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「何もない」ことを逆手に取った作戦!? 中山間地域とドローンの新しい関係

伊藤 雄大

ライター:

連載企画:凄い!農家のアイデア集

「何もない」ことを逆手に取った作戦!? 中山間地域とドローンの新しい関係

大阪の里山として有名な中山間地域・能勢町に西日本最大級のドローンフィールドがあります。なぜ、ここに広大なフィールドができたのか。また、平野での活用が多いドローンをどのようにして中山間地で利用していくのか。フィールドを運営する「ふるさと創生研究開発機構」に実情を聞きました。

中山間地に西日本最大級のドローンフィールド

1_ふるさと創生研究開発機構

ふるさと創生研究開発機構のみなさん

大阪府能勢町は大都市・大阪市内から車で1時間ほどしか離れていない都市近郊の里山。じつはここには、ドローン関係者界隈で有名な西日本最大級の飛行訓練フィールドがあります。

「きっかけのひとつは、能勢町が『消滅可能性都市』に挙げられたことでした」と、このドローンフィールドを運営する「ふるさと創生研究開発機構」代表取締役の柚木健(ゆのき・たけし)さん。

それを受け、地域活性化の気運が高まるなか、大阪府立総合青少年野外活動センターの跡地を利用した11万8000平方メートルのドローンフィールドを開場。航空法の規制があって大都市圏ではドローンを飛ばせませんが、大阪市内から近くても山林に囲まれた能勢町ならそれが可能。いわば「何もない」ことを逆手に取ったこの作戦が功を奏し、現在はドローンの操縦練習場のみならず、新たに開発されたドローンの試運転や実地検証を行う場として関西一円を中心に、遠方からも利用者が集まるそうです。

鳥獣害対策としてドローンができること、できないこと

2_暗視カメラにうつるシカ

ドローンで撮影した、田んぼを歩くシカ

じつは、筆者が柚木さんたちの取り組みを知ったのは地元猟友会の定期集会でのことでした。
その時に披露されたのがドローンで上空から撮影した、田畑に侵入するシカやイノシシなど有害鳥獣の姿。

撮影用ドローンには、温度の違いを色分けしサーモグラフィーとして映し出す赤外線カメラなどが搭載されています。真っ暗ななかでも鮮明に映るケモノたちの映像に、猟友会の面々も興味津々の様子でした(映像はページ最下部に掲載)。

3_赤外線カメラにうつるシカ

サーモグラフィーではこのように動物だけ赤くなり、とてもわかりやすい

4_カメラにうつるシカの群れ

中央に映る白いものがシカ。山の中にいても、はっきりと見える

「猟友会でお見せしたのには、こうした映像を、どのように実用的に使うことができるかという相談の意味もありました」と、マルチコプター事業部長の大石善一(おおいし・よしかず)さん。

大石さんたちは実験的に町内でドローンを使った農業現場での活用を行っていますが、中山間地で悩みのタネとなっている鳥獣害対策にもドローンを役立てられないか、という思いがあります。
画期的な活用方法は、正直なところまだ模索中。研究機関ではさまざまな活用方法が試験中となっていますが、「ドローンで動物を追い払うのは効果が一時的だろうし、自動で箱わなの見回りはできないこともないが、箱わなに取り付ける無線センサーが安価で買えるご時世にわざわざドローンでやる必要があるだろうか」と懐疑的な様子です。

この映像を撮影した同事業部の中植重治(なかうえ・しげはる)さんは「夜の動物の姿から、ふだんはわかりにくい侵入路が判明することがあります。その部分にビニールテープなどで目印をつけておき、農家に教えてあげる。この山に、どういうサイズの個体がどれくらいいるかもよくわかります。今の段階では、こういうことしかできないんですが……」と言います。「ただし、夜の動物の意外な姿を猟師さんに見せると、意欲が高まるんです」と付け加えます。

5_授乳するイノシシ

くつろぎながら授乳するイノシシの群れ

監視用のセンサーカメラだけでは捉えられない、夜の動物たちが活発に動き回る姿。獲物の存在や息遣いを映像を通じて感じられることで、狩猟意欲が増す。これは案外、大事なことなのかもしれません。

中山間地の農業への活用法

鳥獣害対策への活用はまだ模索中ですが、稲作への活用は中山間地である能勢町でももうすでに始まっています。

水稲直播(ちょくはん)の請負

2021年に、新たに始めたのがドローンによる「水稲直播」の実証実験。「じかまき」といえば大きな田んぼを省力化する技術のように感じられますが、田んぼの1区画が10〜20アールと狭い能勢町でも、人手不足の影響からか、導入を考えている人がいるそうです。

「播種(はしゅ)には、10アール5分もかかりません」と大石さん。それでいて、他の機械よりもかなり精度が高く、播種ムラができにくい。2021年は、移植の水稲と遜色のない収量があったそうです。

イネの農薬散布作業の請負

水稲のカメムシ防除は事業としてすでに行っており、昨年は約16ヘクタールの防除を請け負ったそうです。料金は農薬代込みで10アール3000円。

「小さなドローンで、あの重いタンクが果たして運べるのか?」と思いましたが、通常は希釈率2000倍などでまくところ、ドローンで農薬散布する場合は「空中散布」として希釈率8倍などの高濃度で登録されているため、10リットル容量のタンクがあれば十分なのだそうです。

果樹の防除にも可能性が

6_色分け用ドローン

映像を各色データにわけて撮影するドローン。これで撮影した映像を分析すると、葉色の濃淡が見分けられる

農薬散布は能勢町特産の栗でも大活躍するかもしれません。

栗の担い手は高齢化しているうえ、急傾斜の畑も多く、農協に農薬散布を頼む人も年々増えています。また、剪定(せんてい)していない園では栗が5メートルの巨木にもなっています。こうなると、地上から動力散布機だけでは満遍なく散布するのが難しいうえ、飛沫(ひまつ)が上空の風に乗りやすく、広範囲に飛散する危険性も高まります。

栗でも「マブリック水和剤(フルバリネート水和剤)」「フェニックスフロアブル(フルベンジアミド水和剤)」など主要な害虫に効く薬剤が「空中散布」で登録済み。

ドローンなら、どんな傾斜地であろうが問題なく散布できるうえ、正確。また、最新の機能を使えば病害虫に侵された場所を葉色などで検知し、スポット散布なんてこともできるようです。

農業以外でも、たとえば、中山間地で増えてきたソーラーパネルの検査にも使えます。ソーラーパネルの不良は肉眼ではわかりにくいですが、赤外線カメラのサーモグラフィーを使えば一目瞭然。

ドローンといえば北海道などの広い場所で使うイメージがありましたが、アイデア次第では中山間地の暮らしに役立つ「農具」になっていくのかもしれません。

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