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「このままだと衰退する」中山間地域の危機が生んだ魂のレンコン

「このままだと衰退する」中山間地域の危機が生んだ魂のレンコン

地域や農業を再生させようと、先代とは異なる方法で挑戦をする農家がいます。千葉県長生郡でレンコンを栽培する金坂哲宏(かねさか・あきひろ)さんは、地域で問題視されている放置竹林に着目し、竹チップを使った独自の栽培方法を始めています。
レンコンの育種家として農林水産大臣賞を受賞した父の急逝から10年、金坂さんの目には今、何が見えているのでしょうか。

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亡き父の背中を追いかけて就農

――金坂さんは前職でシステム関係のお仕事をされていたそうですね。農業を継ぐ予定ではなかったのでしょうか。

全く考えていませんでした。プログラミングに興味があって専門学校で情報処理を学び、都内のIT関連企業に入社しました。定年まで働くものだと思っていたのですが、配属先でうまくいかずに2年で会社を辞めました。そこから立ち直れず、3年間仕事もせずに部屋にこもってネットゲームをしていました。

――3年も!その間、農家になるという気持ちにはならなかったんですよね……?

はい、人生を諦めていましたから。それに、農業をするということは、レンコンの世界に入ることになります。父は生産者でありながら関東地方の栽培の7割を占める「金澄(かなすみ)系品種」を開発した育種家でもあり、「金澄20号」は今でも全国に普及している品種です。レンコン業界では知らない人はいないような存在の父親でしたので、業界に入ったら父に迷惑はかけられません。前職のように、「出来ないから辞めます」なんてことも通用しない。そう考えると、農家になる気持ちは起こりませんでした。

――「継いで欲しい」とは言われなかったんですか?

私が引きこもっていた時に、一度だけ父がマンションを訪ねて来ましたね。私は玄関のドアを開けることができませんでした。その時ドアの向こうから「レンコンの作り方、教えてやるぞ」って。その時だけです。

――金坂さんは何と?

「結構です」と(笑)。あの時は色んなものを拒絶していましたし、父が突然いなくなるなんて思ってもいませんでした。今思えば後悔しています。

――お父さまが亡くなられて、始めて就農を決意したんですね。

父の葬儀の時もまだ迷いはありました。農業をやりたいとも思えませんでした。
ただ、父が残した畑やレンコンを無くしたくないという気持ちがあって、絶対に辞めない覚悟で就農を決意しました。
父がレンコンの生育途中で亡くなったので、収穫まで待ったなしという状況も後押ししたと思います。急遽茨城のレンコン農家さんに40日間研修をさせていただいて、何とか収穫に間に合いました。
こうした経緯で就農したので、私は父が何を考え、どんな栽培をしていたのかを知りません。あまり話してこなかった父の存在を知りたくて、就農した部分もありますね。

ゲーム仲間が命名!新ブランド“金坂蓮魂”

――金坂さんが継いでから、栽培方法も販路も変えたそうですね。何故でしょうか。

父はレンコンの販売以外に育種家として種レンコンも売っていましたが、私にはそれが出来ません。また、素人なので収量も父には敵いません。何処にどう売っていくかを考えないといけないと思いました。
そこで一旦市場出荷を止めて、直売所やレストランとの直接取引、スーパーに直接売り込みに切り替えました。昨年はカナダへの輸出も試みました。

また、就農してみて中山間地域は平野部と同じやり方では競争力で勝てないと感じました。地域の農家が高齢化し、町の人口も減るなかで「従来のやり方を続けていたら衰退する」という危機感を覚えました。
何とか品質で勝負できないかと考え、地域で問題視されている放置竹林に着目しました。山の資源をうまく利用できないかと考えたんです。そして農家の方から話を聞いたり文献を読んでたどりついたのが、竹チップ栽培です。チップ状の竹を蒔いて土壌肥沃度を一定まで上げ、微生物を活用して蓮が本来持っている力で育てる栽培方法を考え、現在実践しています。

チップ状にした竹を蒔く

――あとは独自の品質をどうブランディングしていくか、ですね。

そうです。まずはインパクトのある商品名を付けたいと思い、ネットゲーム仲間に付けてもらった「金坂蓮魂」で商標登録しました。
ちょっと変わったネーミングで、スーパーや輸出先などで手応えを感じています。
もう一つはレンコンをどうプレゼンするかです。レンコンの食味は、シャキシャキ感とモチモチ感で大きく分かれ、実は品種もたくさんあります。
ですが、スーパーでは「レンコン」としか表記されておらず、品種や食感の違いを比較する余地はありません。
そこで、販売先との交渉の際は、「金坂蓮魂」の味をいかしたレシピや調理法を伝えながら売り込むことにしています。

――農家になりたくなかったとは思えない程、いきいきされていますね。

就農した当初は自分の特性が分からなかったのですが、農業をしていく中で自分の好きなことや苦手なことが分かるようになり、素直に受け入れられるようになりました。
私は、父や周りの農家の先輩方に比べると現場能力が低いし、そこを頑張り切れない。その分、栽培技術の研究や販売先の開拓、価格交渉することで補おうと思っています。

最近では、若手農業者クラブの千葉県組織「ちばアグリネットワーク」の会長も務めさせていただいています。全国の面白い農家と交流しながら、長南町の農業、千葉の農業をどう盛り上げていくかを考えることも楽しいです。

――今後の金坂蓮魂の展開が楽しみです!ありがとうございました!

【参考リンク】
全国農業者青年クラブ(日本4Hクラブ)

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