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進む、農業用ドローンの普及拡大

進む、農業用ドローンの普及拡大

2015年9月に航空法が一部改正されたことにより、利用が拡大しているドローンなどの無人航空機。いち早くドローンの利用可能性に気づいたのが農業分野です。一部の農家や農業法人では農薬散布や肥料散布にドローンを活用し、重い農薬や肥料を背負って田畑を歩き、散布する重労働から解放されています。今回はドローンの法制度や市場動向をふまえて、ドローンが農業分野でどのような活躍を期待されているかご紹介します。

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夜空を彩るドローン、どうやって飛ぶの?


2021年の東京オリンピックの開会式では、LEDライトが搭載された1824機のドローンが空に描く市松模様、そして地球に変わるダイナミックな演出は、夜空を彩る花火にも引けを取らない、華やかで美しい印象を残しました。ドローンでは、今回のようにすべてプログラミングでパフォーマンスを設計し、複数機同時飛行を行うことも可能です。上昇しながらの引きの映像、イベントや景観の俯瞰(ふかん)映像など、この10年でドローンが撮影した映像や写真は多く見られるようになりました。

オリンピックで用いられたような軽量で小型のドローンから、重い荷物も運べる大型のドローンまで、用途に合わせて多種多様なドローンが現在活躍しています。さて、ドローンはどのような原理で飛行するのでしょうか。ドローンを含む無人航空機は、国土交通省によると「飛行機、回転翼航空機等であって人が乗る事ができないもののうち、遠隔操作又は自動操縦により飛行させることができるもの(ドローン、ラジコン機等)」と定義されています。

複数のローター(回転翼)を有するドローン(マルチコプター型)の基本的な飛行原理は、ローターとジャイロセンサー、GPSセンサーで構成されます。ローターの回転で生じる揚力が機体の重量を上回ると上昇し、下回ると下降し、釣り合うとホバリング状態となります。個々のローターの回転速度を変更することで前後左右に飛行し、ドローンならではの小回りの利く飛行を可能にしています。機器によっては、宙返りもお手の物です。

急速に拡大するドローン市場

我が国でもドローンなどの無人航空機の利用が、撮影用途をはじめ急速に普及したことを鑑み、2015年9月に航空法が一部改正され、同年12月からドローンなどの無人航空機の飛行ルールが導入されました。国土交通省による無人航空機の飛行許可の承認申請件数の年度別推移を見ると、制度開始当初の2016年度は1万3535件でしたが、2021年度には7万5049件と、毎年度、前年度比2割以上の飛行申請数の伸びが見られ、ドローンなどの利用が進んでいることが分かります。

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無人航空機飛行に係る許可承認申請件数の年度別推移(国土交通省「無人航空機飛行に係る許可承認申請件数の推移」をもとに筆者作成)

ドローンビジネスの国内市場では、法制度改正の翌年の2016年度は市場規模353億円でしたが、2021年度は2308億円(前年比125.4%)に拡大、2022年度の予想値では3099億円(前年比134.3%)、2027年度は7933億円と市場拡大が続く見込みです(インプレス総合研究所調べ)。市場拡大のキーになるのはドローンを用いた「サービス」です。サービスの用途拡大により、機器の需要も伸びていきます。特に堅調なのは、農業でのドローン活用です。

注目される農業用ドローン

農業用ドローンでは、タンクを搭載したドローンが作物上空を飛行し、農薬・肥料を散布する活用がされてきました。農業分野を含む地域でのドローン活用促進に向けて宮城県大郷町で実施したワークショップにて、実際にドローンを利用し、農薬散布を行う人に話を聞くと、高齢となった農業従事者にとって、足腰の負担になる農薬散布をドローンが代替してくれることに利便性を感じつつも「ドローンの飛行スピード、バッテリーの問題、田畑の広さと農薬散布量のバランスなど、慣れるまでは一苦労ありますよ」と話していました。農薬・肥料の散布の領域では、農薬量を田畑に合わせて最適化した自動飛行など、ソフトウェアの高度化が求められそうです。

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農業分野を含む地域でのドローン活用促進に向けたワークショップの風景(実施:宮城県大郷町、撮影:株式会社日本総合研究所)

2018年6月15日に閣議決定された「規制改革実施計画」では、ドローンなどの小型無人航空機の農業分野における利活用の拡大が、農林分野の規制改革の重点事項として掲げられました。検討会や官民協議会での検討が後押しし、普及拡大している農薬散布や肥料散布にとどまらず、播種(種子の散播)や受粉(花粉を混合した溶液の散布)、圃場(ほじょう)センシング(生育・病害虫の発生などの情報取得)や鳥獣被害対策など、技術的な開発や実証の段階も含まれますが、制度整備と並行した取り組みが進んでいます。

我々の生活や社会のパートナーへ

2022年8月に発表された「空の産業革命に向けたロードマップ2022」では、農林水産業のほか、いくつかの領域でのドローン活用が期待されています。橋やトンネルをはじめとするインフラの維持管理、災害対応としての状態把握の自動化や資器材の搬送など、また3次元測量による詳細な地形の把握、広域・有人地帯の侵入監視・巡回監視、陸上輸送が困難な地域での生活物品や医薬品等の配送など、目視外飛行が可能になるレベル4の制度整備と合わせてドローンの利用促進の取り組みが進められています。このロードマップは2024年度までのマイルストーン(目標)を定めています。2024年度以降にはドローン活用が社会実装され、農業以外の産業でも、インフラやサービスにドローンが活躍し、我々の生活や社会に欠かせない存在になるでしょう。

書き手:日本総合研究所 泰平苑子
専門は、地域交通・物流、先進モビリティ(MaaS・自動運転・ドローン等)、アジア事業環境(都市開発・交通・物流)。先端技術を用いて社会課題の解決に寄与するSocial DXや、事業活動の社会的インパクト評価を実施。

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