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製造が追いつかないほどの売れ行き。規格外の野菜を1gも捨てない農家の6次化メソッド

製造が追いつかないほどの売れ行き。規格外の野菜を1gも捨てない農家の6次化メソッド

農産物の6次産業化は、規格外品の活用や収入の安定などが期待できる反面、事業化には製造・販売・流通の各過程でハードルが待ち受けています。着手したものの継続できずに撤退する例は後を絶ちません。そうした中、規格外の野菜を焼菓子や惣菜にアップサイクルする「もったいない工房」が軌道に乗っていると聞いて岐阜県中津川市へ。成功のヒントを探るべく事業主の小池菜摘(こいけ・なつみ)さんに話を聞きました。

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地域に根ざす昔ながらの農業を受け継いで

なだらかで雄大な恵那山が見守る岐阜県中津川市。証券会社出身の小池さんがこの地で農業を始めたのは2014年のこと。当時87歳だった義祖父から農業技術を継承し、サツマイモ、里芋をはじめとする根菜類を中心に飛騨・美濃伝統野菜の菊ゴボウ、落花生、水稲を作っています。

100年以上受け継がれてきた自家の里芋はもはや土着品種と言えそう

「この辺りは赤土でイモ類の一大産地でした。他が儲かる作物に切り替えても義祖父が頑なに守ってきた、この土地の農業を継いでいます。他に作っている農家がいないので、地域のお客様が喜んで買ってくれるんです」と小池さん。作った野菜は「自力で売る」ことも義祖父の代からの身上。地域のマルシェやECサイトで直販しています。

2018年には規格外野菜を使った6次化にも挑戦。加工場「もったいない工房」を自己資金で設立し、クッキーなどの焼菓子(もったいないOKASHI)、惣菜やカレー、パスタソースなどのレトルト食品(もったいないOKAZU)を製造・販売しています。

もったいない工房のECサイトにはレトルトの保存食も充実

規格外でも、味や品質は劣らない

「根菜類は、どうしても小さいものができたり、傷がつきやすいので、いわゆる規格外と判断されるものがものすごく多いんです。だから、当初から加工までやる前提で農業を継ぎました」(小池さん)

流通市場で規格外とされても、味や品質が劣るわけではありません。野菜本来の価値をさらに高めることが、小池さんの加工事業のコンセプトです。

会得した製菓技術と製造計画

もともとは東京で証券会社に勤めていた小池さんですが、農業の道へ踏み出す決意をしたのは東日本大震災がきっかけでした。インフラが止まり、コンビニの棚が空になるのを目の当たりにして、自分で食べ物を生み出す暮らしに目が向き出したといいます。当時交際中だった夫の稔(みのる)さんは農家の長男。いずれ農業を「やるつもり」から「やるぞ!」とスイッチが入ったと振り返ります。

祖父の農業を手伝う傍ら、稔さんは地元の菓子店に勤めて製菓の修業をして2年で製菓衛生師の国家資格を取得。菓子製造業と総菜製造業の営業認可を得て、2018年の加工事業開始につなげます。

水分が多く焼菓子に向かないとされる里芋もプロの技術でココアクッキーに

商品として製造するにはこうした技術はもちろん、製造計画を立てて鮮度が高いうちに加工し、品質を担保することにも留意しています。

「夫も私も証券会社出身。原価計算や経営分析は自分たちでやるし、夫は大学で生物工学の研究をしていたので商品化に必要な食品衛生検査の知識もあります」(小池さん)

フードロス撲滅と過剰包装の削減にも

もったいない工房で作られる焼菓子は、多いときで15種類。特に人気を集める「さといものココアクッキー」は、里芋の調理法の六角剥きにちなんで六角形の金型。「冬青(よそご)のはちみつビスケット」は花型で模様を付けるなど、シンプルながらそれぞれ情豊かな出来栄えは好評を博し、製造が追いつかないほどの売れ行きを見せています。

製菓衛生師の稔さんが商品開発を担当し、菜摘さんは、自身の畑だけでは足りない規格外野菜を地域の農家から調達。商品パッケージのデザインも担当しました。

中身が見えるシンプルなパッケージが愛らしい

ポリプロピレンの包材にシールを貼ったパッケージは、箱に詰め合わせたときの収まりもよく、ちゃんとかわいい姿かたち。とにかくゴミを減らそうと試行錯誤した結果、資材コストを限界まで下げることにもなりました。

ギフト箱も飾らず素材感のあるクラフトダンボール

栽培と加工を手伝ってくれるスタッフは4名。この日の当番は、小池さんが写真展でスカウトしたベーキングが得意な写真家兼看護師。稔さんが仕込んだ生地を手際よく成形、焼成していました。

型抜きしたクッキー生地に六角の模様をつけて、さあオーブンへ

恵那山麓の生産者たちと地域野菜ブランドづくり

農業、加工事業と並行して、小池さんが注力しているのが地域野菜ブランドづくり。2020年に「恵那山麓野菜」を立ち上げて青果物と加工品の共同出荷を行っています。
「田舎だからこそみんなで力を合わせて外へ販売する仕組みを作ろうと思いました」(小池さん)

恵那市の賛同を得て、観光地域づくり法人(DMO)の一般社団法人ジバスクラム恵那が流通・決済を担い、小池さんが企画・販売を担当。農家の手取りを増やすべく希望の値で買う代わりに品質は妥協しません。現在参加する25軒の農家は全員が単一作物のプロ農家。鮮度とクオリティの高さがセールスポイントです。2022年秋開業のイオンモール土岐に恵那山麓野菜のコーナーが設けられることが決まり、地の野菜のおいしさを広める機会が増えそうです。

小池さんに農業のモチベーションを聞くと、「消滅可能性都市のレッドリストに中津川市が載っています。ここを選んだ私たちは、100年先も娘の故郷が誇れる状態であるために農業を頑張ります」との答え。耕作放棄地をなくしたくても個人農家では2町を耕すのが精一杯。「恵那山麓野菜」があるからこの地で農業をしたいと思う仲間を増やすことも、農家としてやりたいことの一つです。

「ものを作って売るのは楽しくて、農作物は自然との共同作品なので特に面白い」と、農業のやりがいを語ってくれた小池さん。そこに「絶対に余らせたくない。意地でも捨てない」という熱量をかけて事業をまわしています。

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