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アイデアマンの4代目が「コメのカスタマイズ」で特許取得! 徹底的に消費者目線のコメの売り方

kumano_takafumi

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アイデアマンの4代目が「コメのカスタマイズ」で特許取得! 徹底的に消費者目線のコメの売り方

福島県本宮市の御稲(みいね)プライマル株式会社が手掛けているのは、「用途に合わせたコメ」だ。その商品の名前は「カスタム米」。徹底した品質管理と需要に合わせた売り方で、自社だけでなく地域の他の農家のコメも売る。SNSやクラウドファンディングを駆使して広報、加工品も販売する。数々のアイデアと実行力で突き進む若き社長が思い描く地域の農業の未来とは。

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社名は「イネは敬い大切にすべきもの、命の根源」という思いから

御稲プライマルとは変わった社名だが、イネを敬い大切にすべきものとして「御稲」、そして食は命の根源であることから「主要な」という意味で「プライマル」と名付けている。同社を経営する後藤家が本宮市でコメ作りをはじめたのは1904(明治37)年で100年以上の歴史がある。現社長の後藤正人(ごとう・まさと)さんは4代目。

御稲プライマルの役職員。上列右から3番目が社長の後藤正人さん

現在同社ではコシヒカリを中心に数種類の品種を40ヘクタールほど作付けしているが、極早生(ごくわせ)種の「五百川(ごひゃくがわ)」を栽培している圃場(ほじょう)で珍しいことが起きた。五百川はコシヒカリに比べ出穂が2~3週間早いのだが、その中からさらに早く出穂する突然変異の稲が見つかったのだ。後藤さんによると、この突然変異の極早生種はお盆前に収穫ができるという事で、実際2021年には8月12日に収穫が行われた。後藤さんはこの稲を選別して五百川の育種権利者と一緒に本宮市のオリジナル品種にしようと考えている。この新たな品種が広まれば、福島県は東北で最も早い“早場米”産地になるかもしれない。五百川より早い変異種が後藤さんの圃場から見つかったのは偶然だが、本宮市でのコメ作りが他とは違うという後藤さんの思いが稲にも伝わったのかもしれない。

細分化されたトレーサビリティーで消費者の要望に応える

同社では、自社で生産したコメだけでなく、周辺農家のコメを集荷して販売するという事業も行っている。この集荷販売事業には特色がある。
まず本宮市を5つの地区に分け、それぞれの地区を5色に色分けして玄米袋にラベルを貼っている。これは同じ本宮市で生産されるコシヒカリであっても地区によって食味・品質が違うからで、どの地区で生産されたものか分かるようにするためである。さらに同じ地区でも生産者によって栽培方法が違うため、30キロの玄米袋を50袋ずつパレットに積んで、パレットごとの玄米水分や食味を検査するという事まで行っている。そうして記録された食味データや品位データに加え、玄米袋ごとにシリアルナンバーを添付することで、独自の管理体制を構築している。

色分けされた圃場とトレーサビリティデータ

シリアルナンバーで管理されたパレットは50パレットを超えるほどになるが、後藤さんは「我々が扱うコメはパレットの数だけ品種がある」と言う。実際、地元の消費者からも色指定された地区のコメを欲しいという注文も来るようになっており、細分化されたトレーサビリティーによって、より適切に消費者の要望に応えることができると考えている。

コメのパレット管理のイメージ

そうした考えのもとでたどり着いたのが「カスタム米」である。

販売先の好みに合わせる「カスタム米」

カスタム米とは「消費者、ユーザーの好みに合わせて調合したコメ」のことで、いわばブレンド米。同社では寿司用やカレー用など用途に合わせてコメをブレンドしている。さらには健康志向に応えてGABAを多く含んだコメなど、それぞれのコメの品質や食味、食べた感じ(歯応えや舌触り)などを計測するために、ごはんの成分からおいしさを測定する食味分析計や食感を計測するテンシプレッサーなどさまざまな機器をそろえてデータ分析している。驚くことにこのカスタム米を調合する「ブレンド米調合支援システム」は特許を取得している。

消費者が「弾力」「香り」「甘み」「粘り」の好みを5段階評価で注文すると、同社でその好みに合わせたコメをブレンドして届けてくれる。この他、独自に「さっぱり米」「黄金バランス米」「しっかり米」と表現したコメも提供できるようになっている。いわばオーダーメイドのブランド米だが、一般消費者や外食店だけでなく、食品メーカーの要望を受けてカレー専用のコメとカレーをセットにしたコラボ商品も手掛けている。

品質分析室の各種検査機器

消費者の協力を得て産地づくり、クラウドファンティングを活用

コロナ禍による緊急事態宣言などの影響で、同社がコメを提供していた外食店などが営業休止や時短営業になった。使用量が落ち込んだうえにコメ余りによる価格競争の激化で採算は悪化。そこで同社はコロナ禍でも販路が築けるビジネスに乗り出した。それはインスタグラムを使ったネット上での情報発信による販売強化。コロナ前からみそ造りを紹介するなどしていたが、コロナ後はそれ以外でも田んぼの情報やイベントなどを紹介するうちにフォロワーが3000人を超えるまでになった。
さらに昨年から自社のファンづくりのために「カスタ米(マイ)ズアンバサダー」を募った。アンバサダーになってもらうことを条件に自社のコメを送るという方法で募ったところ53人が参加を申し込み、その中から12人を選んだ。全員にネット上で「ウチにおいしいコメが届きました」「プライマルさんからおにぎり専用米が届いたのでおにぎりを作ってみました」といった、同社のコメを使った料理などの情報を発信してもらう。アンバサダーの中には1万人ものフォロワーがいる人もおり、その宣伝効果は大きい。

カスタ米ズアンバサダーの協力を得て自社のコメを認知してもらう活動に取り組んでいるのは一般消費者に買ってもらうためでもあるが、もう一つ大きな目的がある。それは「クラウドファンディングをはじめる前に話題を提供する仕掛け作り」(後藤さん)だった。

コメを原料にした発酵食品「さごはち」

最初は2021年3月に「さごはち」をテーマとしたクラウドファンディングを開始した。さごはちは東北地方のコメの発酵食品で、塩3:糀(こうじ)5:蒸米8の割合で混ぜ合わせたもの。福島県では古くからこのさごはちで野菜を浅漬けして食べる。同社では生産したコメを使ってさごはちを製造しているのだが、さごはちという食品自体が全国の人にはほとんど知られていない。そこで「東北の優れた発酵食品を次世代に残したい」という切り口で支援者を募ったところ、200万円を超える資金が集まった。
続いて同年7月にはカスタム米のクラウドファンディングを実施、カスタ米ズアンバサダーを集めてネット上で座談会を行うなどして認知を広めた。

地域で大規模農業を実現するためのアイデアを

後藤さんは次々に出てくるアイデアを実行に移し、コメの魅力を発信し、新しい用途も示し、一般消費者のファンづくりにいそしんでいる。その根底には地域のコミュニティーを大切にして地元を元気にしたいという思いがある。本宮市も他の地区と同様、高齢化による離農が進み、農地を担うために大規模化が避けられなくなっている。しかし、規模を拡大するためには設備などの投資資金も必要になる。そこで一番必要なことは、農産物をいかに効率的かつ継続的に作っていけるかという問題。現在は一軒一軒の農家がコメ作り以外に野菜や果樹を栽培している地域も多く、これではなかなか生産効率が上がらない。であれば、コメを一貫体制で生産・販売する組織を立ち上げ、野菜や果樹はそれに特化して生産してもらうという分業体制も必要ではないかと考えている。
そうした組織を具体的にどうするのかはまだ検討中だが、後藤さんは協同組合組織より株式会社組織の方が良いのではないかと考えている。それはなによりも意思決定のスピードを重視しているからに他ならない。

後藤さんは将来の地域農業の展望として、次のようなビジョンを持っている。

  1. 共通パッケージ、商品規格など統一ブランドを形成し、イメージを向上させる
  2. 組織名で補助金申請(農地維持、機械購入)を行うことで、公共性などが評価され採択率が高くなる
  3. 会員間における人材のシェアリングで雇用負担を減らす。一般作業、オペレーター、事務を想定
  4. 提携農場の拡充、商品ラインアップの充実化による営業力強化
  5. 流通ネットワークを構築し、競争力を高める。海外への輸出を行う

地域農業を活性化して産業としての基盤を確立するための同社の取り組みは、多くの農業者の参考になるに違いない。

画像提供:御稲プライマル株式会社

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