家族経営から500人規模の日本を代表する農業法人へ。老舗農園が規模を拡大できた理由
伊勢自動車道・芸濃ICからほど近い浅井農園。スタイリッシュな本社で取材班を迎えてくれたのは、5代目で博士(学術)号を持つ代表取締役の浅井雄一郎さんです。
自らを❝松坂大輔世代❞と称する浅井さんが東京から故郷の三重県に戻ったのは2007年。翌2008年に第二創業してミニトマト事業に着手しました。それはサツキツツジで知られた浅井農園の創業101年目にあたる年でした。
「かつてこの辺りは日本有数のサツキツツジの産地でした。ところが近年は需要が減り、最盛期は400軒ほどあったサツキ農家もごくわずかに。うちも父の代までは家族経営でツツジの生産と卸しをしていましたが、業績が悪化。私は東京で経営コンサルティングや環境ベンチャー企業に勤めていたのですが、家業をなんとかしなければという思いにかられUターンしました」。
そんな時、浅井さんの脳裏に浮かんだのが前職のサラリーマン時代、立ち上げに携わったミニトマトの生産事業です。実はトマトが苦手な浅井さんですが、この時に食べたミニトマトはたいへんおいしく、これならトマトが苦手な人でも食べられるのではないかと思ったそうです。
さっそくミニトマトの生産に着手しましたが、最初の10年間は思うような結果が得られず、悪戦苦闘。しかし、試行錯誤しながら独自の研究と努力を積み重ね、❝研究開発型の農業カンパニー❞をスローガンに掲げるようになったところ、世界中から有能な人材が浅井農園に集まるようになったのです。
そして、現在は4つのグループ企業全体で年間生産量およそ3000t、圃場面積は13haあまり、従業員500人以上という日本有数の大規模農業法人に成長。ミニトマトに関しては、生産量は日本一ではないかということでした。
研究開発型農業カンパニーが選んだミニトマトに最適な生育環境
浅井農園は各地で大企業との合弁事業を立ち上げ、業績を伸ばしてきました。また独自の品種と高度な栽培管理技術をインテグレートすることで、新たな品種を創出。毎年50種ほどを試験しながら、現在はおよそ10品種を市場出荷しているとのこと。同農園が研究開発型農業カンパニーといわれるゆえんです。
その心臓部が本社に隣接する研究開発棟。ガラス張りの巨大なハウスでは世界中から集められたトマトの品種が栽培され、先進的な分析機器を使ってトマトにとって最適な生育環境を作り出すなどの研究が行われており、企業や大学との共同研究の場としても活用されています。
使用しているのはAmmerlaan(アマラン)社のグリーンハウス。同社はグリーンハウス先進国・オランダにおいてトップクラスの売上高を誇っています。
また、本社から車で数分の所にある、次世代に向けての農業人材の育成を目的として2018年から稼働を始めた大里農場では、スペインを代表するULMA(ウルマ)社製のプラスチックフィルムでできたハウスを使用しています。
施設栽培の先進国、ヨーロッパから輸入した2つのハウス。どちらも「株式会社マツボー」が紹介した商品で、浅井農園の生産力を支えています。
施設栽培の先進国からハウス導入を決めた理由とその性能
マツボーは1949年に旧「株式会社松坂屋商事部」から発足した機械の専門商社です。『欧米を始めとする世界各国の優れた機械や新しい技術を導入し、日本の産業界の発展を通じて社会へ貢献する』ことを企業理念としています。
マツボーと浅井さんの出会いは2013年頃。
三重県多気町で発足した木質バイオマス発電の協議会が縁でした。
「協議会では、発電プラントでできた熱エネルギーを植物工場で有効利用できないか検討していました。そして、協議会の場で弊社と取り引きのあったオランダの農業ハウスメーカー・Ammerlaanの社長から『農家さんに話を聞いてみたい』と相談されたんです。多気町の職員がたまたま浅井さんを知っていて、町を通じて引き合わせていただいたのが始まりです」と話すのは、マツボーの環境グループ長・壽田(すだ)大輔さん。
当時浅井農園では既に2、3棟のハウスを建てており、マツボーの扱うハウスが初めての導入ではありませんでした。決め手は何だったのでしょう。
「Ammerlaanの社長・ミシェル氏のゼロからイチを生み出すものづくりをしていこうとする姿勢に、共感を覚えました。当時、弊社は無名の小さな会社でしたが、これまで日本になかったものをつくろうとする強い思いがあり、Ammerlaanと共通する部分があったのです」(浅井さん)。
Ammerlaanはスマート農業先進国・オランダの老舗メーカー。建てておしまいではなく、迅速なアフターフォローや親身に相談に乗ってくれる姿勢も大きな決め手になったと浅井さんは言います。
一方、大里農場で採用したULMA社のハウスは、プラスチック製でAmmerlaanよりも初期費用が安く、コストパフォーマンスが良いのが特徴。オープンルーフで通気性に優れ、津のように比較的暖地で暖房代のかからない地域に向いているそうです。
このハウスには「AGCグリーンテック株式会社」のエフクリーンという農業用の高性能フッ素樹脂フィルムが使われており、耐候性、耐久性、採光性に優れ、30年はもつと言われています。良いものを積極的に取り入れようとする同社の姿勢は浅井さんの心を動かし、3社協議による日本初のプロジェクトが実現。
「浅井さんは一般的な農家さんが使えるハウス、寒くない地域で適応できるハウスを普及させたいと、建設を決めました。自社のことだけでなく、地域や今後の農業の担い手のことも考えた末の選択です」と壽田さん。
浅井さんは「輸入製品で一番怖いのはアフターフォローがないことですが、AmmerlaanもULMAも非常に丁寧で安心できました。おかげさまでどのプロジェクトも成功し、マツボーの壽田さんにはとても感謝しています」と話しています。
また、マツボーでは2つのハウスや植物工場に設置できるLEDライトも紹介しています。
LEDライトを使用し、補光ライトとして活用できるため、天候に左右されず安心して栽培することができます。
持続可能な農業のために海外と日本を結びつける 技術商社マツボーの目指す未来
浅井農園の研究棟と大里農場は、明るく開放感あふれるハウスに燦々と降り注ぐ太陽の光が印象的です。ブドウの房のように垂れ下がり、緑の葉の間から彩りも鮮やかな果実をのぞかせるミニトマト。土を使わない養液栽培で、排水もリユースして最後まで使い切り、作業者が腰をかがめず、両手で楽に作業ができるよう配慮されています。持続可能で環境負荷がかからず、働く人にも優しい農業の最先端を行く現場です。
大里農場では、ハウスで栽培されているミニトマト3種‐たっぷりこ・はぐくみトマト・チェリートマト‐を試食させていただきました。太陽の光をたっぷり浴びて育ったミニトマトは、どれも宝石のようにつやつやとして、甘みと酸味のバランスもほどよくジューシー。特有の青臭さはなく、老若男女問わず食べやすい食味です。
今後は次世代の農業経営者の育成に力を注ぎたいと語る浅井さん。「私達のようなアグロノミスト(農学士)集団が農業界にイノベーションを起こすことで、次世代を担う若い人たちがワクワクして働きたくなる場所が創出され、日本の農業がもっと元気になることを願っています」。
そんな浅井さんにとって「マツボー」の壽田さんは頼もしいビジネスパートナーであり、友人のひとりのようです。「マツボーの壽田さんは、ただの取引先を超えた関係です。これからもマツボーさんのネットワークを生かして海外の良い技術と日本の良い技術を融合させていきたいですね」。
壽田さんも「浅井さんと出会ってから、すばらしいめぐり合わせがたくさんありました。今後は浅井さんの事業のハブとして循環型社会の実現に貢献できるよう、再生可能エネルギーと社会で提供できる商品を結び付けていきたいと考えています」と話します。
施設栽培で適切な環境を作り出すには、ハウスの工夫は不可欠です。浅井さんのように、ワクワクする研究開発型のスマート農業を目指したい方は、「マツボー」にハウスの相談をしてみてはいかがでしょうか。あなたに寄り添った提案をしてくれることでしょう。
【浅井雄一郎氏】株式会社 浅井農園 代表取締役CEO 博士(学術) 1980年、三重県津市生まれ。経営コンサルティング会社及び環境ベンチャーを経て、実家に戻り、第二創業としてミニトマト生産に着手。日本における研究開発型のスマート農業の第一人者となる。名前がYuichiro Asai(Y.ASAI)なので、「自分は野菜をつくる運命にあった」という。マツボーの壽田氏とは星座も血液型も同じで、公私にわたって付き合いを深めている。 |
【壽田大輔氏】「株式会社 マツボー」産機四部環境グループ長 機械器具設備工事監理技術者 浅井氏のビジネスパートナーとして世界各国を視察。浅井氏と知り合うまでは三重県についてよく知らなかったが、ハウスの建設を通じて1年の3分の2ほどを三重で過ごしたというほどの三重県通に。大好物はウナギ。特に「浅井農園」本社の近くにあるウナギ屋『うなふじ』の大ファン。 |
【取材協力】
株式会社浅井農園
【お問い合わせ先】
株式会社マツボー
産機四部環境グループ
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電話番号:03-5472-1737
メールアドレス:s-17@kobelco-matsubo.com