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防犯対策だけじゃない! 売り上げ増加にもつながったロッカー直売所

鮫島 理央

ライター:

防犯対策だけじゃない! 売り上げ増加にもつながったロッカー直売所

農業を営む上で悩みのタネになるのが盗難被害。近年では収穫間近の作物が大規模に盗まれてしまったり、直売所が被害にあっていたりと、大きな問題になっています。神奈川県川崎市で農業を営んでいる僕も、運営している無人直売所が被害にあい困っています。そんな時、ロッカー型自販機の無人直売所を近所で発見! ロッカー型なら盗難被害にあいにくそうですが、実際はどうでしょうか。

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窃盗被害は無人直売所でも

農産物を販売する際、近年はインターネット販売など、さまざまな形の販路が確立されるようになってきました。
一方で昔ながらのやり方が廃れたわけではなく、無人直売所などの古き良き販売方法も、地域住民から愛される存在として存続しています。

しかし、中には無人であることを悪用され、陳列してある商品を盗まれたり、支払いの金額をごまかされたりするなど、窃盗の被害にあうこともしばしば。僕も軒先で無人の直売所を営んでいますが、時折会計が合わなかったりするなど、自身でも被害にあっています。

筆者宅の無人直売所。倉庫を利用している

直売所の盗難被害を防ぐためにもロッカー型自販機を導入してみたいところですが、安い買い物ではありません。
実際にロッカー型自販機を使っているという、川崎市のありまね農縁(のうえん)園主・白井大輔(しらい・だいすけ)さんに話を聞きました。

白井大輔さん

導入の理由は窃盗対策に悩みたくないから

──立派な畑ですね。代々農家だったんですか?

実は野菜農家を始めたのは自分の代からなんです。もともと祖父が30年前まで果樹をやっていたんですが、自分の良いと思ったものを作りたいなと思い、野菜を始めました。竹林だったところを自分たちで切り開いて、耕作面積を広げていったんです。今は20アールの畑と70アールの竹林で、季節の野菜やタケノコなど、年間50品目ほどの作物を作っています。


──50品目とはかなり多いですね。僕も30品目ほど育てていますが、売り切るだけで大変です。それだけ多くの作物を育てるとなると販路などが大変ではありませんか?

就農してすぐは作った野菜を手渡しで売っていたんですが、拘束時間が長く大変な割にあまり売れずという感じでした。どうしようかと考えた時に、ロッカーを入れようと思ったんです。今は自分の直売所で販売するほか、付き合いのある飲食店やお店などに卸しています。

──前からロッカー型自販機のことは知っていたんですね。

前職が農協職員で、ロッカーを取り扱っていたんです。その関係で、無人直売所を経営している農家が窃盗被害に悩んでいたのも知っていました。自分がそういった状況に直面したとき、窃盗対策に悩むのは嫌だなと思ったんです。なので、ロッカーを導入することに抵抗はありませんでした。

──農業経営者として気になるのはコスト面なのですが、白井さんの場合はどのくらいかかったのでしょうか?

大きくかかったのは本体代の50万円くらいですね。ただこれは1年ほどでペイできました。ロッカー型自販機も機能によって大きく価格が変わります。うちでは導入コストを抑えるためにも、冷蔵機能がなくお釣りの出ない廉価なモデルを使ってます。

自販機は100円玉専用。自動でお釣りが出ないので、10円単位の価格設定をした場合は商品ボックスの中にお釣りを入れて対応している

窃盗防止だけでなく、売り上げの増加にもつながった

──実際にロッカーを設置してみて、窃盗被害などはありませんでしたか?

いまのところ、商品を盗まれたことや、金銭的な被害もありません。窃盗対策としてはかなり有用ではないでしょうか。

副次的な効果として、売り上げの増加といったこともありました。直接売っていたときは、どうしても販売できる時間に限界がありました。でも今は、朝10時に商品を入れ替えに行って、売り切れ次第終了といった形で販売ができるので、その分お客さんが多く入ってくれるようになったんです。

先ほど年間50品目栽培していると言いましたが、これは売り上げが伸びてより多くの作物を売ることができるようになったからこそ、多種目・多品目の栽培ができるようになったんです。


──窃盗被害の防止だけじゃなく、売り上げも上がったんですね。経済的なメリットはかなり大きそうです。ここに来るまでの間に、他にもロッカー型自販機を見かけたんですが、白井さんのところから広まったのでしょうか?

そうですね。私のところから広まっていきました。
私は12年前からロッカー型自販機を使っているんですが、やはり導入したての頃はロッカーの隙間(すきま)にお金がねじ込まれていたりして、お客さんも使い方がわかっていない様子でした。

最初はそういったトラブルもありましたが、お客さんからすると、好きなタイミングで野菜を買うことができるし、農家からすると窃盗に頭を悩ませることなく野菜を売ることができる。やはりお客さんにとっても、農家にとっても便利なものに違いはありませんから、周りの農家にもだんだんと広まっていきました。

今ではいろいろな直売所で使う機会があるのか、お客さんも使い方がわかるようになってきたので、そういったトラブルは少なくなりましたね。

ロッカー型自販機の長所と短所

ロッカー型自販機の長所

──長年ロッカー型自販機を使ってみて、導入して良かったなと思う点はありますか?

窃盗対策を考えなくて済むことと、売り上げが伸びたことはかなり大きいですね。ロッカーのおかげで自由な時間が増えたので、自分が良いと思う作物の栽培に取り組むことができるようになったのはかなり大きいです。

──窃盗に悩むことなく、自由に時間を使えるのはかなりありがたいですね。他になにか良かった点があれば教えてください。

客層が広がったことも良かったですね。もともとはご年配の方がメインの客層だったのですが、じっくり商品を見て買いたいという人や、夜が遅い会社帰りの人が買ってくれるようになったりと、さまざまなお客さんが来るようになりました。盗難される恐れのないロッカーだからこそできることですね。

──確かに普通の無人販売所では夜遅くまで商品や売上金を置きっぱなしにしたくないですよね。盗難対策が販売先の拡大に広がったというのは、ロッカーだからこそのメリットかもしれないですね

ロッカー型自販機を使う際に気をつけること

──では、ロッカー型自販機を使う際に注意していることはありますか?

例えばうちで使っているロッカーは防水ではないので、ロッカーを雨風から守るためのスペースを確保しなくてはなりません。いたずらなどの防止のためにもシャッターが閉まるようなしっかりとした設備を用意しないといけないので、そこである程度お金がかかってしまいますね。


──それはコストがかかってしまいますね。小屋のこともしっかりと想定して導入するかどうかを決めたほうが良さそうですね。

ただ、その後のランニングコストなどはほとんどかかりません。作物を販売する際、どこかに出店したりアプリを活用したりすると、どうしても手数料がかかってしまいますよね。そういったお金がかからないので、大きくかかるお金は初期投資だけで済みますね。

──野菜の単価はそこまで高くないので、小さな金額に見えても重なっていくと厳しい出費になってしまいますし、手数料などがかからないのは重要ですね。

ロッカー型自販機を活用するには

──お話を聞いているとロッカー型自販機がかなり魅力的に思えてきました。よりロッカーを活用するにはどうしたらよいでしょうか?

ロッカーのメリットを最大限活用するには、設置する場所をしっかりと考えることが重要です。どれだけ良いものを売っていても、人目につかなければ意味がありません。バス通りなどの大きな通り沿いに置くことができれば一番ですね。

そういう意味では、うちはたまたまバス通り沿いに自分の土地を持っていたので、ちょうどよかったですね。

直売所は白井さんの所有する土地の一角にあり、土地を最大限に活用している

直売所という文化を守るためにも

僕のような都市農家にとって、ただ作物を売るだけでなく、地域への還元や農業への理解を深めてもらうといった意味でも、直売所は重要な販路のひとつです。

しっかりと守っていかなくてはいけない一方で、窃盗被害に悩み直売への意欲を失ってしまう農家がいるのも事実。ロッカー型自販機はそういった農家の手助けになることは間違いないと思います。窃盗被害の防止のためにも、地域に根ざした農業を守っていくためにも、さまざまな方法を考えていかなくてはなりません。

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