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補助金申請用の事業計画だけでは危険? 自身の事業計画書は別にちゃんと作ろう!

hiracchi

ライター:

補助金申請用の事業計画だけでは危険? 自身の事業計画書は別にちゃんと作ろう!

新規就農者育成支援総合対策事業(旧農業次世代人材投資資金など)をはじめ、新規就農者には手厚い支援制度が設けられており、これらを受けるためには「事業計画書」を作ることになります。ただ、補助金申請用の事業計画書を作成するだけで満足していると、落とし穴にはまる危険性があるため、それとは別に事業計画書を作ることが重要です。どうして別に事業計画を立てる必要があるのか? その理由を解説します。

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支援を受けるための事業計画のワナ

2010年夏に新規就農し、この秋から13年目を迎える僕、ひらっちは、新規就農者からの相談を受けたり、指導したりする機会も徐々に増えてきています。FP(ファイナンシャルプランナー)資格を持っていることもあり、特にここ数年は、既存農家の経営の相談に乗ったり、新規就農を目指す人の指導をしたりしてきました。

その際、注意すべきポイントの一つとして伝えているのが「補助金」です。特に新規就農を目指す人には、多くの補助金が用意されています。そのうちの柱となるのが旧農業次世代人材投資資金を含む「新規就農者育成支援総合対策事業」です。

支援対象となる農業用ハウス

農業用ハウスなどにも支援がなされるように(画像はイメージです)

農業次世代人材投資資金は2022年度から制度が改定され、「新規就農者育成支援総合対策事業」の一部となりました。これは、40代以下の農業従事者の拡大を目的にした新規就農者の育成対策の一つで、就農時には機械・設備などの補助が最大1000万円まで支援してもらえる「経営発展支援事業」や、年間150万円×最長3年の支援金が給付される「経営開始資金(旧農業次世代人材投資資金の経営開始型)」など、手厚い制度になっています。

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実際、僕のところへ新規就農の相談に来る人や、周りの新規就農者の話を聞いてみると「補助金があったから就農をした・考えた」という人が少なからずいます。新規就農者を増やすための制度ですから、こうした考え方の人がいることを否定するつもりはありません。制度の趣旨に沿った反応だと思います。

しかし、補助金はあくまで「手段」であり、本来の目的は「自立した農業経営を早期に実現すること」です。もちろん農業に限った話ではありませんが、正直なところ、補助金の獲得が目的化しているように見える人も散見されるのが実情です。就農時には、補助金ありきではなく、本来あるべき自身の事業計画をきちんと考えておくことが大事です。

本来の事業計画書の目的は?

補助金の申請は、多くの場合、事業計画書の作成がセットになっています。文字通り、今後の事業の計画をまとめた書類ですが、補助金に応じて一定のフォーマットがあり、行政の担当者などと一緒に作成していくことが多いと思います。僕は2012年に創設された「青年就農給付金」の対象者だったのですが、その受給申請のための事業計画書を作成した時もそうでした。

事業計画書を作成すること自体は、補助金の支給先としての正当性を示すためのものとして必要だと思います。ただ、注意しておかなければならないのは、補助金申請のための事業計画書は「あくまで補助金をもらうことが目的だ」ということです。

補助金申請

補助金申請のための事業計画書は、あくまで申請を受理してもらうことが目的。経営のあるべき姿とは切り離して考えることが大切です

経営開始資金の支給要件には、「前年の世帯全体の所得が600万円未満」という基準があります。仕事を辞めてゼロから新規就農する人の場合、2年目までにこれを超える所得を農業のみから得るのは難しいケースが多いと思います。ただ、片方が新規就農し、もう一方が正社員で会社に勤めている夫婦などはこの基準を超えることが予想されます。また順調に経営規模が拡大した場合にも、補助金は満額もらいたいという考えが働きがちです。

かつての青年就農給付金や農業次世代人材投資資金は、同様の基準の給付が就農後5年間続く制度になっていましたから「長期間にわたって補助金をもらえるように、あえて売り上げを低く抑える」といった力学が働く可能性がより大きかったように思います。その点、改正後の経営開始資金は最長3年間と改善がなされていると言えますが、それでも「補助金の甘い誘惑」があるのは事実です。

補助金は、農業から得る売り上げよりもインパクトが大きいです。なぜなら通常、売り上げを上げるためには経費が掛かり、そのままの金額が手元に残るわけではないからです。だからこそ補助金は、それに頼りたいという誘惑にかられがちになる。これが補助金をもらうことの弊害です。農業経営がそれほど順調ではなくても、なんとか生活が成り立ってしまうわけです。

補助金をもらうことが目的化してしまえば、経営のあるべき姿がゆがんだ形になってしまう。だからこそ補助金を使う・使わないに関係なく、自分がどんな経営を目指したいのかをきちんと考え、本来目指すべき自身の事業計画を、別の形でまとめておくことが大事なのです。

就農時の事業計画書はどうあるべきか?

事業計画書イメージ

生活費から逆算して目指すべき5年間の売上金額を設定し、それを各事業へと落とし込んだ計画書。柔軟に見直しがきく計画を立てるようにしています

あるべき事業計画書とは何か? 人によって捉え方はさまざまだと思いますが、僕は「数年後の未来のあるべき姿を示す指針をまとめたもの」だと考えています。事業内容を定めたうえで、今後の戦略を具体化し、どれぐらいの売り上げを確保すればいいのかを考え、自身が取り組むべきことを明確にするためのものです。

「じゃあ、ひらっちさんは、さぞかし立派な事業計画書を立てているんですよね?」。そんな風に思われているとしたら、かなり期待外れになるかもしれません。僕自身のリアルな事業計画書は、新年に手書きで5カ年計画をざっくりまとめたもの。消しゴムで簡単に消せる鉛筆書きのメモのようなものです。

一般に事業計画書とは、事業の立ち上げ時や継続に必要な資金を調達するために必要となるものです。ただ、僕が大事だと思っているのは、自身が何をすべきかを明確にするための事業計画書。外向けの計画書ではなく、内向きの計画書を作ることが重要だと思っています。

僕は農業を始める際、地元JAが主催する研修で栽培技術を学ぶのと並行し、商工会議所や金融機関が主催する創業希望者のための勉強会にも数多く参加しました。

僕はその時すでにライター業を始めており、小さいながらも経営者として数年のキャリアを積んでいたわけですが、その立場から勉強会に参加してみると「なぜこんなにも事業計画書の細部にばかりこだわるんだろう」と疑問に思ったものです。

補助金の事業計画書と同様に「金融機関からの融資を受けること」が目的なのであれば、それに応じたきれいな事業計画書を作る必要もあるでしょう。しかし、本当に大事なのは、自立した経営をすること。そのための近道は、計画をこねくり回すことではなく、小さくてもいいからスタートし、失敗という経験を積みながら、早くPDCAを回していくことです。試行錯誤を繰り返しながら「プランB、プランC……」と試していくなかで、徐々に事業を固めていけばいいのです。

きれいな事業計画書を作成することに終始し、全く行動が伴っていない起業希望者に数多く遭遇しました。そのなかで「事業計画は生煮え状態でもいい。すぐさま行動に移し、いつでも変更できる可変性の高いものでなければならない」と改めて思いました。

農業に経営の視点は欠かせない!!

素人考えの事業計画書

就農時の「素人が考えた計画書」に縛られすぎるのは危険です。自身の事業計画は柔軟性を持たせるようにしましょう

補助金申請時に作る事業計画は、補助金対象期間の終了時点がターゲットになっていることが多いと思います。ただ、農業経営は補助金の支給期間が終わってからが本番です。そこに向けての計画を考えておかないと「補助金が終了したら続かない」ということになりかねません。

また、補助金用の事業計画書は、過去の事例などから妥当な数字を作り上げていくわけですが、正直、そんなにうまく行くわけがない。だからこそ、自身の事業計画は柔軟に変更していくことが大事です。

人は、ただでさえ「現状維持バイアス」に陥りがち。当初の計画を守りたい、変えたくないという心理が働きます。ただ、最近は環境の変化が激しい時代です。補助金申請時の事業計画のように、当初見込んでいた計画に縛られてしまうと、変化に対応できません。ただでさえ、全く手探りの状態からビジネスを始めるのが新規就農です。当初のもくろみが全く外れていたなんてことは、往々にして起こります。まだ農業を始めてもいない素人が作成した「ファンタジーな事業計画書」にその後の経営を縛られてしまうと、泥沼にはまる危険性があります。

5年くらいのスパンでざっくりとした計画を立て、それを具体的なアクションに落とし込んでいく。それを実践しながら半期に1度、少なくとも1年に1回は見直していくような形がいいと思います。

繰り返しになりますが、補助金をもらいたいがために、売り上げを抑えたり、経営規模の拡大を控えるといったことになるのは、本末転倒です。また、補助金をもらうことで経営の本質を見失い、「給付金が出て生活ができているからいいか」といった間違った安堵(あんど)感を得ているようなら、かなり危険です。本来なら撤退すべき水準にもかかわらず延命された状態かもしれないからです。

自身で農業を始めるということは、経営者になるということです。くれぐれも補助金ありきの事業計画書を作っただけで満足するのではなく、自身の稼ぐ力を最大化するための計画を作るようにしてください。

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