これまで経験がないほどタマネギが高騰!
タマネギの価格が高騰しています。身近なスーパーでも1玉100円という値段が付けられるなど、通常の年の3倍程度の価格となっています。最近は全般的に野菜の価格が高い傾向にありますが、タマネギの価格はその中でも突出しています。僕はタマネギ農家として新規就農して12年目になりますが、連日メディアでも取り上げられるなど、ここまで価格が高騰した経験はありませんでした。
今回は北海道タマネギが昨夏の干ばつにより不作だったことなどが影響していますが、過去にも北海道や九州などの大規模産地でタマネギが不作となり、一時的に価格が高騰したことがありました。2016年には全国2位の生産量を誇る佐賀県の白石地区で「タマネギべと病」が発生し、記録的な不作となったこともありましたが、これほどまでの価格高騰にはつながりませんでした。国産タマネギの生産が減った分、海外産タマネギの輸入量が増加し、主に加工用の需要をカバーしていたからです。
また、今回のような北海道タマネギの不作が起きても、例年であれば、GW前後には価格が安定してくることがほとんどです。本州以南で栽培されている新タマネギなどが徐々に出回ってくるからです。ただ、今年は、本州以南のタマネギについても、天候不順などで全般的に生育が悪い傾向にあるようです。僕の圃場(ほじょう)でも、特に春以降の生育が思ったほど良くなく、サイズが小さい傾向にありました。こうしたことが価格高騰の要因になっていると思われます。
タマネギは6月以降、本州産の出荷が終わり、北海道産が出回るまでの端境期に入るため、国産の供給量が減ってきます。中国のロックダウンの影響などで今後も輸入タマネギの供給が不安定な状況が続けば、しばらく高値で推移する可能性が高いのではないか、と見ています。
契約栽培なので個人的には影響はほぼなし
個人的には、特殊な品種をほぼ全量契約栽培しているため、市場の価格変動の影響はほとんどありませんでした。その一方で、市場の影響を受けている農家は、このタマネギの価格高騰でかなり稼ぐことができたようです。
正直なところ、ここ数年は、あまり景気のいい話を聞かなかったタマネギ。ただ、今年ばかりは「儲かった」という話を聞く機会が多いです。直接的な恩恵を感じることはありませんが、国産農家が儲からず、その結果、大量に農家が減少していくような事態になれば、長期的には安価な輸入タマネギの取引がさらに多くなっていくことが予想されます。
そうなれば、結果的に国産農家全体が衰退していくことにもつながりかねません。同じ国産農家として、しっかり稼げた人がたくさんいるのは素直にうれしいです。
高騰による変化という点では「新規の問い合わせが増えたこと」が挙げられます。タマネギの価格高騰を受けて、「農家さんから直接タマネギを買いたい」といった連絡が、例年になく寄せられている状況です。
特に地元の飲食店や総菜店などからの引き合いが目立ちます。できるだけ対応したいところですが、すでに手元にはタマネギがほとんど残っておらず、なかなかお力になれないのが実情です。コロナ禍から回復基調にあるなかで、食材価格の高騰が飲食店のV字回復の足かせにならないかと心配しています。
今、身の回りで起きていることは?
タマネギの価格高騰とは直接関係ありませんが、今、身の回りで起きていることについても書いてみます。
目下、頭を悩ませているのが「資材価格の高騰」です。身近なところでは、ロシアによるウクライナ侵攻の影響で、今後の肥料価格の高騰が大きな懸念材料となっています。
すでにいくつかの業者から値上げの打診が来ており、一部の肥料では50%アップという提示もあるほどです。なかには「そもそも入荷できるかどうかすら分からない」といった話も出てきています。
「タマネギで儲かった農家がたくさんいる」という話を書きましたが、こうした農家の中には、今後の肥料価格のさらなる高騰を見越して、早々にまとめ買いする人も出てきていると聞きます。
さすがに市場から肥料が消えるような事態にはならないと思いますが、一部では買い占めに走るといった状況も生まれてきているようです。作付けのタイミングで肥料が入手できなければ話にならないわけで、その気持ちは僕もよく分かります。
また、ハウスの資材なども価格が高騰しています。新設予定のハウスの資材は、数年前の1.5倍くらいの価格になりそうな状況です。それでも手に入ればまだマシで、こちらも肥料と同様、「見積もりが出てこない」といった状況になってきています。早く平時に戻ってほしいと願うばかりです。
今後をどう見ているのか? 取るべき対応策は?
では、こうした状況を踏まえ、どのように行動すればいいのでしょうか。
あくまで個人的な見解になりますが、これまで輸入物に押されて安値安定が続いてきたタマネギは、高値のトレンドがしばらく続くのではないか、と見ています。また、最近の急激な円安についても、輸入物に対する価格競争力という点でいえば、資材価格のさらなる高騰という懸念材料はあるものの、国産農家にとって追い風だと言えそうです。
ただ、国産農家にとって有利な状況は、長く続く保証はどこにもありません。今のうちに、この状況が変化した時の対応策を講じておくのがいいと思います。
例えば、直取引の契約栽培を増やして売り上げの安定化を図ることが大事だと思います。高値が続いている今は、取引先に対して有利に交渉を進められる好機です。こうした状況だからこそ、再び安値に陥った時に打撃を受けないような先を見据えた行動を取っておきたいところです。
また、前述した通り、今後の資材価格高騰、納期遅延については、十分に注意しておくのが良さそうです。安易な買い占めは、市場の混乱を招くだけなので避けたいところですが、一方で、背に腹は代えられない部分があるのも事実です。早めの情報収集を心がけ、特に今年の後半は、例年以上に余裕を見て行動することが大切になるでしょう。