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再生可能エネルギーを活用した農村エネルギー自立圏の構築(後編)

再生可能エネルギーを活用した農村エネルギー自立圏の構築(後編)

前編ではスマート農業の普及に伴う新たな電力需要と、農村地域における再生可能エネルギーの可能性について解説しました。今回は農村内でエネルギーの地産地消モデルを構築するための戦略を紹介します。

前回記事
再生可能エネルギーを活用した農村エネルギー自立圏の構築(前編)
再生可能エネルギーを活用した農村エネルギー自立圏の構築(前編)
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農村エネルギー自立圏とは

地域に点在する再生可能エネルギーを地域内で有効活用する地産地消モデルを、日本総研では「農村エネルギー自立圏」と命名しています。農村の豊かな自然や広い土地を生かし、ソーラーシェアリング、小水力発電、バイオマス発電といったクリーンな発電を行い、それを地域内の農業者・住民が電動農機や電気自動車(EV)で活用するモデルです。

ポイントは農業者間で再生可能エネルギー由来の電力を売買する点です。これまで農業者や農業者団体によるソーラーシェアリングや小水力発電では、生み出した電力は自家消費するか電力会社に売電するかが選択肢でした。ただし、農業者の自家消費量は季節、時間、天候などによって大きく変動するため、多くの余剰が発生することがあります。大規模な発電施設の場合には固定価格買取制度(FIT)などの仕組みにより余剰分を電力会社に売電することができますが、農村で設置されることが多い小規模な発電施設の場合にはコストや条件が合わず無駄になっているケースが散見されます。そこで地域に点在する小規模な再生可能エネルギーによる発電の余剰分を、周辺の他の事業者が利用することで、電気を余すことなく利用することが可能となります。

このようなモデルの特徴が、電気を利用する農機、車、バッテリーが発電場所まで来て充電する点にあります。従来のように電力会社に売電する際には電線の設置などのコストがかかってしまいますが、本モデルの場合にはそのようなコストが不要となります。

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電化が進む施設園芸(筆者撮影)

農村エネルギー自立圏がもたらすメリット

農村エネルギー自立圏の効果の一つが、農業者をはじめとする地域住民の利便性の向上です。農地の周辺に再生可能エネルギーの充電ステーションを設置することで、自身の住居や倉庫以外にも、農村内のいろいろな場所で充電可能になります。休憩時間や他の作業を行っている時間を有効活用して、現地で充電できるようになり、農業者の充電の手間削減につながります。

2つ目のメリットが、再生可能エネルギーの利用促進による環境負荷の低減です。自家消費量や電力会社への売電量に縛られることなく最大限に発電できるため、再生可能エネルギーを無駄なく利用できます。また地域内でのオンサイトでの充電のニーズを踏まえ、新規に小規模な発電施設を設置する農業者が増え、地域内の再生可能エネルギーの利用が進むと期待されます。

3つ目が、地域経済の振興です。農村エネルギー自立圏は、地域内のキャッシュの流れの増加にも貢献します。従来、農業者の電力料金は都市部の電力会社に支払われていたため、農村地域からのキャッシュ流出となっていました。これが農村内の農業者間(再エネ発電をする農業者⇔電気を利用する農業者)での支払いに変わることで、地域内で流れるキャッシュが増加するため、大きな経済波及効果が期待できます。

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果樹園で作業する無人草刈りロボット(筆者撮影)

パターン①農地でのオンサイト充電モデル

続いて、農村エネルギー自立圏の構築に向けた手法に焦点をあてましょう。まずは、再生可能エネルギーによる発電を行う農地に充電ステーションを併設するモデルです。ソーラーシェアリングや小水力発電で生み出された電気のうち、自家消費以外のものを他の農業者・住民に売電するもので、近隣の農業者が空き時間に充電するといった利用形態が想定されます。自家消費量が少ない季節・時間に余りがちだった電気を有効活用できるため、単体の農業者での再エネ利用と比べて、採算性向上や環境負荷低減が図られます。

ただし本モデルを実現するためには、規制緩和が必要です。現在の法制度では農業者が他の農業者に売電することはできません。地域内での再生可能エネルギーの利活用やビジネス創出の促進のためには、農村地域に限定した迅速な規制緩和(農業特区、規制のサンドボックス制度など)が求められます。

パターン②バッテリーシェアリングモデル

もう一つのパターンが、再生可能エネルギーにより充電したバッテリーを近隣農業者に有償で貸し出す「バッテリーシェアリングモデル」です。パターン①と異なり現地での充電時間が必要なく、すぐに使えるという特長があります。本モデルは、スマートフォン用のレンタルバッテリーのように、電力事業に関する法規制を受けずに実施可能です。

他方で、現状は電動農機のバッテリーは標準化されておらず規格や形状がバラバラのため、汎用性がありません。一部の小型農機メーカーでは自社の電動農機に使うバッテリーの種類を減らして汎用性を高める取り組みが始まっています。

さらに、メーカーをまたいだ業界標準の策定や、農機と小型モビリティー(小型電動バイク、シニアカー、電動車イス、アシスト付き自転車など)の間での互換性の確保が進めば、農業者や住民の利便性が格段に向上します。

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農村エネルギー自立圏(バッテリーシェアリングモデル)の概要(画像提供:株式会社日本総合研究所)

地域住民の連携が生み出す新たなローカルビジネス

農村は豊富な再生可能エネルギーを有しているにもかかわらず、これまで十分に活用できていない状況が続いてきました。農村エネルギー自立圏のポイントは「農業者や住民が皆でエネルギーを生み出し、皆で有効利用する」という点です。地域のプレイヤーが有機的につながり協力することで、環境に優しく地域経済にもプラスになる新たなローカルビジネスが生まれます。農村エネルギー自立圏は、SDGsの重要性が高まる時代に適した、農村の新たな姿なのです。

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小型太陽光パネルを備えた農業気象センサー(画像提供:株式会社日本総合研究所)

書き手・日本総合研究所 三輪泰史

株式会社日本総合研究所 創発戦略センター エクスパート
農林水産省食料・農業・農村政策審議会委員、同省食料安全保障アドバイザリーボード委員、高知県IoP推進機構理事等を歴任。

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