淡路島は“日本一のため池密集地域”
淡路島の農業環境
兵庫県淡路島は、島内の約6分の1の土地で農業を行っています。
主な農産物には、ブランドとしても名高い「淡路島たまねぎ」をはじめ、コメやレタス、カーネーションや畜産物などがあります。
ですが、淡路島は全国でも雨が少なく温和な気候の瀬戸内地域にあり、水に恵まれた地域ではありません。しかも、大きな河川はなく、島ということもあり雨はすぐに海に流れてしまいます。
そこで農業用水の確保のために、古くから造られてきたのが、ため池でした。
ため池数が全国最多の県の最多地域
そもそも、ため池が多い兵庫県。その数は、全国一の2万2107カ所(2021年、農林水産省調べ)です。
そして淡路島は、県内でもため池が多く、約592.44平方キロの中に約1万あります。まさに“日本一のため池密集地域”と言っていいでしょう。
ため池の歴史は古く、その7割が江戸時代以前に造られたか、造られた時期が分からないため池です。淡路島でも1700年以上前から、ため池が造られていたことが分かっています。
長く使われてきたものが多く、安全に使用するためにも、保全管理は欠かせない活動です。
淡路島ため池保全サポートセンターの活動
全国初のため池保全サポートセンター
そんな淡路島に2016年に設置されたのが「淡路島ため池保全サポートセンター」です。
「もともと兵庫県は2012年から独自で、ため池の定期点検をスタートしていました。その流れから、県と淡路島の3市(淡路市、洲本市、南あわじ市)が協力して設立しました」(同センター、栗林茂樹さん)
主な業務は、①ため池管理の相談窓口、②かいぼり(※)支援、③巡回点検、④普及啓発等、⑤助言・現場技術指導の5つです。
※ 冬などに、ため池の水を抜き、底にたまった泥を掃除したり、点検を行ったりすること。「泥抜き」「池干し」とも言う。
点検の立ち会い率が大幅に向上。適切な保全管理へのアドバイス
ほとんどのため池は、民間の所有者・管理者が保全管理していますが、誰もが十分にできているとは限りません。
「ため池は草刈りができていないと状況が分かりません。以前は、点検に行っても草が刈られていないことが多かった。それがサポートセンター設置以後は、意識づけができたのか、草刈りをやってくれています。シルバー人材センターに頼んでいるところもあります。ただ、まだ全然あかんところもありますけれどね」(同センター、廣田勇さん)
現在は、同センターによる島内のため池の把握も進み、以前は所有者・管理者の点検立ち会いは50%程度でしたが、現在は99%近くになったそうです。
「立ち会い点検をして、管理のわるい箇所は、その場で管理方法を伝えます。立ち会い無しというのは、ため池まで歩いて行けない高齢者などの場合です。その場合は、ご自宅などで話をします」(廣田さん)
2021年には島内の443カ所を巡回点検。そのほかにも、相談を受けた場所に随時赴いて状況確認や技術指導を行っています。
地道に池名看板を設置
一方、所有者や管理者以外の人に向けた安全周知のために、池名看板の設置も行ってきました。決壊した場合に周辺に被害が想定される「防災重点農業用ため池」について、2020年から順次、看板の設置を進めています。
「決壊しそうなときに、地域の方が連絡するにしても、誰に連絡していいかが分かりづらい。ですから、看板に池名と管理者の名前、所在地などを載せ、すぐに連絡できるようにしています。3年間で約1400カ所への設置を予定していて、今年度で完了する見込みです」(同センター、山根規孝さん)
事故防止に一役買う「ため池教室」での工夫
最近はため池への転落事故などはあまりないという淡路島。
「転落防止柵や危険を伝える看板を設置して事故を防いでいます。また、各市の小学校で、ため池の重要性や水難事故の危険性を伝える『ため池教室』を開いています。前半1時間は座学。教室内でパワーポイント資料を使ってクイズなどを出しながら『急に深くなっているから危険だよ』『子供同士で行かないでね』と伝えています。後半1時間は近くのため池に行きます。前日に網などを仕掛けて、そこで捕れた、ため池にすむ生き物を観察してもらっていますね。子供たちはいつも喜んでくれますよ」(同センター、船木茂浩さん)
ため池には、生物の生息・生育の場所の保全という機能もあります。さまざまな面を知ることは子供たちにとっても大事なことでしょう。
一歩先を行く、ため池の保全管理
高齢化と人口減少の中での保全管理
このように淡路島ため池保全サポートセンターでは、巡回点検や普及啓発などさまざまな支援を行っていますが、一方で課題はまだ残っています。
淡路島でも高齢化と人口減少は進み、ため池の管理でも一人一人の負担が増えています。
同センターでは管理者に点検記録などを保存できるバインダーを渡し、資料の引き継ぎを容易にするように工夫しています。しかし、地域の自治会長が管理者となっていて、その会長が1年ごとに交代するような場合に、申し送り事項の一つとして埋もれてしまったり、バインダー自体の紛失も起こり得ることは想像に難くありません。
「紛失した際の補完として、センターでも過去の点検情報の電子化を進めています。点検に立ち会っていますので、こちらにも情報が残ります。過去の資料を見て、技術指導を行う者から『以前はこうでしたよ』と話すこともあります」(同センター、飯田哲也さん)
ため池の統合は現実的か?
また、ため池は長く使い続けているところもあり、改修が必要なものもあります。
現在、淡路島では10年計画を立てて整備を進めていますが、足場のわるい場所も多く、工事費以外に足場を仮設する経費がかさむなど、すぐに全てを進められるわけではありません。
そこで日常的な保全管理が大事になってきますが、他の選択肢として、ため池の廃止や統合ということも考えられます。統合は、管理労力を削減するために、2つあるため池のうち1つを廃止して利用者をもう1つのため池にまとめるなどの方法をとります。
ただ、ため池の統合には課題もあるようです。
「複数のため池が連なった『重ね(親子)池』を統合しようかという話が出ることがあります。確かに統合すれば草刈りや点検をする人が増えるメリットはあります。しかし実際は、関係者の意見も異なり、なかなか難しいという現状があります。県で実際に統合した例はあり、一つの手段ではありますが、『統合』がすべての課題を解決する手段ではないでしょう」(兵庫県淡路県民局、奥谷和慶さん)
情報発信の量と質を上げる
日本で最もため池の数が多い県にあり、全国初のため池保全サポートセンターのある淡路島。その多くのノウハウと、先んじて対処している課題などは、シンポジウムや管理者講習会、Facebookページ(淡路島ため池交流保全)、また県で年2回作成する「ひょうごため池だより」や毎年10月に行われる「ため池クリーンキャンペーン」などでも発信しています。
また、県には、ため池保全県民運動公式キャラクター「ため池マン」がいるなど、硬軟織り交ぜた情報発信も目を引きます。
ため池の保全管理のために、継続的な情報発信も重視する同センター。
ため池は近年、万が一の事故などに備える賠償責任保険や、新たな活用法としての水上設置型太陽光発電設備など、注目されるトピックも少なくないようです。自身が住む地域でなくとも、他県の先進事例として情報をチェックしておくのも一つの方法だと言えるかもしれません。
画像提供:淡路島ため池保全サポートセンター