「半農半X2.0」を成功させる鍵は「時間」
僕は2010年に新規就農を果たし、それまで続けてきたフリーライターとの「二刀流」を継続しています。おかげさまで農業とライター業のそれぞれから毎年1000万円前後の稼ぎを得ることができ、どちらの仕事も「本業」と言えるようなワークスタイルを実践しています。こうした「農業でも、別の職種でも、しっかりと稼ぎを得られる状態」を、個人的に「半農半X2.0」と呼んでいますが、両方で十分なパフォーマンスを上げるためにはさまざまな工夫が必要でした。
一番のネックとなったのが「時間」です。クライアントの要求を満たす取材や原稿の執筆、お客様に満足してもらえるだけの収穫物をコンスタントに生み出すには、それ相応の時間が必要です。アウトプットの時間だけでなく、より良い成果を引き出すためのインプットの時間も確保しなければなりません。ライターとして、就農以前は年間300冊ほどの読書量を維持し、1年で5~10冊程度の書籍の編集・執筆を行っていた僕にとって、農業の時間を捻出し、効率よく成果を上げる方法をいかに確立するかが一番の課題でした。
どうすればいいのか。悩んだ僕が参考にしたのが「パレートの法則」でした。パレートの法則とは、イタリアの経済学者であるビルフレッド・パレート氏が発見したもので、「80:20の法則」とも言われます。
パレートの法則は、全体の数値の大部分は全体を構成するうちの一部の要素が生み出していることを示しており、「売り上げの8割は、2割の社員が生み出している」といった傾向があることを指しています。身の回りの出来事を改めて思い返してみると、このパレートの法則があてはまると感じることは結構あるはずです。
前述の通り、普段から仕事のためにビジネス書を読み漁っていた僕は、このパレートの法則を知り、自身の仕事を振り返ってみることにしました。そして、「2割の労力で、8割の成果を上げるためのコア部分」に注力して無駄をそぎ落とすことで、効率的に利益を上げようと考えたのです。
注目すべきは「売り上げ」ではなく「利益」と「時間単価」
僕は、農作業の時間を確保するため、まずライターの作業時間について見直しを行いました。
着目したのは、これまで抱えていた取引先ごと、案件ごとの「時間単価」です。それまで20社ほどの企業と仕事をし、レギュラーの案件を多数抱えていたのですが、「売り上げ」に目を奪われ、そこから経費等を差し引いて得られる「利益」や「時間単価」まで冷静に分析できていませんでした。
「時間単価」とは、「1時間あたりどれだけの利益が得られているのか」を意味します。簡単にいえば「時給」のような概念です。ただ、アルバイトやパートなどの時給とは違い、通勤時間などその仕事を行うために要する時間をすべて合算し、その時間で利益額を割って算出したものです。これを取引先ごと、案件ごとに行い、時間あたりの収益性で優劣を付けることにしました。
すると、少ない時間で効率良く利益を上げている仕事がある一方、かなりの時間を要しているにもかかわらず、それほど利益に貢献していない仕事があることが見えてきました。
大きな問題になったのが、実は、売り上げの約5割を占めている主要取引先が、それほど利益に貢献しておらず、全体の時間単価を大幅に下げているという事実でした。
僕は、その取引先からの仕事を断ることにしました。僕のライターとしての労働時間の約8割を占めているにもかかわらず、売り上げは全体の半分にしかならない効率の悪い仕事と判断したからです。
これによってライターの売り上げは一時的にガクンと下がりました。ただ、時間単価を基準に仕事を見直したことで、時間にはかなりの余裕が生まれました。さすがに2割の作業で8割の売り上げを達成するには至っていませんが、数年後には、当時の3~4割の作業量で、7~8割の利益を確保できるようになりました。僕の場合、「時間単価」に着目し、思い切った取捨選択をすることで、農作業の時間を確保することができるようになったのです。
自分なりの「ベストな時間配分」を探る
農業についても、効率の良い時間の使い方を徹底的に考えました。PC作業が中心のライターと農業が違うのは、多くの作業に体力を要するため、作業を長く続ければ続けるほど、パフォーマンスが低下し、成果が逓減しやすいということです。そこで「1日でどれだけ作業をするのが最も効率がいいか」を考えるようにしました。
僕が個人的に導き出した答えは、「農業3時間」「ライター5時間」という時間配分でした。どんな農作物を栽培し、どのような作業を行うかによって差があると思いますが、僕の場合、おおむね3時間を超えたあたりから、作業効率が低下することが見えてきました。
一方で、主に頭を使うライターの仕事では、執筆のための集中力を保てるのは5時間程度だと分かってきました。これを踏まえて1日の時間配分を考えることで、両方の作業で高いパフォーマンスを維持できるようにしたのです。
また、体を動かす農作業をしてから、頭を使うライターの仕事をするのは、効率が悪いことも分かってきました。そこで僕は、毎朝4時ごろに起床し、9時頃まで集中して原稿を執筆し、そこから体を動かす農作業を行うようにしています。
もちろん、これはあくまで僕の例ですから、すべての人に当てはまる答えではないと思います。ただ、2つの仕事から十分な成果を得るためには、僕が取り組んできたように、「時間単価」を意識しながら、ベストな時間配分を試行錯誤して探ることがとても重要だと思います。
リモートでの仕事は、農閑期に最適な「令和版の出稼ぎ」
農業には、忙しく作業をしている「農繁期」と、比較的時間に余裕がある「農閑期」があります。僕が取り組んでいる作物も、8月から9月にかけての1カ月半はほとんど作業がありませんし、定植や収穫の時期以外は、圃場(ほじょう)の見回りなどが中心で、丸一日ずっと作業することはまれです。
別の農家を見学しに行くと、年間の仕事量を確保するため、収益性の高いメインの作物に、収益性の低い別の作物を組み合わせているケースを見かけることがあります。もう一つの事業を持っていれば、こうした収益性の低い作物を切り捨て、別の仕事を集中的に行う時間に充てることができます。僕も、農閑期はライターの仕事を集中的に行う時間に使っています。
昔なら「農閑期の出稼ぎ」と言われたかもしれませんが、今はリモートで地元を離れることなく仕事ができます。いわば「令和版の出稼ぎ」です。現在の出稼ぎは、ITを活用することで「出ず稼ぎ」ができるのが、昔との大きな違いです。
収益性の高い作物だけに特化することで、余剰な設備を持つことなく、集中投資が可能になり、農業の経営効率も高まります。また、農業以外の仕事でしっかり稼ぐことができれば、災害や悪天候などで農業が打撃を受けた時にも生活を維持することができます。収益源を分散することで、安定した経営を実現できるのも大きなメリットです。
農作業中は「頭」や「耳」を活用し、インプットの時間に充てよう
無駄を省いて効率良く農作業ができるようになったら、「二毛作」についても考えてみましょう。農作業の時間は、体を使うことがメインだと思いますが、僕は同時に「頭」も使うことで、Xの部分の成果につなげるように心掛けています。
体を動かしている農作業の時間は、アイデアを練るのに最適だと思います。無心になって作業をしていると、デスクで座っている時には思いつかなかったアイデアが、ふと湧いてくることがあります。僕は、ライター業で考えが行き詰まった時には、あえて農作業をはさみ、頭の中をリフレッシュするようにしています。
電話やメールへの返信も、スマホがあれば畑で十分可能です。オフィスで対応しなければならないという固定観念さえ捨てれば、畑でもできる仕事はいろいろとあります。
また、農作業中に考えたいのが「耳の活用」です。音楽を聴きながらリラックスするというのもいいですが、個人的には仕事のインプットの時間に充てるのがお勧めです。ポッドキャストやボイシーなどの音声メディアを活用し、仕事に必要な情報をまとめて耳から吸収するようにすれば、飛躍的に学習効率が高まります。音声で資格取得の勉強をしてみるのもいいかもしれません。
僕も、畑で音声を聴きながらファイナンシャル・プランニング(FP)技能士の勉強をし、資格を取得しました。机に向かって勉強を続けるのは大変ですが、耳から聞くだけなので負担に感じることも少ないです。家計に必要な知識を学ぶことで、その後の経営にも生かすことができとても有益でした。
体と頭や耳で時間効率を2倍にし、将来の収入につながる知識を得ることは自分に対する投資になります。すぐに直接的な収入につながらなくても、人生が豊かになる時間の使い方としてお勧めです。
今回は僕が実践している時間管理術を紹介しました。
時間を上手に管理した半農半Xで、仕事のパフォーマンスを高めるだけでなく、人生全体を実りあるものにしていきましょう。