「難しいこと」をやりたくて有機を選択
柴海農園は年間で約150種類の野菜を、農薬や化学肥料を使わずに育てている。栽培面積は9ヘクタール。ピクルスなどの加工品も製造しており、年間の売上高は約8000万円。少量多品目の有機農家では大規模の部類に入る。
柴海さんの実家は代々続く農家で、両親はトマトをつくっていた。もともと市場に出荷していたが、あるとき自宅の前で直売を始めた。客とじかに接し、両親がやりがいを感じている様子を見て、柴海さんは「いいなあ」と思ったという。売価も市場出荷よりずっと高かった。これが営農の原点になった。
高校を卒業すると、農業関係の短大に進んだ。進学してやろうと思ったのは「難しい」と言われていることへの挑戦。そこでサークルのメンバーと農家の家に住み込み、有機栽培の技術を教えてもらった。短大を出て3年ほど飲食店で働いた後、地元で就農した。いまから13年前、23歳のときだ。
実家の所有している農地とは別に30アールの畑を借り、有機栽培を始めた。
まず手がけたのは、個人向けの野菜セットの販売。農薬を使わないので品目を絞って確実につくるのが難しいため、できたものの組み合わせでセットにする。柴海さんは「有機では一番理にかなったやり方」と話す。
まず地元でチラシを配り、10軒の契約を得た。マルシェにも参加してチラシを配った。ホームページを開設したり、ブログを書いたりして、商品の魅力を伝える努力をした。個人客は今では300軒まで増えた。飲食店にも野菜セットを売っているほか、小売店にサラダセットを販売している。
セットの中身は他の農家と同様、「うちが自由に決めている」。ただし、旬の野菜を漫然とつくっているわけではない。柴海さんは「野菜の相場は時期によって変わる。それにどう対応するかが重要」と話す。野菜セットの値段は一定でも、スーパーの価格は変動する。消費者はそれを意識するからだ。