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イチゴの生産で「世界最大」の植物工場が稼働 日本でなく、米国を拠点にした理由とは

窪田 新之助

ライター:

イチゴの生産で「世界最大」の植物工場が稼働 日本でなく、米国を拠点にした理由とは

イチゴの生産で「世界最大」という完全閉鎖型の植物工場が米国ニュージャージー州で稼働し、6月から米国の高級スーパー「Whole Foods Market(ホールフーズ・マーケット、以下ホールフーズ)」のニューヨーク店で販売が始まった。運営するのは日本人が創業した企業。なぜいま、日本ではなく米国で、イチゴを作る大規模な植物工場の経営に乗り出したのか。代表の古賀大貴(こが・ひろき)さんに聞いた。

日本は植物工場の市場性が低い

古賀さんは大学を卒業後、コンサルティング会社に就職して農業分野を担当した。在職中に米国に留学した際、実感したのが植物工場の時代が到来することだった。
「気象の変動が激しいなか、既存の農業のやり方では生産がますます安定しなくなる。しかも水不足という課題や農薬が忌避されるという傾向もあり、植物工場を手掛けるならいましかない」
そう思った古賀さんは退職して、植物工場の運営を手がけるOishii Farm(オイシイファーム)を2016年に米国で創業する。日本を拠点にしなかった理由は「市場性の低さ」だ。
「植物工場にとって日本という市場は非常に難しい。世界的に見て、日本ではすでに優れた農産物が鮮度を保ったまま安価に売られているので、植物工場で農産物を作ってもコスト的に見合わない。これまで日本で植物工場を始めた企業が撤退した最大の理由がそこにあります」(古賀さん)

Oishii Farm代表の古賀大貴さん

イチゴを制する者が植物工場を制する

生産するのは、日本生まれの甘くて果皮が柔らかいイチゴと最初から決めていた。その理由は、ブランドづくりに最適と考えたからだ。
「おいしくて、味に差が出て、食べた人が驚いてくれるものでないと、最後は価格勝負になる。そうならない農産物として真っ先に頭に浮かんだのがイチゴでした」
古賀さんによると、米国におけるイチゴの産地といえば、気候の問題でカリフォルニア州くらい。たとえばニューヨークで販売しているイチゴは、「カリフォルニアで収穫してから5、6日経った鮮度が落ちたもの」だという。
一方、植物工場を消費地の近くに造れば、年中安定して鮮度のいい状態のイチゴを届けられる。それがほかにはないブランドとなる。Oishii Farmがイチゴで名が通るようになれば、その後にトマトやメロンを作っても支持されると見込んだ。古賀さんは「当初からうちの基本的な戦略は『イチゴを制する者が植物工場を制する』でした」と語る。

日本の栽培技術をもとに研究を重ねた

イチゴを安定生産する技術

とはいえ、植物工場でイチゴを安定して生産する技術はない。古賀さんが創業してまず取り掛かったのは、育成者権が切れた日本生まれのイチゴの栽培試験と、安定生産のための環境制御技術の開発だ。完全閉鎖型の植物工場のプロトタイプ(試作棟)を造り、品種に応じた栽培方法の検証を重ねた。
そのなかから有望と見込んだ一つの品種を、ニューヨーク郊外に建てた小さな植物工場などで栽培開始。2018年から「Omakase Berry(オマカセベリー)」という商品名で、ミシュランの星付きレストランなどに1パック(8~11個)当たり50ドルで卸した。高級路線にしたのは、高級車を電気自動車にしたテスラの成功を参考にしている。
人気を得てブランドを確立したことで、今回、ニュージャージー州で70アールの植物工場で量産化して、ホールフーズに販売するに至った。売価は1パック当たり20ドルに抑えた。

高級イチゴとしてブランディングした「Omakase Berry」

収穫や選果、モニタリングのロボットも自社開発

モニタリングで数日後の収量を当てる

ニュージャージー州の植物工場は、元はバドワイザーのビール工場。それを居抜き、建屋の中に栽培棟や実験棟を構築している。新規建設ではなく居抜きを選んだ理由について、古賀さんは「建設コストが安く済むため」と説明する。
栽培棟では、自社で開発したモニタリングをするロボットが稼働して、作物の状態に合わせた環境制御や収穫の予測につなげている。「数日後にどれくらいの収量になるか、ピタリと当てられるようになっています」と古賀さん。苗を一度植えれば、1年以上収穫ができるそうだ。

工場内では常時ロボットが稼働している

収穫や選果のロボット開発、品種育成も

Oishii Farmは社内に研究開発チームを有し、50人のエンジニアを雇用している。イチゴの植物工場としては「世界最大」という実験棟も持っている。現状では人がこなしている収穫や選果についても、それらを代行するロボットの開発に取り掛かっている。また、独自の品種の育成にも乗り出した。ロボットの詳細や植物工場で導入した栽培装置の構造などについては、特許の関係もあって「企業秘密」(古賀さん)。
当面の計画は、ニューヨークのような大都市の近くにイチゴの植物工場を建てていくこと。進出先は米国に限らず、「新鮮なイチゴが手に入らない、なおかつ高所得者層がいる国や地域」を目指すという。同時に、メロンとトマトを植物工場で量産化する仕組みも検証している。
「需要はいくらでもある」と古賀さん。Oishii Farmの農産物が世界でどれだけ広がっていくか。今後が楽しみである。

画像提供:Oishii Farm

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