほか、ラズベリーティーなどの6次産業化にも手を伸ばしている。会長の齋藤優子(さいとう・ゆうこ)さんは、米やベリーなどを生産する傍ら、同会の取りまとめを行っている。

齋藤優子さん(新庄市提供)

結婚を機に就農し、地域生産者団体の中心になるまで

もともとは埼玉県の養護施設に勤務していた齊藤さんは、結婚を機に新庄市へ移住。「私自身は非農家出身でしたが、米の生産や和牛繁殖をしていた夫の実家で初めて農業に携わりました。ラズベリーとの出会いは子供が生まれ、体に良いものを食べさせたいと思うようになったころ。ラズベリー栽培のセミナーに参加し、設備投資が少なく手間もそれほどかからないとのことで、家業の合間にできるのではないかと思い、栽培を始めました」

齋藤さんは就農の経緯やラズベリーとの出会いについて、こう振り返る。力仕事があまりなく、樹高も低いため、女性や高齢者でも栽培しやすかったのも理由の一つだ。

このセミナーで知り合った有志が2012年に「最上ラズベリー会」を立ち上げると、齋藤さんは会計担当として参画。2018年からは会長に就任し、管内の生産者をまとめる立場を担っている。

「希少性が高いだけに、生産した国産ラズベリーを流通に乗せるのは難しい面もあります。一方で応援してくれる方も多く、首都圏でアイス店を展開する企業への販売や、インターネット販売を通し、徐々に販路は広がっています。今後は生産量を確保することが大きな課題になっていくでしょう」と齋藤さん。会員の協力を得ながら生産から流通、販売まで一貫して行うことで、消費者においしさと安全、安心を届けている。

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1季成りで高品質を追求

ラズベリーは8月中旬から10月にかけて実がなり、冬季間に雪囲いをすると夏に再び実がなる特性がある。しかし、豪雪地帯である最上地方では雪囲いをしても完全に積雪による枝折れを防ぐことが難しいため、秋の収穫が終わると吸枝(地下茎から生え出した枝)を刈り取る栽培方法を取り入れている。

「このように1季成りにすることで収穫量は半減しますが、その分しっかり実を成熟させ、高品質なラズベリーを提供することができます。赤い実は味もさることながら本当にかわいらしく、収穫がとても楽しいんですよ」(齋藤さん)

甘みと酸味のバランスが良く、香りが強い最上ラズベリーは栽培期間中、農薬・化学肥料不使用にもこだわり、手間ひまをかけて一粒一粒丁寧に育てられている。

>画像提供:新庄市

最上地方の気候を生かすため、品種はヒンボートップを採用。平均果重が3~5グラムと大きく、安定して結実が得られ、収量も多いのが特徴だ。 ヒンボートップは一般的な2季成り品種より収穫期が早く、8月下旬に収穫盛期を迎える。水はけの良い圃場(ほじょう)であれば、それほど手間がかからないのもポイントだ。

収穫したラズベリーは冷凍加工し、主にインターネットなどを通じ直接レストランなどに販売。さわやかな酸味と甘さは、そのままシャーベット感覚で食べたり、ピューレやジャムなどにアレンジしても楽しむことができる。

「購入したお客様から『おいしい』と言ってもらえることが何よりのはげみです。食べ方を一緒に考えてくれたり、料理やスイーツに使用するアイデアを寄せてくださる方もいます。応援してくれるお客様の存在はかけがえのないものです」と齋藤さんは話す。

安定した収量確保へ、栽培技術の確立を

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国産ラズベリーは国内での栽培技術が確立されていない部分が多く、年によっては病害虫や夏の暑さに負けてしまうこともあるという。最上地方を国産ラズベリーの一大産地にするためには、研究機関と連携した栽培技術向上とベリー生産の魅力を伝えていくことが急務と齋藤さんは今後の展望を語る。

「ラズベリーに限らず、自然相手の農業は年によって雨量や気温が変わるため、状況に合わせた管理が重要です。長い歴史の中で米や野菜、サクランボなどの栽培技術が確立されたように、最上ラズベリーも栽培技術を磨き、安定した収量確保に向けて取り組まなければなりません。そのためにも会員同士が情報を共有し、関係機関との連携を図りながら技術向上に努めていきたいです」

山形県最上地方を国産ラズベリーの一大産地へ──。先を見据える齋藤さんの言葉からは、生産者としての矜持(きょうじ)と覚悟が垣間見えた。

【取材協力】
Berryneさいとう農園

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