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「二毛作」とは? 裏作や二期作との違い、メリット・デメリットまで徹底解説

「二毛作」とは? 裏作や二期作との違い、メリット・デメリットまで徹底解説

「二毛作」という言葉を皆さん一度は聞いたことがあると思いますが、どのような栽培方法なのでしょうか。どんな歴史を経て誕生したのか? 「裏作」とはどう違うのか? 二期作とは何が違うのか?
そんな素朴な疑問や二毛作のメリット・デメリット、日本で主に行われている地域や具体的な取り組みの事例、助成事業の情報や関連用語としての「二毛作ビジネス」など、二毛作をさまざまな角度からまとめて紹介します。

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そもそも「二毛作」とは。意味や本来の目的

二毛作とは、同じ田や畑で1年の間に2種類の異なる作物を連続的に栽培する農法を指します。例えばイネの収穫後、秋・冬からコムギを育てるなど、農地を有効に活用できることが特徴です。この場合は、夏を中心に栽培される主要作物であるイネを「表作」と呼び、コムギの栽培を「裏作」と呼びます。

二毛作の時期

日本では多くの地域が夏にはイネ、冬にはムギを作るのに適した気候になっています。そのため、そういった地域では春・夏にイネを育て、収穫が済むとその田んぼで秋・冬から春にかけてムギを育てており、これを二毛作と呼ぶようになりました。近年はイネ・ムギのみに限らず、他の穀物や野菜なども、主に春夏と秋冬に分けて栽培されています。

二毛作は日本のどこでできるのか

二毛作は、それぞれの土地・気候に合った作物を選ぶことで、日本のほとんどの地域で行えます。例えば春にジャガイモを植えて夏に収穫した後の畑に、秋になったらホウレンソウの種をまいて寒い時期に収穫するという二毛作も可能です。連作障害を避けながら効率的に栽培するためにも、作物の相性を考えて作付けすることが大切です。

二毛作の取り組み事例について

日本で行われている二毛作の事例を一部紹介します。

佐賀県

九州北部の筑紫平野は温暖な気候に恵まれていることから、日本最大のイネとムギの二毛作地帯です。筑紫平野のある福岡県、佐賀県は、農林水産省の作物統計調査(2021年産)のムギ(4麦計)の収穫量でそれぞれ全国2位、3位と上位を占めています。なお佐賀県は二条大麦の収穫量が全国1位。佐賀県は田の耕地利用率が144.5%で全国1位(2020年)となっており、二毛作による田の有効活用が際立つ地域です。

兵庫県

全国的なブランドとしても知られている「淡路島たまねぎ」も二毛作による作物です。兵庫県淡路島ではイネの裏作としてタマネギを作っており、これがブランド化されています。また、最近ではさらにレタスなどを組み合わせた三毛作もあります。タマネギは水稲農家でも比較的取り組みやすいと言われています。

鎌倉時代に広まった二毛作、派生形も

二毛作が広まったのは鎌倉時代です。この時代は牛馬による耕作など全国的に農業技術が進歩しました。牛馬のふんを肥料とすることもできるようになり、土地の生産力も向上。こうした背景もあり、二毛作が生まれたようです。

二毛作の派生形|2年3作について

1年でイネ・ムギを栽培する二毛作が難しい中山間地域では、イネ・ムギ・大豆の「2年3作体系」に取り組んでいるところもあります。
広島県尾道市の世羅(せら)高原では、1年目の5月から9月までイネを育て、収穫後、10月からムギを育てて6月に収穫。2年目の7月からは大豆を育てて、11月に収穫。半年休ませた後に、また次の5月からイネを育てるというサイクルを繰り返します。

大豆は根に共生する根粒菌のおかげで空気中の窒素を肥料として利用できる作物ですが、同じ圃場(ほじょう)で栽培を続けると連作障害が起こります。そこでイネ・ムギの二毛作のサイクルに取り入れ、収穫の後に出たそれぞれのわらを土に返したうえで大豆づくりを行います。これによって連作障害を抑えられます。2年3作は、土づくりをしながら栽培を続けることができ、持続的に田を活用していくことができる技術なのです。

二毛作の派生形|高度輪作体系(3年5作)について

二毛作から発展した2年3作体系をさらに発展させた輪作体系が3年5作。その確立を目指し全国各地で試みが行われていますが、JAぎふではイネ・ムギの3年5作という高度輪作体系に取り組んでいます。

これは1年目と2年目で品種の異なる輸出用のイネを栽培、2年目のイネを収穫した後はコムギを栽培して、その次にまた別品種のイネ、さらにその次はまたコムギといった形で、イネを3回(3品種)、ムギを2回栽培するという体系です。JAぎふの例では、これによって土地利用率は1.6倍となり、2年3作よりも高くなると言います。この取り組みをスマート農業技術の活用により、省力化して行っていることも特徴です。

「二毛作」と「二期作」の違いは?

同じ農地で1年に異なる2種類の作物を育てる二毛作に対して、二期作は同じ農地で同じ作物(主にイネ)を異なる時期に育てて、1年に2回収穫する農法です。
二期作の発祥地は高知県の稲生(いなぶ)地区だと言われています。

二期作の代表的な作物

二期作の代表的な作物はイネです。沖縄県でもイネの二期作が行われています。一期目の収穫は日本で最も早いと言われ、6月頃に新米が出荷されます。
その他、トウモロコシ、ジャガイモなども九州や四国の温暖な地域を中心に二期作が行われています。

二期作の現状

地球温暖化の影響を受けて全国的に年間の気温が高くなるにつれ、二期作が可能になる地域が広がっています。近年では東海地方や関東地方の一部などでも可能な地域が増えてきました。また、最近では稲刈りの後、残った株から伸びたイネを再び刈り取る「水稲再生二期作」が農研機構により福岡県で実験され、1回の田植えで2度収穫できる農法として注目を集めています。

飲食店の「二毛作ビジネス」とは

昨今は、こうした農業の二毛作を飲食店の運営方法に置き換えた二毛作ビジネスが盛んになっています。これは一つの店舗で異なる二つの業種を昼・夜などの時間帯によって使い分けて運営する方法です。あるいは曜日ごと、平日と休日など、日によって使いわける場合もあります。

例えば昼は定食屋で夜は居酒屋、昼はカフェで夜はバーなど、それまで稼働していなかった時間を有効に活用することで収益の増加が見込めます。また、「昼は家族も連れてこられるな」「夜はお酒が飲めるんだな」といった顧客側の発見もあり、新しい用途や客層の開拓にもつながります。
その他、昼はうなぎ屋、夜は焼き鳥屋など、同じ一つの店舗を異なる二つの店がシェアして使う二毛作ビジネスもあります。

一毛作/単作、三毛作、多毛作とは

二毛作に対して、同じ農地で1年に1回1作物だけを栽培することを一毛作、あるいは単作と言います。対して、同じ農地で1年にイネ、ムギ、野菜など3種の作物を順に栽培するのは三毛作。一般的に三毛作以上が多毛作と呼ばれます。

二毛作のメリット・デメリット

二毛作には同じ農地で2種類の作物を育てて収穫できるという大きなメリットがありますが、一方でどのようなデメリットがあるのでしょうか。代表的なものについて、それぞれ紹介します。

メリット

二毛作のメリットは当然ながら、コメとムギなど2種類の作物を作ることによる収穫物の増加と、収益向上が挙げられます。作物の収穫後に農地を遊ばせておくよりも、そこで作物を育てれば、ゼロだったはずの収益がプラスに変わることが見込めるでしょう。
また、コメと野菜など、異なる作物を作って販売することで、相乗効果やビジネス拡大にもつながります。

デメリット

二毛作のデメリットは一般的に、農地がやせやすく、やがて生産量が落ちてしまうことだとされています。地中の栄養分には限りがあり、農地を年中休みなく使い過ぎると地中の栄養素は減っていきます。すると、十分に作物を育てられなくなり、品質も低くなります。消費者の期待に応え、市場で販売できる良質なコメやムギを育てるためには、わらのすき込みや施肥などで地力を保つ必要があります。

二毛作助成について

農林水産省では「水田活用の直接支払交付金」により二毛作への助成を行っています。ここではその大まかな内容を紹介しましょう。

水田収益力強化ビジョン

地域の特色のある魅力的な産品の産地を創造するため、地域ごとに見通しや戦略、取り組み方針などをまとめた作物生産の設計図となるのが、水田収益力強化ビジョンです。全国各地で作成、公開され、これに基づいて交付金による支援がなされています。
ビジョンの内容は地域により異なりますが、二毛作による作付け拡大の推進もこれに含まれています。

申請方法

農林水産省ウェブサイトにある各地域の「水田収益力強化ビジョン」や自治体ウェブサイトなどで、交付金の助成対象となる取り組みを確認します。二毛作に関して該当する取り組みがあれば、交付申請書のほか必要書類をそろえて県域拠点や地域農業再生協議会に提出します。
詳しくは農林水産省ウェブサイト「水田活用の直接支払交付金」で水田収益力強化ビジョンや申請書類を確認するほか、地域農業再生協議会などへ問い合わせてみるといいでしょう。

二毛作の未来を見据えて

1年の間に同じ田や畑で異なる2種類の作物を育てる二毛作、同じ種類の作物を2回育てる二期作の違いについて紹介してきました。効率的に農地を活用する一つの方法である二毛作は、「二毛作ビジネス」といった用語の前向きな使われ方から見ても、農業の可能性を広げる選択肢かもしれません。

栽培技術も進歩しており、スマート農業技術を利用した二毛作も出てきています。複数の野菜や作物を育てることで収穫量や種類を増やすことができれば、収入面で非常に有利になるため、今後ますます二毛作や多毛作の可能性は高まっていくことでしょう。意欲がある人はトライしてみてはいかがでしょうか。

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