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イチゴ農家が語る! 電照栽培のメリットとは?

イチゴ農家が語る! 電照栽培のメリットとは?

農家は日々、高品質な農産物を安定生産するために、さまざまな栽培方法を実践しています。イチゴを栽培するビニールハウスの多くは、冬になると夕方頃から明かりがともり始めます。これは電照栽培と呼ばれ、名前の通り電照設備を利用して成長の促進や抑制を行い、収穫期や収量をコントロールする栽培方法です。宮崎県でイチゴ栽培を手掛ける筆者が、実例を交えながら電照栽培の方法やメリットについて解説します。

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電照栽培が収量増加につながるワケ

昼の長さ(明期)と夜の長さ(暗期)が植物の花芽形成に影響する性質のことを「光周(こうしゅう)性」と呼びます。光周性には「長日(ちょうじつ)性」と「短日(たんじつ)性」の2つがあり、明期が長くなると花をつける植物が「長日植物」、明期が短くなると花をつける植物が「短日植物」です。

イチゴの多くは短日植物であり、短日条件下で花芽が形成されます。イチゴの電照栽培は一般的に、冬季の草勢維持を目的に行われ、長日条件下におき株自体の生育不良を防止することで、収量を安定して確保することができます。

イチゴは花が咲いて実をつけたり、実を肥大させたりするためにたくさんのエネルギーを消費します。エネルギー源は光合成産物。日照不足が続く冬季は光合成が十分に行えず、葉の展開も遅くなります。とはいえ、需要が見込めるクリスマスシーズンやお正月に合わせて収量を確保したい。そこで、電照によって長日条件にすることで、葉の展開を進行させ、葉の面積を増やします。結果、光合成量が増え、収量の増加につながるというわけです。

電照の開始時期

イチゴの電照は開始時期がとても重要と言われています。開始時期が早すぎると徒長し、また花や実を付ける「生殖成長」ではなく、茎や葉を大きくする「栄養成長」に傾きすぎ、実ができず収穫ができない原因になります。

電照の開始時期は気候や地域特性、品種によっても変わりますが、11月上旬から始め、春先2月頃まで実施する農家さんが多いようです。

電照する時間

電照には次の3つの方法があります。いずれの方法も植物に「日(明期)が長い」または「夜(暗期)が短い」と感じさせるためのものです。

1. 日長延長方式
暗くなる夕方頃から3~5時間ほど電照を行う方法。イチゴはこの方式で栽培されることが多く、農家さんによっては明るくなる時間から逆算して早朝に3~5時間くらい電照する人もいます。ちなみに当イチゴ農園では早朝から1~4時間を目安に、株の様子を見ながら調整します。早朝にすることで早朝収穫時のライト代わりとして併用できるからです。

2. 光中断(暗期中断)方式
夜間の適当な時に2〜4時間くらい電照し、夜を2分割する方法。

3. 間欠電照方式
夜間の1時間ごとに1回、数分間電照を行い、それ以外は消灯する方法。

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当農園の電照スイッチ。青いダイヤルで調整してタイマー設定をします

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電照設備の設置方法

当農園では、ビニールハウス内、地上120~150センチの高さに配線を引き、数メートル間隔で電照設備を設置しています。

イチゴ栽培で使用する電球には「白熱電球」「蛍光電球」「LED電球」の3つのタイプがあり、価格は前者から順に高くなります。農業用のLED電球は1個数千円するので、予算に応じて選ぶとよいでしょう。

ちなみに当イチゴ農園のビニールハウスは作付け面積10アールに対し、17ワットの蛍光電球を50個使用しています。近所の養鶏農家さんがLED電球に変える際におさがりを譲り受けました。さまざまな品種のイチゴを栽培していますが「さがほのか」という品種でのみ電照を使っています。また、平均的な電球数よりも、約半分におさえています。理由は徒長する苗が好みではないため、じんわりと電照が効くようにしたいからです。

さらに、最近の研究では太陽光の可視光線の種類(紫・青・緑・赤など)によって作物に与える影響が異なるということがわかってきました。発芽・成長・花芽形成といった成長の時期によって、どのような光の強さや波長が良い効果をもたらすのかが明らかになれば、さらに作物の品質や収量を向上させることができる未来が待っているでしょう。

イチゴの安定した収量を確保するために、電照は必要不可欠といっても過言ではありません。品種特性や気候に合わせて電照を調整することは、農家さんそれぞれの腕の見せ所になりそうですね。

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