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コメの輸出拡大へ支援手厚く。「新市場開拓用米」の実情と助成金制度

kumano_takafumi

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コメの輸出拡大へ支援手厚く。「新市場開拓用米」の実情と助成金制度

国が農業政策の中で特に力を入れていることの一つとして挙げられるのが、日本産農畜産物・加工品の「輸出」。2016年5月に農林水産業の輸出力強化戦略を策定し、2025年に2兆円、2030年には5兆円にするという高い目標値を定めた。2021年7月には農水省は輸出・国際局という新たな局を設置するという力の入れようだ。輸出重点品目27品目の一つになっているコメにも目標値が定められており、2025年に125億円という額を示している。輸出用のコメは、生産面の制度上の区分では「新規需要米」の中の「新市場開拓用」と位置付けられており、国から生産面で直接支援措置が受けられるほか、海外でのプロモーションなどに対してもさまざまな支援がなされる。

2万トンを超えるまでになった輸出用米

2021年12月半ば、農林水産物・食品の輸出額が1~11月までの累計で1兆円を超えたと報じられた。輸出のけん引役は牛肉や清酒などだが、コメの輸出も増えている。同年12月に農林水産省が取りまとめた資料「米の輸出について」があるので、まずそれを紹介したい。

商業用のコメの輸出実績(援助用は除く)は毎年伸び続けており、2017年に1万トンを超え、2020年には1万9687トンになった。2021年は1月から10月までの累計数量が1万7901トンで、対前年同期増減率で16%増となっており、コロナ下でも伸びが衰えていない。輸出先国で数量が多いのは、香港、シンガポール、台湾、アメリカ。特に香港、シンガポールは輸出の伸びが大きく、2021年1~10月の累計輸出量は香港が7090トン(対前年同期比26%増)、シンガポール4036トン(同37%増)になっている。この2カ国向けに日本側の輸出業者がどのような取り組みをしているのかは後述するとして、最も多くの需要が見込まれる中国向けはわずか371トンに留まっている。これは、中国側が依然、放射性物質の規制で日本の9都県からのすべての食品の輸入停止を続けているうえ、カツオブシムシ防除のためのくん蒸を義務づけるなどの障壁があるため。

コメの輸出を支援する国の政策

輸出用米についての国の支援策としては、2022年産米では、輸出用米は新市場開拓用米(新市場開拓用の新規需要米)として認定を受けることが可能で、水田リノベーション事業で10アール当たり4万円の助成金が受けられる。ただし、水田リノベーションでは、直播(ちょくはん)栽培など低コスト生産への取り組みが必要で、15項目ある取り組みメニューのうち3つ以上をクリアしなくてはならない。2021年産米は6748ヘクタールが新市場開拓用米として認定を受けたが、ほとんどが輸出用米である。単純にこの面積に同年産米の全国平均の10アール当たりの収量を乗じると、3万6100トンが輸出用米として認定を受けたことになる。
コメ輸出の支援策としては、農林水産物・食品の輸出拡大実行戦略に基づいて「コメ海外市場拡大戦略プロジェクト(略称KKP)」が策定された。これは産地と輸出業者が一体となったマーケットイン(市場の需要主体)型の海外需要開拓を行うというもので、2021年11月末現在で61の戦略的輸出事業者と164の戦略的輸出基地(産地)が取り組んでいる。戦略的輸出事業者の2025年の目標数量合計は12万6000トンになっており、参加事業者にはプロモーションの支援やマッチングの支援も実施されている。その内容については2021年12月13日の盛岡会場を皮切りに仙台、新潟、金沢、名古屋で2022年1月18日まで行われる「輸出米マッチングフェア2021」でも知ることができる。この中では会場での商談会とは別にオンラインセミナーも行われており、これらはいつでも動画で視聴できる。
              

輸出価格を下げる産地生産者組織の取り組み、等級検査をせずに輸出

コメの生産者が新規に輸出用米に取り組もうとする場合、独自に海外マーケットにアクセスするのはかなりハードルが高く、輸出の実務をこなすのも大変になる。したがってまずは自身の所在地の地域農業再生協議会に相談することが手っ取り早いが、どうしても独自に輸出用米に取り組みたい場合は戦略的輸出事業者と商談することになる。現在のような国の支援策が整うまでは、実際にそうした商談を個々の輸出業者と行って海外に輸出して来た事例も多い。

自社で生産したコメを輸出したいと思った場合、最初のハードルが「価格」。輸出に力を入れている大手卸や商社などに取材しても価格がネックになるという答えが必ず返って来る。海外で販売されている日本産米と現地で販売されている現地生産のコメ、もしくは日本以外から輸入されて現地の量販店で販売されているコメの価格はジェトロ(日本貿易振興機構)が調査してWebサイトで公表しているが、だいたい日本米は現地のコメに比べ2倍から3倍、高いものでは5倍以上の販売価格になっている。早くに中国・大連で日本米の販売を始めたある商社は、あまりにも現地のコメに比べ日本米が高かったため全く売れずに破棄しなければならなくなったほどである。その後、上海に店舗を構え、贈答用の差別化商品として販売を始めている。また、大手卸も量販店での販売から企業向けの贈答用品として販売に力を入れ始めている。

価格面での障壁を乗り越えるべく取り組んでいる生産地側として参考になるのが、茨城県下妻市の株式会社百笑市場(ひゃくしょういちば)である。コメの生産者で組織される同社がコメの輸出に取り組み始めたのは2016年からで、その年は60トンであったが2021年産米では1100トンにまで増加の見込み。輸出用米として生産しているコメは、低コストで栽培される業務用米「ほしじるし」の他、F1品種である「ハイブリッドとうごう3号」や「にじのきらめき」といった多収品種。茨城県産米輸出協議会を設立して行政機関の支援を受けているということもあるが、米選別機の網目を1.75ミリでふるって、検査は受けず、等級もない。単位面積当たりの収量を上げ検査コストをかけないなどの工夫をして輸出価格を引き下げる努力をしている。さらにはコメの生産者が自ら海外に出向き、現地の量販店などで試食販売を行い現地の消費者ニーズを自らリサーチする。この生産者自身による海外販売にはのべ50人が参加している。

マーケットインの発想で加工まで

パックご飯
輸出量が伸びている香港、シンガポール向け輸出の事例としては、大手農機具メーカーの子会社が日本から玄米で輸出し、現地で精米して販売している事例が知られている。現地で精米することで精米品質の劣化を防ぎ、日本米の食味の良さをアピールしている。また、現地でおにぎり店舗を展開しているところに輸出している生産者グループは、2021年産で一気に200トンを契約するまでになった。これは宮城県美里町の中埣(なかぞね)地区の4つの農業生産法人が協力して、コロナ下であっても香港の企業と何度もオンライン会議を開催して契約にこぎつけたもの。このプロジェクトを主導した会社は「マーケットインの発想よりさらに進んだユーザーインの発想で取り組んだ」とし、中でもSDGsの取り組みを強調、海外ユーザーにアピールしている。
シンガポール向けに輸出している企業の中には現地で精米するばかりでなく、日本から大量炊飯できる機械を持ち込んで現地で炊飯し、いなり寿司といった最終製品にまで仕上げて現地の食品スーパーに配達しているところもある。いなり寿司は現地の人に人気があることが分かり、製造することにしたものだが、これもユーザーインの発想。

コメ・コメ加工食品の中でも注目されている商品の一つとしてパックご飯がある。海外では炊飯器がないところの方が多く、そうしたところでは完成品ですぐに食べられるパックご飯は輸出用コメ加工品として有望だ。輸出の統計が取られるようになったのは最近だが、確実に伸びている。
現在、コメ輸出拡大のための支援は手厚い。助成金などの支援を上手に活用しつつ、海外のユーザーにアピールするための工夫を盛り込む視点を持つことも重要になってくるだろう。

参考
米の輸出について(農林水産省)

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