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地球も大事、地域も大事。農業×ESGを考える

地球も大事、地域も大事。農業×ESGを考える

大企業向けを中心に「ESG投資」が世界的に広がりつつあります。ESG投資とは、従来の財務情報だけでなく、環境(Environment)・社会(Social)・ガバナンス(Governance)要素も考慮した投資のこと。食品産業や農業に対しても、ESGの観点から短期的な収益向上に留まらず持続性を高めるための取り組みを推進する動きが出てきています。他産業では環境的側面が注目されることが多いESGですが、農業においては社会的側面も非常に重要です。農地、農業を守っていくための地域社会としての取り組みが欠かせません。そのためには生産者、企業、金融機関、専門家、行政などの関係者がこれまで以上に連携を深める必要があります。

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国内農業の持続性は危機的状況、食料安全保障にも影響

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※1:基幹的農業従事者とは農業に主として従事した世帯員(農業就業人口)のうち、調査期日前1年間のふだんの主な状態が「仕事に従事していた者」をいう。
※2:一般労働者とは常用労働者(期間の限定なし、もしくは1カ月以上の期間を定めて雇用されている労働者)のうち、短時間労働者(同一事業所の一般の労働者より1日の所定労働時間が短いまたは1日の所定労働時間が同じでも1週の所定労働日数が少ない労働者)以外のものをいう。

国内農業の持続性不安(農業構造動態調査、人口統計、耕地及び作付面積統計、賃金構造基本統計調査をもとに筆者作成)

日本国内の少子化や人口減少が報道されていますが、農業における生産者の減少は人口全体の減少ペースを上回っています。しかも他産業に比べ生産者ははるかに高齢です。日本の農業はこれまで地域の風土に合わせた品種改良や安全で優れた肥料・農薬の投入や機械化を進め、どうにか生産を維持してきました。しかしその工夫やノウハウを蓄積してきたベテラン生産者も引退が近づいています。

このままでは国産の農産物を安定的に供給することは難しくなります。燃油や小麦などの価格高騰による食料品のインフレが起こり、「食料安全保障」という言葉も知られるようになってきましたが、食料安全保障のためにはもっとも基本的な柱である国産農産物の供給力向上が不可欠です。とはいえ、その責任を今の生産者だけが背負うのは無理があります。個々の農業生産技術や農業経営だけではなく、農産物のサプライチェーン(流通・加工・販売)、あるいは農業分野への投資に至るまで農業全体のシステムを持続的なものに変えなくてはなりません。この農業システムの持続性向上への取り組みにあたり、「ESG」の観点で考えることが有意義です。

農業の持続性向上のためには地域全体での収益の安定化と投資余力確保が必須

農業の持続性向上とは「農地が周囲の自然環境と調和しながら保全されること」と「生産者が農業経営を続けられること」を両立する取り組みといえます。前者は主にE(環境)側面であり、後者は主にS(社会)、G(ガバナンス、統治や意思決定)の側面です。

Eの側面については、農林水産省が2021年5月に決定した「みどりの食料システム戦略」で挙げられた課題への取り組みが中心になるでしょう。この中には、石油由来の化学合成農薬や肥料の使用量削減、農業機械の電動化、家畜や圃場(ほじょう)から発生する温室効果ガスの削減、農地を活用した再生可能エネルギー生産など、多くのテーマに対する技術革新や新たなルール・目標による動機付けなどが含まれています。これは2050年の農林水産業CO2ゼロエミッション(排出ゼロ)実現などの目標に向け、息長く取り組まれるべきものです。

SやGの側面については、個々の生産者の経営が持続的になることと、生産者が集まる農村社会が維持されることが必須です。農業は儲からない、と言われますが天候不順や病害虫発生を乗り越えて安定生産・出荷が可能になる技術革新、サプライチェーン横断的な情報共有による需給調整、さらには新しい金融的手法を用いた投資やリスク対策を行うことで、儲かる農業は実現可能です。ただ、経営規模の小さい個々の生産者だけでは実現のための人手や資金が不足することが課題です。また、これまで農村では地域全体で分担して農地を守るために周辺の自然環境保全に取り組んできました。いわゆる「里山」との関わりはその代表的なものです。しかしこうした農村独自の社会活動も農村の高齢化や人口減で難しくなってきています。

今後の農村におけるESG側面を考慮した事業活動や社会活動は、農村コミュニティーだけでなく、広くサプライチェーンに関係する企業や金融機関などが責任を持って関わりながら検討し実行しなければならないでしょう。農林水産省でも2022年3月に「農林水産業・食品産業に関するESG地域金融実践ガイダンス」を公開し、地域金融機関による農林水産業・食品産業に対してESGを考慮した投融資推進を後押ししています。

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農業におけるE、S、Gの取り組み課題例(農林水産省「農林水産業・食品産業に関するESG地域金融実践ガイダンス」より抜粋)

農業の持続性向上に取り組んでいる事例

上述した、生産者と企業や金融機関が連携して農業や農村の持続性向上に取り組んでいる事例をご紹介します。
秋田県大潟村でタマネギの産地化に取り組んでいる「株式会社みらい共創ファーム秋田」では、機械化大規模栽培によって流通・加工業者が求める要件を満たすタマネギづくり・出荷体系づくりを進めています。要件にはもちろん価格も含まれますが、それに合わせてどのような方法で栽培し、一次加工を行い、出荷するかまで流通・加工業者と共に検討し、一体型のサプライチェーンを作っていくことで「地域の生産者も、販売先も、消費者も」皆がメリットを持続的に分け合うことを目指しています。同社は地域の生産者、金融機関などが出資して作った農業法人ですが、金融機関は単に出資するだけにとどまらず、事業の具体的な組み立てや農作業、社会活動にまで関わっています。従来の農業以外の業界の視点や考え方も融合することで、生産性向上や省力化を進めるための技術革新や環境保全にも積極的に取り組んでいます。

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株式会社みらい共創ファーム秋田のタマネギ栽培(画像提供:株式会社みらい共創ファーム秋田)

なお、次回(9/9掲載予定)の配信記事では、株式会社みらい共創ファーム秋田の社長・涌井徹(わくい・とおる)さんに、農業の持続性を高めるためのポイントや関係者が取り組むべき課題、考え方についてお話を伺います。

10年後も国内農業が持続できるような取り組みに関係者一丸で注力を

農業は変わらない産業と言われてきました。10年前にも「10年後の農業は変わる」と言われていましたが、それから10年経った今「まだまだ何も変わっていない」という意見も多く聞きます。しかしながら国内農業持続のための変革は、地球環境を守るための社会変革と同じくらい待ったなしの状況です。変革には手間もかかり、覚悟も、また投資も要ります。農業に対する投資は、いち事業体の持続性を高めるだけではなく地域社会全体を支えること、あるいは地域の自然環境を支えることにもつながります。まさに地域のESG向上のための投資なのです。既に種はたくさんまかれ、いくつもの芽が各地域で出てきています。生産者、サプライチェーン関係者、金融機関、専門家、行政など関係者が一丸となって連携できるよう、我々日本総研でも取り組みを行っていきます。

書き手・日本総合研究所 山本大介

コンサルタントとして事業戦略・組織戦略策定、新規事業開発、地域金融機関支援に従事。農業分野には官民のプロジェクト実務を担当し15年以上携わる。食・農分野における企業の取組評価を行う業界初の金融商品を10年以上前に開発。先進的な農業経営のあり方を研究・発信してきた。岡山県農業経営・就農支援センター登録専門家。

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