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リンゴの高密植わい化栽培の可能性と課題とは

窪田 新之助

ライター:

リンゴの高密植わい化栽培の可能性と課題とは

青森県のリンゴ産地で高密植わい化栽培への期待が高まっている。早期成園や多収、高品質、省力などを図れるからだ。ただ、資材費の急騰によって初期投資が大きくかさむようになったほか、苗木が不足する事態が続いている。現状を取材した。

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木が一直線に並んで作業が効率化

青森県のリンゴ園を訪れると、その多くでは木がまばらに植えてある。これでは機械は通りにくい。おまけに摘果をするにも、枝が入り組んでいるので、その隙間を縫うようにして、はしごをかけて行う。一本の木でそれを繰り返す以上、手間と時間がかかるのは当然だ。

一方、高密植わい化栽培では木を一列に植えていく。青森県内で実施されている間隔は、樹間が1メートル以内、列間が3~3.5メートル。木が列間を空けながら、壁をつくるようにして一直線に並んでいるので、その間を縫うようにして軽トラや農業機械が進んでいける。

Apple tree seedlings in the nursery on drip irrigation

画像はイメージ

また、同じ畝の木については、はしごをかけるにも、横に移動するだけで済むので、摘果しやすい。おまけに樹幅が小さいため、太陽光と薬剤が届きやすくなり、着色や防除といった管理も容易だ。

加えて、高密植わい化栽培では、わい化栽培と違って骨格枝を作らない。下垂誘引した側枝を利用することで、主幹に簡単に手が届くので、作業が効率的で楽になる。以上が高密植わい化栽培を導入するおおまかなメリットだ。

丸葉からわい化、そして高密植わい化へ関心移る

青森県によると、県内では一般的な丸葉栽培からわい化栽培に切り替える農家が増えてきた。いまでは、わい化栽培の面積は全体の2割強を占める。さらに最近になって、高密植わい化栽培を検討する農家が出て、その栽培面積は20ヘクタール弱にまで広がってきた。

各栽培法の成園化するまでの年数とそのときの反収は、丸葉栽培が10年で2.5トン、わい化栽培が5年で4トン。一方で、高密植わい化栽培は2、3年で6トンになる。早期成園と多収も魅力というわけだ。

植栽本数は10アール300本

メリットの一方で、デメリットもある。何よりも高密植わい化栽培は初期投資がかさむことが課題となっている。

まず植栽本数が余計に必要になる。概数でいえば、丸葉なら20本で済む。一方、わい化栽培は120本、高密植わい化栽培は300本を要する。県内のリンゴ農家によると、苗木は一本当たり2800円程度なので、300本となれば、ざっと84万円に及ぶ。

しかも、高密植わい化栽培では根の張りが浅く、木が細く育つ。このため干ばつや水害に遭いやすい。
強風にも弱い。木が倒れないようにと、固定するための支柱とワイヤーが要る。既述のとおり根が浅くしか張らないので、潅水チューブを設置しなければならない。青森県ではハタネズミが細い根を食害して、枯死する事態が発生している。それを防ぐための防除資材も欠かせない。

初期投資は10アール250万円程度に急騰

以上のように初期投資が多大になることから、国庫補助として10アール当たり新植で71万円、改植で73万円が用意されている。初期投資のおおむね半額を支援するためにこれらの金額に決まったと言われているが、資材費が急騰するなかで、当初の見込み通りにはいかなくなっている。

高密植わい化栽培を始めて3年目という男性は、「この一年で支柱の値段が倍になったことがとくに痛い」と嘆く。結果、10アール当たりの初期投資は初年度に100万円程度だったのが、現在では250万円程度までかかるまでになった。

しかも先行して高密植わい化栽培を普及してきた長野県によると、この栽培が発祥したイタリアの南チロルでは経済年齢が15年程度と短い。
メリットとデメリットがはっきりしているなかで、青森県では農家からの期待は依然として高い。そのため苗木の供給が追いつかず、「2~3年待ちという状態になっている」(県リンゴ果樹課)とのこと。

そこで、青森県は農研機構と共同で、早期成園や多収、高品質、省力などを実現するために、高密植わい化栽培をはじめとする各栽培方式の経済性を検証する研究を始めている。栽培方式ごとに初期投資や周品率、反収、単価、労働時間などを整理して、2023年度末には公開する予定だ。県リンゴ果樹課は「朝日ロンバス方式やジョイント方式などもある。高密植わい化栽培だけにとらわれず、別の方式やそれらを複合的に導入することも検討してもらいたい」と話している。

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