農業用ドローンとは
無人航空機「ドローン」は、多くの業界で活用が期待されています。
主に知られているのは複数のプロペラを持つ「マルチコプター型(マルチローター型)」の機種ですが、飛行機やグライダーに似た翼を持ち長時間飛行もできる「固定翼型」もあります。
農業においてドローンは、スマート農業の一分野として語られることが多いですが、農業用ドローンと一口に言っても、搭載するものは農薬のタンクだったり、特殊なカメラだったりと、多種多様。以下では、「農業に用いられるドローン」という意味で広くとらえながら、農業用ドローンを紹介していきます。
農業用ドローンの主な活用事例
農業用ドローンの活用範囲は多岐にわたります。その活用事例について具体的に見てみましょう。
農薬・肥料の散布
農業用ドローンの代表的な活用事例が、農薬・肥料の散布です。機体に農薬や肥料を積んで空中から、圃場(ほじょう)へ散布します。後述する、圃場のセンシングと組み合わせてピンポイント散布も可能です。
農林水産省の「農業用ドローン普及計画」(2019年)では、ドローンによる農薬散布面積を2022年度末までに100万ヘクタールに拡大することを目標としています(2020年度の実績は推計約12万ヘクタール)。
農薬・肥料の散布は現在、もっとも多く使われている用途とも言われ、実際に使っている人や、身近で目にしたことのある人もいるでしょう。
圃場のセンシング
農作物の生育状況や土壌の状態などを、ドローンから撮影した画像によって分析します。病害虫や雑草の発生状況の確認にも用いられます。
人の目では見られない情報を撮影できるマルチスペクトルカメラなど、特殊なカメラを使って生育状況を示すデータを取得し「光合成ができているかどうか」を判断するなど、高度な分析が可能です。
種まき
播種も、ドローンによる農作業の効率化が期待される分野です。
現在、ドローンによる水稲の直播(ちょくはん)実証が行われており、これによって育苗や田植え作業が不要に。作業の大幅な省力化が見込まれています。
受粉
果樹の農作業でもドローンの活用は始まっています。
試験的に、リンゴやナシについて、花粉を混ぜた溶液を空中から散布することで受粉作業を行い、作業時間が削減できている事例も。
着果率の確保などの課題はありますが、人工受粉は高所作業のため、農家の安全のためにも一役買うと考えられます。
農作物の運搬
物流もドローンの活躍が期待される分野。農業でもドローンによる農作物などの運搬実証試験が行われています。
収穫した農作物や、農作業に必要な道具をドローンで運ぶことで、輸送時間の短縮や運搬の負担軽減などが見込まれます。
鳥獣被害対策
鳥獣被害対策にもドローンは活用可能です。
一部の自治体では、シカやイノシシなどの有害鳥獣の生息地域や行動状況を把握するためにドローンを活用しています。夜間に赤外線カメラを搭載したドローンで空中から対象地域を撮影することで生息状況を調査。この結果を生かして、捕獲や柵を設けるなどの対策につなげています。
農業用ドローンの操作に資格や免許は必要?
ドローンの操作に公的な資格や免許は無し
こうしたドローンの操作に当たって、資格や免許は必要ありません。
ただし、農薬などを散布する場合は事前に飛行の許可・承認の申請を行う必要があります(手続きの詳細は後述)。
この申請に当たって求められるのが、ドローン操縦者の⼀定の技能・⾶⾏経歴であり、それを示す書類の提出です。技能・⾶⾏経歴は講習団体や管理団体の講習を受けることで得ることができ、修了した後に取得できる技能認証により提出書類の一部を省略できます。
講習団体は、一般社団法人日本UAS産業振興協議会(JUIDA)、一般社団法人ドローン操縦士協会(DPA)などが管理する団体や、DJIといったドローンメーカーなどさまざま。講習期間や技能認証の有効期間、手数料は各団体によって異なりますが、一例では3日間の講習で約25万円です。
2022年12月以降に国家資格が創設予定
なお、2022年12月に、改正航空法が施行されます。
背景には、市街地でのドローン配送などを見据えた「レベル4飛行」(有人地帯上空での補助者なし目視外飛行)の実現目標があり、安全な飛行のためにも、国家資格としての技能証明制度が創設される予定です。
従来の民間の技能認証が無効になるというものではありませんが、念頭に置いておくとよいでしょう。
農業用ドローンを活用するメリット
さて、いざ農業でドローンを活用しようとする際のメリットについて、主なものを説明します。
小型・軽量で持ち運びがしやすい
空中からの作業を行う際に、無人・有人ヘリコプターを利用する場合があります。しかし、これらは機体が大きく、1人での持ち運びが難しいという課題がありました。
一方、ドローンは比較的、小型で軽量。そのため1人でも持ち運びやすいというメリットがあります。ただし、作業の際には、周囲の安全確認を行うための「補助者」が必要となります。操縦者だけで作業する場合は、立入管理区画を設けるなど「航空局標準マニュアル(空中散布)」に即した安全体制を整える必要がありますので、注意してください。
農薬や肥料の散布の負担を減らせる
農薬や肥料の散布作業について、負担を減らせることもメリットです。
農業用ドローンによる空中からの散布は、1ヘクタールあたり約10分と言われます。散布機を背負うなどして人力で行う場合と比べると、体への負担も大きく減らせるでしょう。
特に人手不足の農家にとっては、農業用ドローンは貴重な“働き手”になるはずです。
人が立ち入りにくい土地でも農作業しやすい
急傾斜地や高所などの危険性のある場所の作業を、農業用ドローンで行うことも可能です。手間が減ることはもちろんですが、作業者の安全性も保たれるでしょう。
小型のため小回りも利き、人が作業するよりも効率の良い農作業が期待できます。
生育状況を適切に把握して均一な栽培ができる
圃場のセンシングにより、農作物の生育状況を適切に把握できます。
生育のばらつきが分かればピンポイントでの施肥や、農薬散布などの手を打つことができ、こうした作物の均一化を図ることで、収量の安定にもつながってくるでしょう。
農業用ドローンの活用で覚えておきたいデメリット
農業用ドローンを活用する上では、デメリットも考えられます。把握しておきたいデメリットについて紹介します。
購入やメンテナンス費用がかかる
まず、農業用ドローンの導入には、当然ながら購入費がかかります。
機体のサイズや機能などにより差があり、50万円以下のものもあれば、200万円を超えるものもあります。また、長く使うためには機体のメンテナンスや、プロペラやバッテリーなどの消耗品の交換も欠かせません。
しかし、コストだけで判断するのではなく、もともとの作業時間と比較することや、使用期間や頻度も織り込んだ費用対効果を見極めることが重要です。
操作技術を覚える必要がある
次に、ドローンを使ったことがなければ操作技術を覚えなければなりません。
高齢の農家などにとっては、新しい技術の習得は負担に思うかもしれません。ですが、何事も、新しい試みには抵抗感が生じるもの。慣れてしまえば作業負担も軽減できますし、技術を学べる講習も各所で開かれています。
使用できる農薬が限定される
農業用ドローンでは使用できる農薬が限られることも注意しておきましょう。下表のとおり、ドローンに適した農薬数は作物によって差があり、稲がもっとも多いです。しかし、今後の農業用ドローンの普及に伴い、それぞれ増えていくことが考えられます。
出典:農林水産省「平成31年3月以降に新規登録されたドローンに適した農薬の数」
農業用ドローンを使う際に必要な手続き
飛行許可・承認申請の手続き
ドローンの飛行には、飛行許可・承認申請の手続きが必要な場合があります。
ポイントは2つあり、①どんな空域で飛ばすのか、②どんな方法で飛ばすのか、です。
①どんな空域で飛ばすのか
以下の空域でドローンを飛ばす場合は、申請手続きが必要です。
・空港などの周辺
・地表・⽔⾯から150メートル以上の空域
・⼈⼝集中地区の上空
②どんな方法で飛ばすのか
以下の方法でドローンを飛ばす場合も、申請手続きをしましょう。
・夜間の飛行
・目視外での飛行
・人または自動車や第三者の建物などと距離(30メートル)を確保できない飛行
・祭礼や縁日などの催し物の上空での飛行
・危険物の輸送を伴う飛行
・物件の投下を伴う飛行
ドローンによる農薬・肥料の散布は手続きが必要
ドローンでの農薬・肥料の散布は、上記の「物件の投下」に当たり、飛行許可・承認申請の手続きが必要です。許可・承認申請は、国土交通省のドローン情報基盤システム(Drone/UAS Information Platform System、通称DIPS)でのオンライン申請のほか、郵送、持参により行います。
以下の資料を用意して、散布予定⽇の遅くとも10開庁⽇前までに申請します。なお申請は、ドローン販売店などに代行してもらうこともできます。
申請の提出資料で示すもの
①ドローン機体の機能・性能
②操縦者の⾶⾏経歴・知識・技能
③空中散布に係る安全確保体制(⾶⾏マニュアルなど)
前述のとおり、民間の技能認証取得によって②の資料の一部を省略できるほか、①もあらかじめ基準を満たした機体については同じく省略できます。
提出資料の一部を省略できるドローンや講習団体などは、いずれも航空局のホームページ内「無人航空機の飛行許可・承認手続」から資料を確認できます。
機体の登録手続き
また、2022年6月20日からは、100グラム以上のドローンの登録が義務化されています。登録されていないドローンを飛ばすことはできませんので、注意してください。
農業用ドローンの導入に活用できる補助金制度
農業用ドローンの導入には、自治体などの補助金を活用することも可能です。スマート農業関連の補助金など、種類はさまざまですが、以下にその一部を紹介します。
年度により制度に変更が生じている可能性もあります。最新情報は、申請先のホームページなどからチェックしてみましょう。
産地生産基盤パワーアップ事業
収益力強化に計画的に取り組む産地に対して支援される農林水産省の事業です。高性能な機械・施設の導入などに対し総合的に支援することがうたわれています。
地域農業再生協議会等が連携し、目標などを設定した「産地パワーアップ計画」を作成したうえで、その経費について助成されます。
対象 | 地域農業再生協議会等が作成する「産地パワーアップ計画」に参加する農業者、農業者団体など |
補助率 | 1/2以内 など |
その他 | 日程などの詳細は都道府県、地方農政局などで異なる |
詳細URL | https://www.maff.go.jp/j/seisan/suisin/tuyoi_nougyou/sanchipu.html |
小規模事業者持続化補助金(一般型)
この補助金は、農業に特化したものでなくても利用することができます。
小規模事業者が販路開拓や生産性向上に取り組むための経費の一部を補助するのが小規模事業者持続化補助金(一般型)です。ただし、農協への系統出荷のみの個人農業者は対象外となり、直売所での販売やインターネット販売などをしている必要があります。
2022年9月時点で、今後の公募は第10回(2022年12月上旬締切)、第11回(2023年2月下旬締切)となっています。
対象 | 農業の場合、常時使用する従業員が20人以下 |
補助率 | 2/3(赤字事業者の賃金引上げ枠は3/4) |
その他 | 系統出荷による収入のみの個人農業者は対象外 |
詳細URL | https://r3.jizokukahojokin.info/ |
スマート農業の全国展開に向けた導入支援事業(農業支援サービス導入タイプ等の第4次公募)
スマート機械などの共同購入・共同利用、営農条件に合わせた機械のカスタマイズなどの取り組みを支援する事業です。ドローンも、補助対象の機械に含まれています。補助率や上限額は個別要件などで異なっています。
2022年9月時点で、第4次公募(申請提出期限2022年10月末)が行われています。
対象 | ①農業支援サービス導入タイプ(農業支援サービスを新たに実施する者もしくは実施している者) ②一括発注タイプ(1つの機械を5台以上一括発注する農業者など) |
補助率 | ①、②や個別要件により異なる |
その他 | 農林水産省共通申請サービス(eMAFF)より電子申請 ※申請画面は10月3日(月曜日)に開設予定 |
詳細URL | https://www.maff.go.jp/j/supply/hozyo/nousan/220912_376-1.html |
農業用ドローン・関連ソフトウェア5選
では、実際に導入するにあたって、おすすめのドローンを紹介しましょう。
DJI農業ドローン『AGRAS T30』『Agras T10』/DJI JAPAN 株式会社
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出典:DJI JAPAN 株式会社
<AGRAS T30>
農業の新しいデジタル・フラッグシップ
■高効率な散布作業を実現した最大9m散布幅
■大容量30L液剤タンク(粒剤タンク40L)
■最大吐出量8L/分 新設計プランジャーポンプ
<AGRAS T10>
使いやすく初心者にも最適な農業ドローン
■コンパクトなサイズで最大6m散布幅
■簡単交換カセット式タンク
<共通機能>
■新型粒剤散布装置(耐腐食)
■前後FPVカメラ
■ワンタッチ展開可能なアームホルダー
■球面全方向レーダー
■RTKモジュール
■保護等級IP67
T30の本体価格は約170万円(希望小売価格)、T10の本体価格は約120万円(希望小売価格)です。
DJI JAPAN 株式会社
DJI農業ドローン
『AGRAS T30』『Agras T10』/DJI
「AGRAS T30」「AGRAS T10」新製品発表会
(YouTube動画)
農業用マッピングソフトウェア『PIX4Dfields』/Pix4D
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出典:Pix4D
PIX4Dfieldsはドローンで撮影した圃場の画像や衛星画像から、作物の成⻑分布を⾒える化します。農家さんは、生育の早い箇所・遅い箇所をマップ上で見ながら、成長ステージに応じて肥料や薬剤を最適化することができます。農業を始めたばかりの方でもデータに基づいて意思決定をすることが可能です。
PIX4Dfieldsは、農家・農学者などの専門家とともに作られたソフトウェアです。インターネット接続なしで軽スペックのパソコンでも数分で処理をすることができるため、どなたでも手軽にドローンを使った精密農業に取り組んでいただけます。
散布アシスタント農業用ドローン『TA408-F』/TEAD株式会社
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出典:TEAD株式会社
自動飛行モード搭載。専用アプリによる各種サポート機能により、操縦者の負担を軽減すると共に均一散布を実現します。優れた安定性・操作性により、安全かつ効率的に作業を行うことが可能です。飛行経路や散布実績などの参照ができるため、散布計画や実施を適切に行うことができます。
【特徴】
■送信機ディスプレイ
FPVユニット(前方カメラ)情報の表示
各種ステータスの表示
散布実績の確認
■高い飛行安全性により操縦者の負担を軽減
自動離発着機能
高度維持機能
■優れた散布性能
力強いダウンウォッシュ
ツインポンプ搭載
■粒剤散布装置
1kg剤からまめつぶ材まで対応
『飛助MG/DX』10L農薬散布ドローン/株式会社マゼックス
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出典:株式会社マゼックス
2018年1月から販売されている飛助シリーズの新型モデル『飛助MG』(農林水産航空協会認定機)と『飛助DX』。「日本の圃場で本当に役立つ機体」をコンセプトに、ユーザーの声をもとにして国内で使い易い機体を考え抜いて開発された同機はオリジナル制御装置を搭載し、前モデルに比べて大幅に性能が向上しています。価格は82万4千円~(税込)。
『飛助mini』5L農薬散布ドローン/株式会社マゼックス
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中山間地でも扱いやすさを実感できることと、導入しやすいコスト設定にすることを前提に開発された機体。1つのバッテリーで合計1ヘクタール散布できる低燃費仕様。搭載する機能を厳選し、必要な能力に特化したことで、導入しやすい価格も実現している。価格は60万5千円~(税込)。
自分の農業に合わせてドローンを活用しよう
農業用ドローンは今日、さまざまな場面で活用されており、今後も普及が進むことでしょう。導入によって、農作業の負担が減ったり、新しく取り組めることが増えたりすることも考えられます。自身の農業に合わせた農業用ドローンの活用を考えてみてはいかがでしょうか。
こちらの記事でも、農業用ドローンのさまざまな人気メーカーが紹介されています。