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生育診断に農業用ドローンを活用!? 未来の農業のためにいま知っておきたいデジタル技術

生育診断に農業用ドローンを活用!? 未来の農業のためにいま知っておきたいデジタル技術

農業用ドローンの活用は、農薬散布の実用化がよく知られるところだ。その次の活用法として、国産ドローンを研究開発する株式会社ナイルワークスでは、ドローンを使った生育診断の技術開発を進めており、このほど水稲での実用化まで見通しが立った。農業のDX(デジタルトランスフォーメーション)化を加速させる、こうしたデジタル技術は日本の農業にどのような恩恵をもたらすか。同社事業責任者の田中克憲(たなか・かつのり)さんとシニアエンジニアの黒川圭一(くろかわ・けいいち)さんに、日本総合研究所の山本大介(やまもと・だいすけ)さんが話を聞いた。

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田中克憲さんプロフィール

株式会社ナイルワークス取締役COO。農業分野を中心に、事業投資や新サービスの立ち上げに従事。「新しい農業をつなぐ」というミッションの実現に向け、新規事業開発を推進している。「農業用ドローン」と「農業DX」の両輪で農業を未来へつないでいくことが身上。

黒川圭一さんプロフィール

株式会社ナイルワークス デジタル農業事業部部長。プロセッサアーキ・最適化アルゴリズム等のコンピューターサイエンスが専門分野。現在は、AI、IoT、ビッグデータ、デジタルツインなどの先端技術を応用した農業DXを推進し、作物解析技術の向上や、作物シミュレーション開発に取り組んでいる。

山本大介さんプロフィール

株式会社日本総合研究所でコンサルタントとして事業戦略・組織戦略策定、新規事業開発、地域金融機関支援に従事。農業分野では官民のプロジェクト実務に15年以上携わり、新技術や新規格の産地導入に向けた経済性評価や関係者の取り組み課題について研究してきた。

人の目ではとらえきれない生育不良や病害虫を可視化

山本さん:現在、作物の一般的な生育診断には衛星画像の活用が実用化されています。一方、ナイルワークスでは東京都によるベンチャー育成事業(注:未来を拓くイノベーションTOKYOプロジェクト)の支援を受け、ドローン撮影画像を用いた生育診断技術を開発されています。生育診断にドローンを活用するに至った理由とその意義を聞かせてください。

田中さん:衛星からの情報は非常に有用ですが、撮影した画像の解像度がどうしても低いことがネックです。また私の経験上、衛星から撮った画像データをベースにNDVI(正規化植生指数※)を使い、植物活性が低い地点に自動ドローンで肥料を散布しようとすると、何も生えていないところに間違えてまいてしまうという課題もありました。

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作物上空50センチを飛行し、近接画像を取得する様子(同社提供)

そこで当社は高精度の散布にこだわり、2016年から全自動かつ低高度の飛行撮影技術に取り組んできました。植物から30~50センチの高度を維持して撮影する「近接」で、生育監視の技術開発を進めています。一例として、クミアイ化学工業さんとの協業では約5ミリのイネいもち病斑を発見するなど、人間の目でとらえきれない部分まで見える化する技術であると言えます。

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土壌診断で圃場を見える化(同社提供)

山本さん:こうした新たな技術を開発するにあたっての難しさや課題、それに対するアプローチと成果について、開示可能な範囲で聞かせてもらえるでしょうか。

黒川さん:難しさは、類似する研究があまり行われていないので、参考となる先行事例が少なかったことです。このため研究や実験のほとんどを自前でやらなければならず、開発スピードが出ないことがありました。現在は既存の技術で代替可能なところは積極活用し、新規開発が必要なところだけを自分たちで独自開発する方法へ転換することで、開発のスピードを上げてきています。

山本さん:他の技術分野では、生育モデルを作るために、累積温度や累積日長などの外部環境を分析しながら植物の茎の太さを見るなど、植物自体の生育の理論がベースにあると思います。ドローンを使った生育診断でカギになる情報は、どのようなものでしょうか。

黒川さん:我々はドローンのセンシングに加えて、作物の状態を予測する植物生理学、温度変化などの気象影響の理論的な予測モデルを独自開発しています。その予測モデルと解像度の高い近接画像を組み合わせることが基本的なコンセプトです。

※ 植生の分布状況や活性度を示す指標。データの可視域(赤)の反射率と近赤外域の反射率を使用して計算される。

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オンラインで意見を交わす山本さん(左)、黒川さん(中央下)、田中さん

観察・推測・作業を一貫

山本さん:ナイルワークスは水稲の薬剤散布で実績があることから、生育診断も水稲で実用化するまでに至ったと思います。今後、どのような品目に広げていくのでしょうか。

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成育のバラつきを計測(同社提供)

黒川さん:もともと多くの画像を蓄積している水稲から取り組みが始まりましたが、現在は小麦に力を入れているところです。次のステップは大豆です。まずメインの穀物をターゲットに技術開発を進め、そこから広げられる作物を調査することで、さらなる展開を考え始めているところです。

山本さん:農林水産省が進める「みどりの食料システム戦略」の目標とも一部合致する取り組みですが、自治体や生産者など現場に近いところから、この技術に対する声は出ていますか。

黒川さん:まだ、この技術をどう使っていくのかを定義し、具体的なサービスまで落とし込んだ提供はできていませんが、新しい技術に関心を持たれている方は多いです。研究機関の方々からの期待の声も多く、今後より現実的な使い方に落とし込める開発をしようとしているところです。

山本さん:こうした研究の成果や新技術の展開によって得られる日本の農業へのメリットについてどのように考えていますか。

田中さん:我々のお客さまである生産者の皆さんは、現在の農業を取り巻く状況について、かつて経験したことがないほど環境変化が激しいと口をそろえておっしゃいます。もはや過去の経験は通用しないことも多く、解決策も誰に聞けばいいのかもわかりません。

一方で、我々はデータを通して全国の皆さんと協力しながら農業に関わってきました。私たちのコンセプトは簡単に言えば、すべてをデジタル化し予測することです。理想論ではありますが、予測するには精密な生育診断と精密な予測モデルが必要で、予測できたところで必要となるのは、精密な作業(散布)です。だからこそ、観察、推測、作業の3つを全部自社で行っているのです。

「儲かる農業」で、これから起こりうる変化を越えていく

山本さん:農業の分野では、新しい技術は興味を持たれることはあっても、なかなか導入に至らないことが多いのが実情です。こうした新しい技術を広げていく工夫やポイントについて教えてください。

田中さん:デジタル技術を活用した「スマート農業」は、イメージに反して広がり方はスマートではありません。すごく地道なことを繰り返して、生産者の方々の信頼を獲得することが必要です。しかし、導入が進まない一番の理由は「農家の皆さんがそれを導入することで、どれだけ儲かるのか、どれだけコストを削減できるのか」を明確に提示できていないからだと考えています。だからこそ、我々ナイルワークスは、将来的に胸を張って「儲かります」とご案内できるよう、着実に製品開発を進めているところです。

黒川さん:技術開発の立場から話をさせていただくと、気候変動や世界情勢の変化により、これまで良しと思われていた農業のやり方を変えなければならない可能性もあると思っています。これにより、儲かるという定義も変わるかもしれません。自分自身、5年後、10年後に何が起こるか常に仮説を立て、先を見越した技術を開発をしていこうと思っています。

山本さん:農業の形が変わっていくことは今後十分に起こりうることで、そこに向けた技術開発はすごく意義が大きいと思いながらお話を聞かせてもらいました。本日はありがとうございました。

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