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DXが生む、人と地域の新たな関係性

DXが生む、人と地域の新たな関係性

「関係人口」という言葉をご存じでしょうか。総務省によれば、関係人口とは移住した「定住人口」でもなく、観光に来た「交流人口」でもない、地域と多様に関わる人々を指す言葉です。近年、デジタル技術の活用により、関係人口と呼ばれる人々と地域との関係が変化しています。今回は、地域とのつながり方におけるDX(デジタル技術による変革)について、背景や意義を見ていきます。

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関係人口とは

関係人口は、地域に定住してはいないものの、その地域との関わりに対して強い思いを持つ人たちを指します。具体的には、何度も地域に訪れる人(風の人)、地域内にルーツがある人(近居・遠居)、過去に居住したり滞在したりした経験を持つ人などが挙げられます。

例えば、農業体験で生産者とのつながりを持ったことをきっかけに、毎年収穫の時期に訪れて手伝うようになった人。転勤のため一時的に住んだ地域で伝統野菜のおいしさに感動し、その土地を離れてからも定期的に買いに行く人。いろいろなきっかけや関わり方がある中、関係人口と呼ばれる人たちは、その地域を愛するファンとも言えるでしょう。

関係人口は、政策上でも重要視されています。2016年、総務省に設置された「これからの移住・交流施策のあり方に関する検討会」では、関係人口に着目した施策の重要性が議論されました。背景には、人口減少や高齢化に課題を感じる地域が多いこと、また一方で、居住地以外の地域を大切に思い、応援・貢献したい気持ちを持っている人がいること、そしてそうした人々が地域づくりに関わり地域を元気にする取り組みが生まれ始めていることがあります。検討会での議論をふまえ総務省では、2018年の「『関係人口』創出事業」以降、関係人口の創出に関わる事業を毎年実施しています。

コロナ禍での変化

2020年の新型コロナウイルスの感染拡大は、関係人口創出の動きに変化をもたらしました。これまで関係人口として頻繁に地域を訪れていた人たちが、移動制限等でなかなか地域に行くことができないなど、地域に足を運ぶハードルが一気に高くなってしまったのです。地域における農業体験や収穫祭などのイベントも、感染防止のために中止せざるを得ない状況が続きます。地域に訪れていた人たちにとっても地域にとっても、苦しい時期となりました。

そんな中で注目されたのが、オンラインツールなどのデジタル技術です。新型コロナウイルスの感染拡大は、オンラインを通じたコミュニケーションを急増させました。地域内外の関係においても同様で、インターネットを活用した農産物の直接販売がコロナ禍で急増し、オンライン農業体験や生産現場中継といったイベントも行われるようになりました。中には、VR(バーチャルリアリティー)を活用したユニークなものも見られます。
こうした新たな取り組みが、人々と地域の新たな関係性を作り出しています。

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新たな関係性を作るDX

これまで農産物は店舗で販売されることが一般的でしたが、コロナ禍のリアルな場での販売減少をきっかけに、インターネットで直接販売を始める生産者が増えています。直接販売では、農産物というモノが直接やりとりされるだけではなく、消費者とのつながりも直接的になります。コロナ禍で直接販売を始めた生産者から、「自身の地域が自然災害の被害を受けた際に、ニュースで見た消費者が心配して連絡をくれ、うれしい気持ちになった」といった話を聞きました。単に「農産物を売る・買う」を超えた、新たな関係ができた例と言えるでしょう。

コロナ禍では、オンライン農業体験などのイベントも多く見られるようになりました。イベント開催に合わせて参加者に農産物を送り、オンラインで生産現場を紹介するとともに農産物を楽しんでもらうといったプログラムが提供されています。これまで、都市に住む人々が遠方にある生産現場を見るためには、予定をしっかり組んで、時間をかけて訪れる必要がありました。オンラインを活用することにより、家にいながら気軽に生産現場を訪れるという新たな体験が可能になっています。

これまで中心だった「リアルの場での関係」だけでなく、デジタル技術の活用によって「その場に行かなくてもつながる関係」が増え、新たな価値や楽しみも生まれているのです。

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DXで関係人口拡大のチャンスを広げる

コロナ禍で新たに誕生した取り組みは、当初は「これまでの取り組みができないから、その代わりに」といったやや後ろ向きの思いで生まれたものだったかもしれません。確かに、顔を合わせることによる安心感、実際に見て触れるという体験による充実感は、オフラインにはかないません。しかし、手軽にいつでもどこでもつながることができるオンラインならではの価値もあります。また、近年のSNSの発達は、より手軽に、多くの人々にアプローチする強力な手段となっています。離れた場所にいてもこれまで以上につながりを感じられるツールとして、関係人口の創出・維持に非常に有効です。

地域側の視点で考えると、従来のリアルを中心としたつながり方と、コロナ禍で発展した新たなつながり方とを組み合わせれば、さらなる広がりが期待できます。例えば、消費者が農村を訪れて植え付け体験を行い、成長過程はSNSやオンラインツールによる中継で確認、最後に収穫体験で再び農村を訪れる。そんなパッケージも考えられます。

また、コロナ禍では地域や農業に対する関心が社会的に高まったと言われています。「自宅で調理する機会が増え、自分たちが食べている農産物が生産されている現場を見てみたくなった」、「豊かな自然の中で心を休めたい」、「地域の生産者、国内の生産者を応援したい」といった声を聞くことも多くなりました。関係人口としてどこかの地域に関わりたいと思う人は、増えていると考えられます。最近では農産物の購買とともに生産者と直接やり取りができるサービスが発達し、消費者側から生産者に提案することもできるようになっています。実際に、直接販売でつながった消費者からのリクエストを受けてSNSで生産現場の中継をしたり、オンライン料理教室を開催したりと、新しい取り組みを始める生産者も出てきています。

このように関係人口を創出したいと考える地域にとっても、地域に関わりたいと思う人々にとっても、新しい関係性を作るチャンスが広がっているのです。

10月7日掲載予定の次回記事では、実際にデジタル技術を活用して新たな接点を作った地域の事例を紹介します。

書き手・日本総合研究所 多田 理紗子
株式会社日本総合研究所 創発戦略センター コンサルタント
農業・食分野を中心に、新規プロジェクトの企画設計・実行支援および調査・コンサルティングを行う。

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