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スマート農業で経営を底上げ 新規参入者が集いながらも安定した売上の園芸メガ団地

山口 亮子

ライター:

スマート農業で経営を底上げ 新規参入者が集いながらも安定した売上の園芸メガ団地

「手ぶらで農業」。そんなうたい文句を掲げて2014年から整備されたのが、秋田県男鹿市にある「男鹿・潟上地区園芸メガ団地」だ。生産の盛んなキクは、新規参入するには農地の確保と設備投資の負担が大きい。そこで、農地や機械をリースする方法で新規参入者を募った。団地に入っている8人の経営者は、平均年齢が36歳と若い。2019年から始まったスマート農業実証プロジェクトで機械化一貫体系を実現し、経営の底上げにつながった。

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JAのキク販売額の半分を稼ぐ

ハウス20棟、露地栽培6.5ヘクタール。総事業費1億6500万円を投じた計7.2ヘクタールの広々とした団地が、男鹿市に広がっている。8人の若手経営者が園芸メガ団地共同利用組合を作り、1人50~90アールで生産する。ハウスでは一輪仕立ての輪菊やスプレーギクを、露地では小菊を栽培している。

この園芸メガ団地は、コメ偏重の生産構造からの脱却を目指す秋田県が県内各地に整備している大規模団地の一つだ。JA秋田なまはげ(本店・秋田市)の管内にあり、そのキクの出荷額2億円超のうち、およそ半分に当たる1億円超を稼ぎだしている

団地に参入している経営者たちのもともとの職業は、大型クレーンの運転士、工務店勤務、アルバイトなどさまざまだ。副組合長の佐藤洋介(さとう・ようすけ)さんは、男鹿市出身で札幌市で働いていた。

「Uターンを決める際に、園芸メガ団地の構想が立ち上がったことは大きかった。キクはここに参入して初めて栽培しました。栽培技術は、キク栽培の経験がある組合のメンバーに教えてもらっていましたね」

経営の主体は露地栽培の小菊で、ハウス5棟のうち2棟では輪菊も栽培する。今は年間およそ1000万円を売り上げていて、経営は安定してきた

 園芸メガ団地共同利用組合副組合長の佐藤洋介さん

作業時間と肥料を削減

メガ団地の運営が最初からうまくいっていたかというと、そうではない。機械を共同利用しているとはいえ、それぞれ別個の経営体のため、やり方が違って出来不出来にも差があった。変化が起きたのは2019年以降。

「スマート農業の一貫体系を入れたところから、潮目が変わりました。それぞれの経営体のキクの生育がそろい、販売額がそれまでの年を上回るようになりました

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秋田県農林水産部園芸振興課の山形茂(やまがた・しげる)さんがこう解説する。コメ、麦、大豆といった土地利用型作物はほとんどの作業が機械で完結する。一方の花きを含む園芸作物は、一部を除いて機械化があまり進んでいない。組合でも畝立てや定植、収穫、調製などを手作業で行っており、負担が大きかった。

秋田県農林水産部園芸振興課の山形茂さん(左)、花きを担当する太田智さん

そこで、実証プロジェクトとして露地栽培でさまざまな機械を導入する。畝立てとピンポイントでの施肥、マルチ張りが一度にできる「自動直進機能付き畝内部分施用機」により、作業時間を54%削減。一般的には全面にまく肥料を、畝内の、しかも定植位置のみに施肥できたことで、肥料を30%削減した。

「半自動乗用移植機」は1人が機械に乗り、1~2人の補助者が苗を補充すると、マルチに穴をあけ、定植する。作業時間が73%削減でき、手作業の定植だと長い時間腰をかがめていなければならないため、歓迎されている。

ほかにもキク用一斉収穫機で作業時間を41%削減、切り花調製ロボットで63%削減できた。全体で作業時間を32%減らせた

手前が半自動乗用移植機。奥の青いトラクターはGPS自動操舵システムに対応しており自動で直進運転ができ、自動直進機能付き畝内部分施用機をけん引している

組合のメンバーである納谷拓美(なや・たくみ)さんは「畝立てと定植がだいぶ楽にできていると思う。これからも機械をうまく使っていきたい」と話す。

園芸振興課で花きを担当する太田智(おおた・さとし)さんは「機械化一貫体系ができたことで、経営面積も拡大に転じていけるはず。労働力不足や高齢化というピンチをチャンスに変えていってもらえれば」と期待を寄せる。

手前が半自動乗用移植機。奥の青いトラクターはGPS自動操舵システムに対応しており自動で直進運転ができ、自動直進機能付き畝内部分施用機をけん引している

需要期の出荷で高値を狙う

収穫機の導入に当たって大切なのが、生育のばらつきをなくすことだ。そのために、露地の圃場(ほじょう)の一画に電照区を設け、支柱を立てて電球をつり下げている。赤色LED電球を夜間にともすことで花芽分化(成長点が花芽になること)を抑制し、需要に応じた出荷を可能にする。よく使われる白熱電球より消費電力が少なく、寿命が長いほか、花芽分化の抑制効果が高いため導入を決めた。電照を入れない通常の栽培だと需要期を逃して出荷してしまう比率が39.4%と高かったが、導入後はわずか4.5%に減った

需要期に出荷をすれば、より高値で販売できるため、組合メンバーの佐藤駿(さとう・しゅん)さんは「盆前などの需要期にいいものを出していきたい」と意気込む。

園芸メガ団地の電照区。奥に輪菊やスプレーギクを栽培するハウスが並ぶ

メガ団地ができて8年になり、新たな課題もある。同メンバーの佐藤志朗(さとう・しろう)さんが気にしているのが連作障害だ。

「キクの丈が伸びにくくなっているところがある。輪作で回していけるといいんでしょうけど、キクの栽培だけをしているので、改善が課題です」

一部のメンバーは連作障害の解消も目指して、キクの作付け後にえん麦やヘアリーベッチといった緑肥を導入している。「養分を補う効果と、土中の余計なものを吸ってもらう効果を狙っています」と佐藤洋介さん。

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雇用を増やし地元農業の起爆剤に

もともと田んぼのため、水はけを良くするのも課題だ。土中の硬くて密になった層である耕盤を壊すために「カットブレーカー」(全層心土破砕機)をトラクターでけん引して土壌改良し、水はけを改善した。取材で訪れたのは、大雨警報が発令されるほどの雨がやんだ直後だったが「定植前にカットブレーカーを使った圃場は水が全然たまっていない」と佐藤洋介さんをはじめ生産者たちは満足げだった。

団地は今も新規参入者を募集している。既存のメンバーも、武田真志美(たけだ・ましみ)さんが「過去の自分の収量や品質といった実績を更新し続けたい」と話すように、意気込みは十分だ。

佐藤洋介さんは「スマート農業の機械を利用して、栽培面積を増やして、できれば1人で1ヘクタール以上できるようにしたい。そうして、雇用が増やせればいいんじゃないか。この団地が地域の農業にとって、一つの起爆剤になれば」と熱い思いを語る。2023年までに収穫機を新たに2台導入する予定で、メンバーたちは経営のさらなるグレードアップを目指す。

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