滋賀県の林業需要は右肩上がり。新たな担い手育成が急務
「人工林が伐採適期を迎えている他、近年は大型台風などの自然災害も多く、強風によって発生した風倒木の処理や放置された森林の対策、『びわ湖材』としてブランディングを図る県産木材の地産地消の推進など、滋賀県における森林・林業の事業量は更なる増加が予想されています」と教えてくれたのは、滋賀県 森林政策課の知田之宏(ちだゆきひろ)さんです。
こうした課題を解消するために、林業の担い手を育成しようと設立されたのが「滋賀もりづくりアカデミー」。主に高校や大学を卒業した20歳前後の若年層が多い他府県の林業大学校とは異なり、転職希望者や林業+αの“半林半X”で生計を立てたいと考える多様な人材をターゲットとしているのがこのアカデミーの特徴です。
「設立時は、林業事業体等で働く人を対象とする『既就業者コース』と森林や林業を担当する県内の自治体職員向けの『市町職員コース』で開講しましたが、意欲のある就業希望者にも門戸を広げようと『新規就業者コース』を新設しました」と、知田さんは新たな担い手への期待を語ります。
基本的な知識と技術をカバー。滋賀の山林を知り尽くす半年間のカリキュラム
『新規就業者コース』は、これから林業への就業を目指す人を対象に研修を行うもので、森林や林業に関する基本的な知識や技術を習得し、森林での作業を安全に行うとともに、山村に活力を与える人材を育成しています。
約6カ月間の研修は「林業編(50日)」・「田舎暮らし編(14日)」・「林業インターン編(約2カ月)」の3部構成で、それぞれ以下のようなカリキュラムが用意されています。これらの研修は全て無料で受講でき、受講生の実費負担はテキスト、作業着・装備、保険料、資格取得費用(助成金制度あり)のみです。
林業編 | 森林や林業に関する基本的な座学や演習の他、チェーンソーやバックホウを使った基礎的な実習を行います。林業編の講座項目:労働安全、林業経営、造林、特用林産、機能保全、林業機械、林産、森林保護等 |
田舎暮らし編 | 地域に根ざした職業体験や田舎暮らしを実践し、多様な技術や暮らしの知恵を学ぶもので、(1)林業コース (2)大工コース (3)森林・山村コースから選択します。 |
林業インターン編 | 受け入れ先(林業事業体等)に受講生を派遣し、林業の現場において2カ月程度の職業体験を行います。 |
就業に必要な「伐木等の業務にかかる特別教育」、「刈払機作業の従事者安全衛生教育」、「小型車両系建設機械特別教育(3t未満)」、「普通救命講習」の資格が取得でき、研修の修了後は滋賀県林業労働力確保支援センター等の関係機関と連携した就業相談、就業支援にも注力しています。
修了生にインタビュー! これまでの経歴や受講の経緯、現在の仕事などを教えてください
川村奈々(かわむらなな)さん
大学で林学を学び、卒業後は環境コンサルタント企業に就職。そこで環境アセスメントに携わった後、フリーランスとして滋賀県の森林境界明確化の仕事(測量や図面作成など)を請け負うようになりました。ちょうどその頃にアカデミーの存在を知り、林業についてより実践的な学びが得られればと応募を決めたんです。
学生時代は座学が多く、全国の森林環境や林業を広く浅く学んでいた感じだったのですが、アカデミーでは滋賀県に特化した知識を得ることができ、滋賀の山々が抱える課題や目指す将来像についてもリアルに感じることができたのが良かったですね。研修は少人数制なので質問がしやすく、林業事業体や県・市町の職員の方々とも交流ができ、当時培った人脈は現在の仕事にも大いに役立っています。
私は研修修了後に株式会社志賀郷杜栄(しがさともりえい)という会社に入り、森林整備計画の立案や整備工事を行う際の現場監督などの仕事に携わっているのですが、アカデミーで学んだ安全管理の重要性が日々の仕事に生かされています。
会社以外の仕事として森林境界明確化の仕事も継続し、元滋賀県職員で現高島市議会議員である今城克啓(いまきかつのぶ)さんらとチームを組み、滋賀県が推進する主伐や再造林の計画をサポートしています。地域の方々から「測量してもらえてよかった」と直接お礼を言われることも増え、仕事への手ごたえを感じています。今後も森林整備に貢献するとともに、放置林問題の解決にもつなげたいですね。
森を守ること、それは琵琶湖の水源を守ることにもつながる、やりがいのある仕事
今回お話を伺った川村さんは、林業の仕事の中でもデスクワークが多い森林整備などの計画に関わる業務を担っていますが、伐倒や集材などに携わる作業班として活躍する修了生も多く、滋賀県内の林業事業体に就職した人もいれば、“半林半農”の働き方を実践する人も。
「滋賀県の山々は急峻な地形で、現場での作業は体力的にきつく、クマやシカなどの野生動物も生息しているのでこれらの専門知識が必要…というと林業未経験の方は不安に思うかもしれませんが、アカデミーではこうしたこと全てを網羅的に教えてもらえるので心配は不要です。森の仕事に興味があれば、ぜひトライしてみてください」と川村さん。
「体力面は慣れれば大丈夫。30代、40代の方なら十分やっていけると思います。川村さんもそうですが、滋賀県出身の方が地元に貢献したいと応募してくれることが多いのですが、中には大阪から通い続けた方もいらっしゃいます。研修期間中の宿泊や修了後の移住など個別の相談にも対応しますので、気になることは何でも気軽にお問い合わせください。滋賀県の森を守ることは、豊かな水をたたえた琵琶湖を守ること。とてもやりがいのある仕事になると思いますよ」と知田さんも熱く語ってくれました。
滋賀県の森林や林業を守りながら、自分らしい生き方を実現する。そんな新しい一歩を踏み出すために、「滋賀もりづくりアカデミー」を受講してみませんか。
滋賀もりづくりアカデミー(新規就業者コース)
◇研修期間
前期 2022年7月1日(金)~2022年12月27日(火)
後期 2022年10月3日(月)~2023年3月24日(金)
◇募集定員
10名程度
◇応募資格
申込時点の年齢が50歳未満で、林業への就業の意志のある方
◇応募方法・受講者の決定
受講申込書に必要事項を記入の上、滋賀もりづくりアカデミー事務局までご郵送ください。受講申込書の受付後、面接を行います。面接の日時・会場は事務局からご連絡します。提出された受講申込書の内容と面接等により、受講者の決定を行い、開講日の10日前までに通知します。
◇応募期間(必着)
前期 2022年4月1日(金)~2022年6月10日(金)
後期 2022年7月1日(金)~2022年9月9日(金)
知事からのメッセージ
滋賀県知事の三日月大造です。この文章に目を通してくださり、ありがとうございます。きっと、ご興味があってこの情報をご覧になっているのだと思います。これも何かのご縁だと思いますので、あなたの貴重な時間を少しいただいて、これを読み進めてくださると幸いです。
さっそく本県の森林・林業の話題に入りますが、本県の森林は、資源がどんどん充実しており、伐採適期を迎える森林が増えてきています。このため、今後は木材生産量もさらなる増加が見込まれます。また、近年の台風などの自然災害では、強風によって発生する風倒木処理の対応が求められるとともに、放置林対策や県産材利用などを進めていく必要があります。
これらのことから、本県の森林・林業における事業量はより一層増加していく見込みです。その一方で、これらの業務に対応する林業従事者の方々は、年々減少と高齢化が進んでおりますし、ひとりが1日に行う業務量である労働生産性は、低い状態にあります。
これらの課題を解決するために、令和元年6月に「既就業者」、「新規就業者」、「市町職員」を対象とした新たな森林・林業人材育成機関として、『滋賀もりづくりアカデミー』を開講しました。
このアカデミーにかける私の思いとして、3つのことを紹介します。
1つめは、滋賀ならではのことをやっていきたい。真ん中に琵琶湖のある本県は、周囲を山々に囲まれています。山と湖とは離れていますが、川や里とのつながりを通じて結びつきは比較的近いと感じられることから、「森~川~里~湖」を意識した森づくりをやっていきたいのです。
2つめは、『やまのこ』からの継続性・連続性を大事にしていきたい。『やまのこ』は、本県独自の取組で、県内全ての小学4年生を対象としており、「やまのこ」、そして小学5年生で「うみのこ」とそれぞれの学習を行っています。この『やまのこ』で学んでもらったことが将来に繋がって欲しいと思っています。
3つめは、山村で暮らす生業づくりにチャレンジしていきたい。アカデミーでは、林業技術を身につけるだけでなく、山村での暮らしを通しての生活の知恵や技術をどんどん身につけていただき、生業づくりにチャレンジしていただきたいと思っています。
本県の森林・林業、山村地域には課題があります。ただ同時に課題は可能性です。課題を問題だと捉えて尻込みをしてしまうのか、可能性だと捉えて一歩前に出るのか? 私たちは、みんなで力を合わせて一歩前に出て、よりよい山にして次の世代に引き継いでいきたいと思います。ぜひ、一緒にやりましょう!
お問い合わせ
滋賀もりづくりアカデミー事務局
〒520-2321滋賀県野洲市北桜978-95(滋賀県林業普及センター内)
TEL:077-584-4711(平日8:30~17:15)
E-mail:kenshu@shigamori.or.jp
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