ニュージーランドでのアルバイトで「農業をしたい」
JR二戸(にのへ)駅から車で北西に向かうこと30分。民家を見かけなくなってしばらく経った山奥に、ぽつんと1軒の横長の建物が見えてきた。よしだやの本社だ。
ここは、もともと吉田さんの父親が鉄工所の経営を畳んでから、ニンニクの水耕栽培を始めた場所。吉田さんは父親から、大学を卒業したら農作業を手伝うように言われていた。ただ、当初は農業に興味を持てなかった。
転機となったのは、留学先のニュージーランドの大学で農作業のアルバイトをしたこと。醸造用ブドウの収穫に携わり、「農業もいいかな」と思うようになったという。この体験が影響して、帰国後は父親の勧めのとおりニンニクづくりに携わるようになった。
自社生産に加え、集荷や加工業も
当時水耕栽培していたのは、一般に「ひとかけ」などと呼ばれる鱗片(りんぺん)ごとに分割して根と芽を出させた「姫ニンニク」。まだ認知度が低くて売れなかったため、ほどなくして露地栽培に転換する。以後、一貫して農協を通じた系統出荷はせず、直接販売してきた。
当初は50アールで始めた露地栽培。いまでは2.5ヘクタールにまで増えている。一方で、地域の農家からの集荷もしている。その量は2021年産では35トンだった。取引の条件は、基本的によしだやと同じ施肥設計にしていること。
ニンニクは生鮮品として販売するほか、皮むきやすりおろしなどの一次加工をして食品会社に卸している。一部は黒ニンニクやみそ、ガーリックオイルなどの加工品にしている。
省力化と市場の規格への疑問
本題に入ろう。これまで出荷規格を市場に合わせてきたのは、市場から仕入れる量が多かったからだ。自社生産分や集荷分は、それに合わせて選別してきた。
ただ、いずれは独自の規格に変えたいと思っていた。理由の一つは、選別の手間を省くことだ。吉田さんによると、市場の規格はニンニクの大小や外観に応じて九つに分かれている。一つずつ選別するのは、それだけ手間も時間も要する。
市場の規格に疑問を持っていたことも理由の一つだ。吉田さんはこう語る。「皮が少し変色しているだけなのに等級が落とされるなんて、おかしい気がしたんです。皮をむけば、同じなのに。市場の関係者にそのことを尋ねると、『じつは僕らも疑問に思ってるんだけど、どうしようもない』という答えが返ってきて……。それなら、いつかは自分たちの規格をつくろうと思ってきました」
独自の規格をつくり、運用を始めたのは2021年度産から。規格は「スペシャル」「レギュラー」「アウトレット」という三つだけ。スペシャルは、最も大きいニンニクのなかでも外観に傷や着色がないものだけ。アウトレットは外観が大きく損なわれているもの。それ以外はすべて「レギュラー」だ。
根っこを取らず、売り上げ減の教訓
この三つの規格だけで販売した2021年度産は、当初の予想以上に売り上げが落ち込んだ。理由を調べると、個人の消費者に嫌われたことがわかった。なぜか。
「独自の規格をつくるのと合わせて、レギュラーについては根っこを取らずに出荷することにしたんです。これが裏目に出ました。これまでうちのニンニクを買ってくれていた多くは個人客。根っこを見るのは初めてだったんで、驚いたみたいなんです。取引先の食品関連会社のなかにも、根っこが付いていると、なんとなく汚いと感じるところがあったようで、嫌われたようです」(吉田さん)
根っこを取るには、「根すり」という作業を要する。その様子を撮影した動画を見せてもらうと、専用の電動やすりに押し当てて、ひげ根を削り取る。1個当たりに要する時間は10秒程度とはいえ、積み重ねれば相当な手間になる。
2021年度産の新たな規格はなかなか認知されず、特に根っこ「無」の要望が多かった。「従来の規格がこれだけ根付いていることを改めて思い知りました」と吉田さん。途中から、根っこ「無」を「黒ニンニク専用」という新たな規格にした。これを2022年度産では、根っこ「有」よりも売価を高くする予定だ。
ただ同社は、根っこ「有」の認知度を高めて、いずれは根っこ「無」という規格をなくしたいと思っている。吉田さんは「できるだけ生産に力を入れたいんです。最終的にはゴミになる部分に労力をかけることよりも、土づくりやニンニクづくりに労力をかけ、これを食べる人にとって最大の効果を発揮するニンニクにしていけたらと思っています」と話している。