ドローン講習費用は1人25万! 大規模農家の人手不足対策
茨城県西南部、埼玉と千葉との県境にある五霞町の農業法人、有限会社シャリー。白米を指す「シャリ」からとった社名のとおりコメ、中でも業務用米を主力作物とする大規模農家だ。水田80ヘクタールのほか、サツマイモ10ヘクタールを作付けしている。同社は栽培から販売まで先進的なシステムを導入し経営の工夫をしているが、人手不足であるのは他の農家と同じ。そこで新たな取り組みとして、2019年からドローンにより種子を圃場に直接まく水稲直播を始めた。
栽培方法別の作付面積は一般的な移植(育苗して田植え)が55ヘクタール、ドローンによる直播が20ヘクタール、残り5ヘクタールでブロードキャスター(散布機)を用いた直播をテスト的に実践した。
ドローンを操作する技術を習得するために同社では2人が民間資格を取得。航空法や農薬取締法の講義など5日間コースで1人25万円ほどの経費が掛かった。
直播する圃場は40カ所にも。軽トラをドローン専用に改良
2021年産米を播種(はしゅ)した時に使用していたのは中国のドローンメーカーDJI社製の「AGRAS(アグラス) MG-1」という型式のドローンで、1回に積める種子の量は約10キロである。同社では10アール当たり5~6キロの種子をまくようにしているので、約20アールほどを1回の飛行でまける。
播種現場にはドローン専用に改良した軽トラックにドローンとバッテリー、種子、除草剤とを積み込んで運ぶ。これは播種する圃場(ほじょう)が約40カ所も点在しているからだ。効率よく播種するために、フォークリフトでドローン播種セット一式を積み降ろしできるように改良、作業効率をアップさせた。
圃場に到着するとドローンを操作する吉原徹(よしはら・とおる)さんがトラックから傾斜板を引き出し、滑り台のようにドローンを降ろし、すぐに播種箱に種子を入れる。この播種箱は肥料や除草剤をまく時にも使用する散布器で、種子をまく時には傾斜が付くように工夫してある。使用するAGRAS MG-1には障害物センサーが付いており、自律航行できるようになっている。圃場の四隅をGPSでドローンに認識させると、あとは自動で播種できる。センサーが電線などの障害物を感知すると、警戒音を出して自動で止まり、空中でホバリングする。こうした安全装置が付いているため「今まで接触事故は一度も起きていない」と同社専務の鈴木哲行(すずき・てつゆき)さんは言う。
約1反(10アール)の圃場では、ドローンを起動して播種し始めてから終わるまでの時間はわずか5分。今度は除草剤を搭載箱に入れてまき、全ての作業が終わる時間は15分ほどであった。ドローン導入による時短と省力化の効果は明らかだった。
圃場面積が広い同社では移植と直播を併用しているが、それでも作業期間は4月末から5月の終わりまで1カ月余り。より高い効率化を急ぐ鈴木さんは、今年ブロードキャスターを使用した直播にもチャレンジした。ブロードキャスターは一度に300キロ積めることが魅力。
2021年産は農研機構が育種した品種「にじのきらめき」を直播したが、収量は1反(10アール)当たり約9俵(540キロ)だった。移植に比べそれほど収量が落ちなかったことから、ドローンやブロードキャスターによる直播面積をさらに拡大する計画だ。
ドローン直播のためのさまざまな工夫も
ドローンでまく種子にも工夫が必要だ。同社は以前、鉄コーティングした種子をラジコンヘリでまいていた。鉄コーティングする理由は鳥による食害防止のためだが、鉄は酸化する過程で発熱するため、コーティングの段階で種子を燃やしてしまったという事故があった。現在は発芽した種子を黒顔料や消石灰を用いてコーティングする「鉄黒コート」という技術を用いてコーティングしている。鉄黒コートは鳥害を防ぐとともに、鉄によるドローンの誤作動を防ぐという役割も果たす。
ただ、ドローンにも弱点はある。一つは風が強い時は使用できないことで、風速5メートル以上では飛ばせない。鈴木さんによると「この地域では午後にかけて風が強くなることが多い」とのことで、まだ風が弱い朝早い時間に作業する必要がある。
もう一つの弱点は、やはり1回の飛行時間で10キロしか種子を積めないという作業効率の悪さ。そこで同社では今年もっと積載量の多い「AGRAS T30」という型式のドローンを購入予定だ。積載量は40キロで、かつ排出開口部が3カ所あり、散布幅が7.5メートルあるためMG-1に比べ4倍の能力があるという。購入価格はバッテリーなど装備一式で250万円程度になるが、苗づくりなど移植栽培に比べるとドローンによる直播の方が格段に作業が省力化できることに最大の魅力を感じているそうだ。
ドローン直播は中山間地域での水稲栽培の省力化をかなえる可能性あり
技術革新により日進月歩で性能が増しているドローンは水田作においてもさまざまな用途で使用されるようになっている。アメリカのように広大な平坦(へいたん)地で集積される農地があれば飛行機でも播種できるが、日本の農地の多くは小規模面積でかつ分散している。特に中山間地は傾斜面の水田が多く、機械による省力化が難しい。その点、ドローンであれば傾斜地でかつ小さな面積であっても播種や肥料・農薬散布が可能で、日本の水田に向いているとも言え、今後、請負耕作会社などがドローンを使った播種や肥料・農薬散布を行うシーンが多く見られるようになると予想される。