国民年金だけで老後の生活は大丈夫?将来の安心のため、加入すべき「農業者年金」
専業で農業に従事している方の多くは個人事業主であり、収入はその年の収穫量に比例します。そのため、年によって収入にばらつきがあり、売上高が安定しないことがあります。そうした中、「毎月一定額を貯蓄するのは難しい」、「老後の備えは国民年金のみ」とする方は少なくないのが現状です。しかし、国民年金だけで老後の暮らしは本当にまかなえるのでしょうか?
夫婦2人の高齢農家の生活費は、月額約23万円(総務省「2022家計調査年報」高齢夫婦無職世帯を基に推計)、国民年金の年金額は夫婦とも40年間満額を支払った場合で月額約13万円(令和3年4月現在)となっています。単純計算ではありますが、年金だけでは日々の暮らしをまかなうことは難しいということがわかります。
繰り返しになりますが、家族経営の農家は個人事業主です。つまり、自分自身や家族の将来は“経営者”として備える義務があるとも言えます。
そこでぜひ、検討いただきたいのが「農業者年金」です。農業従事者だけが加入できる公的年金の仕組みと加入のメリットをひも解いてみましょう!
実は加入できる人が幅広い!3つの加入条件
農業者年金の加入条件は以下の3つ。
●国民年金第1号被保険者
●年間60日以上農業に従事
この条件を満たしている方は誰でも加入ができます。つまり、農業経営者の妻や家族、自営業の兼業農家、農業経営体でパート・アルバイトをしている国民年金第一号被保険者、早期退職後に農業を始めた方なども対象となり、加入のハードルは意外と低いのだと思っていただけるのではないでしょうか。
旧制度(平成13年まで)の農業者年金は、農地を持っている「経営者等」しか加入できなかったため、女性の加入が難しいというデメリットがありました。平成14年からの現行制度では上記のように対象範囲が拡大され、農業に従事する人なら誰でも加入できる仕組みに改善されました。
「積立方式」×「確定拠出型」だから少子高齢化に強い!
農業者年金は加入者が自らの保険料を積み立てる「積立方式」です。また、積み立てた保険料は国内債券を中心に長期運用され、毎年の付利額(運用収入)によって将来受け取る年金額が決まる「確定拠出型」が採用されています。旧制度では国民年金や厚生年金同様に、現役世代が引退世代を支える仕組み「賦課方式」で運営されていましたが、平成14年から積立方式に生まれ変わったのも大きなポイントです。
「積立方式・確定拠出型」の財政方式は、保険料を支払っている世代の人数や、年金を受給している世代の人数の変化による財政的な影響を受けません。そのため、少子高齢化時代でも安心できる安定した制度となっています。
自分で決められる毎月の保険料
国民年金や厚生年金は納める保険料が毎年固定されているのに対し、農業者年金の保険料は、原則月額2万円〜最大6万7千円まで千円単位で自由な設定が可能です。つまり、経営状況や生活設計に合わせて保険料の増減を調整することで、無理なく将来に備えることができます。
80歳まで保証の終身年金
農業者年金は終身年金のため、生涯にわたって受給ができます。毎月の保険料は80歳までの保証が付き、仮に80歳までに亡くなった場合は80歳まで受給可能だった額を計算したものが遺族に死亡一時金として支給されます。
新規就農者や子育て世代に嬉しい、保険料補助制度があります!
保険料が自由に設定できるとはいえ、毎月2万円の支出は厳しい……という方、ご安心ください。保険料を2万円に固定し、最大1万円を国が支援する「保険料補助制度」があります。就農間もない方や、何かと出費が多い子育て世代に嬉しい補助制度を受けるには通常の加入要件に加え、39歳までに加入された方や控除後の農業所得が900万円以下など、いくつか追加要件があります。
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納めた保険料は控除の対象に!
農業者年金保険料は、国民年金同様、全額が社会保険料控除の対象となります。家族も農業者年金に加入していれば、確定申告の際に経営主がまとめて申告します。もちろん、受給時も公的年金控除の対象になります。
このように、農業者年金は農業者に寄り添った公的年金制度です。農業を営む方が農業者年金を活用することで将来に備えると共に、資産を守ることが期待できます。
多くのメリットがある農業者年金ですが難しそうという理由で、制度を理解できず、活用できない農家は決して少なくありません。群馬県安中市で両親と共に果樹園を営む山内 史江さんもその1人でした。加入のきっかけや得られた「安心」をお聞きしました。
農業者だからこそ、将来の備えを。両親の思いやりが加入の決め手に
両親が営む果樹園・富岡農園で農業に従事している山内さんは飲食店を営むご主人との結婚を機に家業である農業に従事。約200アールのほ場では、プラム、モモ、ナシ、アンズ、ネクタリン、ブルーベリー、カキなど多品目の果樹を生産しています。その山内さんが農業者年金に加入したのは39歳の時。2人のお子さんの成長を実感する中、将来への備えを考えるようになったと話します。
「自然相手の農業は収入が不安定な面があります。正直、就農したばかりの頃は余裕がなく、老後のことまで考えられなかったのですが、子供が生まれたことで意識が変わりました。子供には迷惑をかけられないですからね」
そんな時、農業者年金の加入を勧めたのが父である富岡 光行(とみおか・みつゆき)さんです。地元の農業委員会の担当者が制度を丁寧に説明してくれたことで理解が深まり、史江さんに勧めることができたそうです。
「私が知っている旧制度の農業者年金は、農地を持っている経営者しか加入できないなど、厳しい条件がありました。新しくなった制度は条件が幅広く、支払った保険料を農業者年金基金が手堅く運用してくれることを知り、これなら娘も加入できると思い、勧めました」
夫婦で富岡農園を切り盛りしてきた光行さんは、経営が安定し、農業者年金に加入できる頃には条件の一つである60歳を超えており、加入できなかった苦い経験があります。娘には不安な思いをさせたくない、安心して農業に従事してほしい“親心”は、史江さんの心を動かします。
「制度を詳しく知ることで、加入条件の幅の広さに驚きました。また、支払った保険料は控除の対象になるので経営者である父の負担を軽減できるのも魅力でした。国民年金との2階建にすることで、老後を心配せずに日々の農作業に向き合えるようになったのですが、一つ、残念なのはもっと早くに加入しておけばよかったことです(笑)」
と、史江さんが話すように、農業者年金は積立方式 × 確定拠出型なので、加入期間が長ければ長いほど、将来得られる保険料が多くなります。補助金制度などを活用することで、新規就農者や子育て世代の加入ハードルが低くなるため、若い人たちこそぜひ、加入を検討して欲しいと史江さんは言葉を続けます。
「個人事業主である農業は、自分自身で将来に備えなければなりません。収入面の不安定さから、なかなか老後のことまで考えられない若い世代が多いとは思いますが、制度をよく理解し、活用することで意識は変わるはずです。将来への安心があれば、農業経営への精神的負担も軽減されるのではないでしょうか」
農業者年金という「安心」を手にした史江さんは、両親と共に直売所をリニューアルオープン。新鮮な富岡農園の果物が手軽に購入できる直売所に史江さんは毎年、看板娘として店頭に立っています。
「直売所のリニューアルは父の長年の夢でもありました。これからも両親と共に果樹園を守り、美味しい果物をお届けしていきたいです」(史江さん)
加入のハードルが高かった旧制度から、加入条件が大幅に緩和された農業者年金は、日本の農業を支える公的な年金制度です。大切なのは一人ひとりが個人事業主であることを意識し、自らが将来に備えること。老後の不安を抱かずに農業に従事することで、経営安定を図るための計画が立てやすくなるとも言えます。
群馬県における農業者年金への加入は、一般社団法人群馬県農業会議とJA群馬中央会が窓口となり、各種質問や制度の説明を行っています。
日本の基幹産業である農業に従事するみなさんのためにあるのが農業者年金です。新しく生まれ変わった制度のメリットを理解し、加入を検討されてはいかがでしょう。
樋口さん
(一般社団法人 群馬県農業会議・樋口 安奈さん)
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【お問い合わせ】
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