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「踏み込み温床」で夏野菜の育苗! 落ち葉の発酵熱を利用するエコな方法

「踏み込み温床」で夏野菜の育苗! 落ち葉の発酵熱を利用するエコな方法

春先になると、トマト・キュウリ・ナス・ピーマン・カボチャなど夏野菜の播種(はしゅ)や育苗が始まります。関東地方の平野部など温暖な地域では、2月下旬〜3月上旬に播種・育苗を開始する農家が多いのですが、気温が低い日も少なくないので、芽や苗が寒さにやられてしまう可能性があります。そこで今回は、昔ながらの「踏み込み温床」をご紹介します。

温床で夏野菜の育苗を早める!

多くの夏野菜の発芽温度は低くても15度、20〜30度を保つのが理想的です。そのため、本来なら日本の温暖な地域での播種は4月下旬から5月上旬あたりとなります。大玉トマトの例でみると、そこから種をまき、苗を育てて定植し、収穫が7月下旬からになるので、1カ月半〜2カ月の収穫期間となります。

夏野菜の栽培を前倒しするには、播種・育苗を早めるという方法があります。そのため、多くの農家では2月下旬から3月に「温床」を利用して発芽させ、育苗を行います。温床は、ホットカーペットを連想すれば分かりやすいです。それによって、大玉トマトは6月下旬あたりから収穫でき、収穫期は1カ月ほど延びます。

夏野菜(トマト)

夏野菜の収穫期は比較的短い

「電熱温床」を使えば、地表(床)の温度を上げるのは難しくありません。電熱温床は、電熱線を土中に張り、通電させることにより温めます。さらに「サーモスタット」という機器を使用すれば、温度を一定に保つことも可能です。もちろん電気が必要なので、使用期間中に電気代がかかります。

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「踏み込み温床」とは

今回ご紹介する「踏み込み温床」は、落ち葉などが発酵する際の「発酵熱」を利用する温床です。菌や細菌が有機物を分解する時に出る熱を利用するもので、自然界の循環システムの一部を応用していると言えます。

これは“先人の知恵”であり、大正時代には取り入れられていた農業技術です。電気代などのコストはかからず、発酵を終えた落ち葉は腐葉土・培養土として育苗土などに利用できるというメリットも。ただし落ち葉を集める必要があるので、畑の場所によっては労力を必要とします。

落ち葉

踏み込み温床に使用する落ち葉

踏み込み温床の作り方

今回取材した埼玉県所沢市の安藤農園の安藤文人(あんどう・ふみひと)さんは、暖房設備のない農業用ハウス内に、1.3×1.8メートル(約0.7坪)・高さ約30センチほどの踏み込み温床を4つ設置しています。合計約2.8坪に発芽用の72穴のセルトレイを最大40枚敷き詰めることができます。発芽後、状態の良いものを選びポットに移して育苗を行う時も、適宜温床を利用します。

安藤農園・安藤さん

所沢市・安藤農園の安藤さん

安藤さんは7年前から踏み込み温床を利用しており、例年2月下旬に温床の準備をして、夏野菜の播種・育苗を始めます。

米ぬか

踏み込み温床に米ぬかをまいているところ

必要なもの

踏み込み温床1つ(約0.7坪)に必要な落ち葉・米ぬかは以下のようになります。

  • 落ち葉:20~30キロ(おおまかな目安です)
  • 米ぬか:約30キロ
  • 水:約100リットル(温床に含ませる水分)
  • 温床の壁面用の材料:温床の大きさに合わせて準備(くい用の木材や竹、壁用の平板・束ねた稲わら・古畳・断熱パネルなどお好みで)
  • 水をまくためのじょうろ(大きめのものが便利)
  • 温度計(温床の温度が計測できるもの)
  • 農業用保温シート(ホットンカバーなどの発泡シート、または毛布などでもOK)

安藤さんの場合、落ち葉は所沢市東部クリーンセンター(ごみ処理施設)の敷地内で掃き集めているものを譲ってもらい、米ぬかは近隣の富士見市の米農家で購入しています。そのほか壁面用にはベニヤ合板、農業用保温シートには耐候性のある透明フィルムでテトロン綿をはさんでいるものを購入し、繰り返し使用しています。

温度計とカバー

温床で使用する温度計。足元には農業用保温シート

設置の方法

踏み込み温床を作る方法は容易で、1坪程度の広さなら数時間で設置できるでしょう。ただし、囲いの作り方次第では半日程度かかるかもしれません。

①温床の場所を確保する
温床を作るスペースの土をならし、おおむね水平にします。

②囲いを作る
木のくいや板で温床になる部分を囲います。木材や竹などで枠を作り、束ねた稲わらで内側を覆って壁面にする方法、古畳や断熱パネルを使う方法などさまざまなやり方があり、落ち葉がもれない程度の仕切りになればOKです。

③落ち葉を入れて踏み込む
囲いの中に、落ち葉を15センチくらいの高さまで敷き詰めます。落ち葉を全体にならしながら足で踏み込んで、およそ半分の7〜8センチくらいの高さにします。安藤さんの温床は高さ約30センチなので、初めに半分くらいまで落ち葉を入れ、踏み込んでその半分くらいになる高さにしました。高さは目安であり、踏み込みすぎて硬くなりすぎないようにするのが大切です。

④踏み込みながら米ぬか・水をまく
落ち葉の発酵を促すために、米ぬか、その後に水をまきます。米ぬかと水分はできるだけ均等になるように注意しましょう。米ぬかの量が片寄っていると、発酵がうまくいかないことがあります。
※ 米ぬかではなく、鶏ふんなど家畜のふんや、ぼかし肥料などをミックスする方法もあります。

⑤上記③④を繰り返す
1回目は落ち葉を多めに(15センチくらい)入れましたが、2回目以降はその半分くらいの量(7〜8センチ)にして、③④の工程を繰り返します。安藤さんの温床の場合、6〜8回で上まで落ち葉が満たされた状態になります。踏み込んだ落ち葉全体がだいたい水平になっていればOKです。温床が完成したら、温度計も設置しておきます。

完成した温床

完成した踏み込み温床(130×180×高さ30センチ)

順調に発酵が進めば3〜4日後には温度が上がってくるので、毎日温度計を確認してください。また2日目以降も適度な水分を保つようにしたいので、見た目、または手で触った感じで「乾燥してきた」と感じたら、じょうろなどで水を上からかけます。さらに朝晩の気温が低くて温床の温度が下がってしまうようであれば、保温シートを活用します。
約8日間は温度が上がり続ける温度上昇期、9〜20日目くらいまでは安定期、21〜30日目くらいまでが減衰期で、その後2次発酵により再びわずかに温度が上昇します。しかし温床の環境や発酵の状況により異なってくるので、これは目安としておくべきです。

失敗しないための注意点

発酵熱に関する学術雑誌の論文によると、望ましいC/N比(炭素と窒素の比率)などが研究結果として導かれていますが、C/N比を計測する機器は一般的ではなく、日々農作業を行っている人が、絶えず温床の管理に集中するのは現実的ではないでしょう。

安藤さんによると「何度かやってみるとコツがつかめる」そうなので、そのコツを教えてもらいました。

  • 米ぬかなど発酵を促すための有機物を入れすぎない
  • 米ぬかや水分が、片寄らないように注意する
  • 常に湿った感じを保っているのに温床の温度が上がらないときは換気をしてみる(ハウスやトンネルの場合)
  • 特に朝晩は保温シートを活用し、温床の温度を保つようにする
  • 温床の温度が下がってしまったら、切り返してみる
温床に発芽トレイ

温床の上で夏野菜の芽が順調に出ている様子

安藤さんは温床を利用し始めた頃、保温用のカバー(当時は毛布)の掛け方が適切ではなく、夜間に温床の温度が下がってしまったり、芽や苗が徒長してしまったりという経験もあったそうです。徒長の原因はおおむね日光不足とのことなので、温床で苗を加温している間も、苗に十分日光が当たっているか注意するとよいでしょう。

使用した落ち葉は腐葉土・培養土に

安藤さんは、育苗が終了した踏み込み温床の落ち葉を野積みにして、それが数年経ち土状になったら、赤玉土・もみ殻燻炭(くんたん)・バーミキュライトを混ぜて、その後の育苗に使う「培養土」にします。

土状になった落ち葉

数年前の落ち葉は土状になっている

踏み込み温床で使用した落ち葉は、手作りの「腐葉土」としても使えます。腐葉土や培養土については、以下の記事で詳しく知ることができます。

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まとめ:エコな温床に挑戦してみませんか?

今回はトマトやキュウリ、ナスなどの夏野菜の栽培を早めるために、昔ながらの「踏み込み温床」を利用する方法をご紹介しました。

落ち葉に米ぬかと水を加え、落ち葉の発酵熱で床面の温度を上昇させ、夏野菜の発芽や育苗を寒さから守るもので、電気や石油などを必要としません。そのため、エコな温床とも言えます。

踏み込み温床の設置方法は難しくないのですが、失敗しないためにはいくつか注意することがあります。さらに、完成後の管理も大切です。また、温床に使用した落ち葉は、さらに発酵させて腐葉土や培養土として使えるというメリットもあります。

多品種の野菜を栽培する農家にとって、野菜の中でも人気があるトマトやキュウリの収穫期間が延びるということは、収入増にもつながるのでプラスになる話です。興味ある人はぜひチャレンジしてみてください!

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