マイナビ農業TOP > 農業ニュース > 少子高齢化社会がもたらしている物流への影響。地域における助け合いの在り方とは

少子高齢化社会がもたらしている物流への影響。地域における助け合いの在り方とは

少子高齢化社会がもたらしている物流への影響。地域における助け合いの在り方とは

国内で顕著になっている少子高齢化は、労働人口の減少という形で農業だけでなく物流にも大きな影響を与えています。農村における運び手について、緩やかなつながりをもつ地域による協力という打ち手の端緒をご紹介します。

twitter twitter twitter

農村・農業における担い手不足

 
みなさんご存じのように、日本の少子高齢化、労働人口の減少は急速に進んでいます。国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口」(2017年)によると、2065年には人口の4割が高齢者になり、また、15~64歳の生産年齢人口は今から3割以上減少するとされています。

農村部は都市部と比較するとこの傾向が早く進んでいて、農林水産省「食料・農業・農村白書」(2021年)によると、20年程度も先⾏しており、また、2020年時点において主に農業を仕事としている従事者のうち65歳以上の人の割合は7割を占めていることがわかります。これらのことから農村・農業における人手不足というのが明らかな課題となっているといえます。

 width=600

出典:厚生労働省「我が国の人口について」

物流、家庭向け宅配の状況

物流分野においても似たような課題があります。例えば、トラックドライバーは他の仕事と比較して長時間労働・低賃金であることもあり、人員不足が顕著で他の仕事の2倍もの有効求人倍率になっています(参考:国土交通省「トラック運送業の現状等について」)。

さらに、農村においては高齢化・過疎化が進んでいるだけでなく、コロナ禍が後押しした宅配サービスの需要が伸びていることから、宅配に関する輸送効率が落ちています。宅配便の荷物の取扱量は全国的にここ10年間で1.3倍に増えています。一方で、ドライバー不足や運び先の過疎化という状況から、過疎地域での輸送の効率は都市部の6分の1にも落ち込んでいます(参考:国土交通省「過疎地等における物流サービスの現状分析及び検討にあたっての問題意識について」)。

農村における物流のアイデア

農村における輸送の問題は、宅配事業者だけでなく農業者にも及んでいます。調査対象となった農業者の7割超が輸送手段の確保について不安をもっており(引用:農林水産省「令和元年度生鮮食料品等物流におけるワンマイル輸送モデル構築調査委託事業調査報告書」)、高齢化する農業者にとって、出荷の手間が農業をやめる契機につながる可能性も考えられます。

そこで、地域から出荷場へのファーストワンマイル、物流拠点から地域へのラストワンマイルの双方の課題を解消する可能性をもったアイデアをご紹介したいと思います。いわゆる商業ベースに寄った視点ではなく、近年注目度が高まっている地域の人々の自助・共助の力によって進められる取り組みです。

一つのモデルケースとして、都市部から農村部への宅配の荷物を地域の拠点に集約し、地域内での宅配を事業者だけではなく地域の人々がボランティアとして届ける形が考えられます。一方で、農作物を出荷する際には、宅配事業者が出荷を手伝ったり、配送料金を割引したりします。そうすることによって、地域の人々と事業者がそれぞれお互いに必要とすることを補完し合えると考えます。

個人と組織、組織と組織といった組み合わせだけではなく、地域の人々の緩やかなつながりを主体とした取り組みの方向性を検討することが有効といえます。もっとも、これまでの隣組や寄合といったつながりがありましたので、その再興もしくは再設計というイメージが近いのかもしれません。

緩やかなつながりが動いていくとなると、人々の善意に頼りっきりになるのではなく、なんらかの「お礼」を介在させることが鍵となります。依頼する人も受ける人も、無償の善意に頼ると心理的な負担感が増してかえって利用されにくくなることがあります。お礼は金銭であったり、地域で使えるポイント、もしくは感謝の意の表明であったりなどが考えられます。

どういった組み合わせが最適解かは地域特性を踏まえて更なる検討が必要ではありますが、生活し続けられる農村を維持するためには、緩やかなつながりを活性化することが大切だと感じています。なお、実際にこのような取り組みを推進するにあたっては、荷物を届ける際の責任や「お礼」を介することによる法令面での検討が不可欠です。

国の同様の政策の方向性

政府のデジタル田園都市国家構想では「小さな拠点」という取り組みがあります。そこでは「愛着のある地域に住み続けられるようにするためには、生活サービス機能等が歩ける範囲に集約され、周囲の集落とのネットワークが整備された『小さな拠点』の形成が必要」とうたわれています。地域の組織がもつ拠点を宅配事業者が共同で利用できるようにするというのは(逆もしかりです)、地域拠点の多機能化であり「小さな拠点」をつくっていくことにもつながるといえます。

書き手・日本総合研究所 岩崎海
大学卒業後、海上自衛隊での勤務を経て現職。現在は、官民連携に資する価値の可視化、ラストマイル領域の物流、経済安全保障におけるセキュリティクリアランスなどに注力。

農村DXの特設ぺージはこちら
儲かる農業があり、かつ住みやすい農村を実現する|農村DX(農村デジタルトランスフォーメーション)
儲かる農業があり、かつ住みやすい農村を実現する|農村DX(農村デジタルトランスフォーメーション)
農村DXとは日本総研が提唱する、農村全体をデジタル化して、儲かる農業と住みやすい農村を作るというコンセプト。「デジタル技術を農業生産だけに利用するのではなく、農村づくりにも活用し、組織や社会システム自体を変革し、新たな価…

あわせて読みたい記事5選

関連キーワード

シェアする

  • twitter
  • facebook
  • LINE

関連記事

タイアップ企画

公式SNS

「個人情報の取り扱いについて」の同意

2023年4月3日に「個人情報の取り扱いについて」が改訂されました。
マイナビ農業をご利用いただくには「個人情報の取り扱いについて」の内容をご確認いただき、同意いただく必要がございます。

■変更内容
個人情報の利用目的の以下の項目を追加
(7)行動履歴を会員情報と紐づけて分析した上で以下に活用。

内容に同意してサービスを利用する