農業収入保険にはメリットもデメリットもある
農業収入保険は、自然災害や農作物の市場価格下落、取引先の倒産から為替変動による損失まで、幅広く補償される汎用性の高い保険です。
収入保険の主なメリットは下記のとおりです。
- 収入減少全般が広く補償対象になる
- 作物の種類によらず補てん対象になる
- 保険金が支払われるまで、無利子のつなぎ融資を受けられる
優れた保険制度のように思えますが、実はデメリットも抱えています。特徴をしっかり把握し、制度を上手く活用しましょう。
農業収入保険のデメリット7選
多くのメリットがある農業収入保険ですが、留意しておくべきデメリットもあります。農業収入保険のデメリットを以下の7つにまとめました。
1.確定申告は青色申告になる
1つ目のデメリットは、確定申告が青色申告になることです。
1年間の収入と支出、各種控除などから所得税と住民税の金額を確定する確定申告は、青色申告と白色申告に大別されます。
青色申告は複式簿記の記帳方法に従い収支を記録していきますが、複式簿記で記帳したことのない人にとっては、事務処理のハードルが高くなります。一方で、白色申告は「単式簿記」と呼ばれる簡易な記帳方法で収支を記録するものです。
青色申告で記帳することは、農業収入保険に加入するための条件の1つです。そのため、白色申告で確定申告を行っていた人は、事務作業の煩雑さでつまずいてしまう可能性があります。
2.自家栽培の実態を証明する日誌などが必要になる
2つ目のデメリットは、自家栽培の実態を証明する日誌などが必要になることです。
収入保険への加入要件の1つに、農作業日誌など農業を行っている実態を確認できる書類の保存があります。実際は農業生産を行っていないのにもかかわらず収入保険を利用する、といった人が現れないよう、実態の記録が必要となるのです。不正利用を防ぐためとはいえ、日々の手間が増えるのは事実でしょう。
なお、農家日誌については、以下の記事でも紹介しています。
関連リンク:今からでも遅くない 「農家日記」をつけてみよう
3.基準収入に含まれない補助金がある
3つ目のデメリットは、基準収入に含まれない補助金があることです。
畑作物の「直接支払交付金」や「甘味資源作物交付金」、「でん粉原料用いも交付金」及び「加工原料乳生産者補給金」といった補助金を除いて、他の補助金は収入保険の対象外になります。
補助金が交付されることで収支が成り立つ種類の作物の場合は、収入保険に加入していても基準収入に含まれないため、補てんされる金額が低くなる恐れがあります。
4.経費アップによる所得減は対象外
4つ目のデメリットは、経費が増えたために所得が減少した場合は対象外になることです。
収入保険の補てん金額を算定する際に用いる数値は、収入です。そのため、いくら経費が増えて所得が減少しても、補てん金額は増えません。
たとえば、世界的に原油価格が高騰したことで経費が増え、所得が減少した場合は対象外となることに注意が必要です。
5.毎年の支払いである保険料が高額
5つ目のデメリットは、保険料が高額であることです。
農林水産省の収入保険に関するページでは、基準収入1,000万、支払い率90%の契約の場合、1年目の支払いは33.2万円、2年目以降の支払いは毎年10.6万円と記載されています。
万が一のときに備える経費として高いと感じるか安いと感じるかは人それぞれですが、何も起こらなければ不要な支出となってしまうのも事実です。多品種を育成して不作や価格変動に備える、農業以外の収入源も持っておくなど、他のリスク対策方法と比較検討したうえで加入を決めましょう。
6.基準となる収入は選べない
6つ目のデメリットは、基準となる収入を選べないことです。
補てん金額を算出するための基準金額は、過去5年分の収入の平均金額が基礎になります。 青色申告の実績が5年分あれば5年間の収入の平均が、2年分あれば2年間の収入の平均が、補てん金額を算出する際に使用されます。
たとえば5年間のうち2年間、病気などの理由で他の3年間と比べて収入が減っていたとしても、補てんされる金額は低くなってしまいます。
7.他の補償制度との重複はできない
7つ目のデメリットは、他の補償制度と重複できないことです。
収入保険の他にも、収入が減ってしまったときに補てんを受けられる制度があります。しかし、農業共済・ナラシ対策など、制度によっては収入保険との選択加入を迫られます。収入保険と比較して条件がよい場合は、他の制度の利用を検討しましょう。
なお、収入保険と同時に加入できる類似制度もあるため、加入を予定している制度があれば重複利用が可能か確認してください。
農業収入保険の疑問6選
ここからは、農業収入保険でよくある疑問について解説します。
1.農業収入保険の仕組みは?
収入保険は、自然災害や市場価格の変化、取引先の倒産など経営者の努力で避けられないリスクによって収入が減少したとき、減少分の一部を補てんする制度です。
自ら生産した農産物の販売収入全体が対象になるため、幅広いリスクに対応できます。
2.農業収入保険の加入率は?
農林水産省によると、農業収入保険の加入率は全国の青色申告を行っている353,199経営体のうち、令和4年度時点で78,420経営体が加入しており、加入率は22.2%です。
3.農業収入保険の掛け金は?
加入者が準備する掛け金は「保険料+積立金+付加保険料」の3つに分かれています。 3つの項目それぞれに計算式が準備されていますが、次の項目で紹介するシミュレーターを用いれば、簡単に計算できます。
農林水産省のホームページでは、基準収入1,000万円で、補てん率90%の場合に1年目は33.2万円、2年目以降は10.6万円の掛け金が生じるとされています。
4.農業収入保険はシミュレーションできる?
全国農業共済組合連合会のホームページでは、保険料や保険金などがいくらになるか簡単にシミュレーションできるシステムが提供されています。
基準収入金額やその他複数の項目を入力することで、1年目の費用や次年度以降の費用、保険金の支払い金額の想定が表示されます。
しかし、保険料や積立金などの金額が算出できても、適正な金額かどうかは分かりづらいものです。農業収入保険に加入すべきかどうかの判断に迷う際は、家計や事業について、ファイナンシャルプランナーに相談することが望ましいでしょう。
ファイナンシャルプランナーへの相談先をお探しなら、保険チャンネルがおすすめです。 保険チャンネルには専門性・提案力・知識を持ったファイナンシャルプランナーが在籍しており、状況に合わせて最適なプランを一緒に考えてくれます。収入が不安定になりやすい農家こそ、ファイナンシャルプライナーと連携したライフプランの設計が大切です。
FPに相談する際の費用や注意点についてはこちらの記事も参考にしてください。
関連リンク:FPに相談する際の費用はどのくらい?農家こそ相談すべき理由や注意点も解説
5.農業収入保険は掛け捨て?
収入保険は掛け捨て部分と積み立て部分に分かれます。
ただし、積み立て部分は毎年積み立てられていくわけではありません。初年度に積み立てられた掛け金を取り崩さない限り、次年度以降に引き継がれます。
したがって、終身保険のように貯蓄機能は有していません。
6.ナラシ対策や農業共済との違いは?
他の制度との主な違いは対象品目です。
ナラシ対策の場合「米・麦・大豆・てん菜・でん粉原料用ばれいしょ」が対象となります。同様に、農業共済の場合も、農作物共済・畑作物共済・果樹共済とそれぞれ指定された作物が対象になります。
一方で、収入保険では全ての農産物が対象になります。
農業収入保険はデメリットも把握したうえで契約しましょう
農業収入保険の主なデメリットについて解説しました。
全ての作物が対象となって補てんされる一方で、青色申告や日誌の作成などの手間がかかる、保険料が比較的高額といったデメリットがあります。また、重複利用できない他の類似制度もあるため、どの制度を選択するのか慎重に考えるべきです。
しかし、自身が置かれている状況を元に最適な保険や制度を選択するのは困難でしょう。高額な保険料を支払い続ける以上は、適した保険を選択したいものです。
この悩みを解決するためには、ファイナンシャルプランナーへの相談がおすすめです。保険に限らず、家計から事業に関する相談まで、気軽に声をかけられる状態を作っておきましょう。 保険チャンネルは、ライフプランや保険、資金管理など農家にとって大切なお金のことを、ファイナンシャルプランナーに無料で相談できるサービスです。相談者それぞれの現状を把握し、現在の問題点を解決するための最適な方法を提案してくれます。
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農業を続けるうえでお金に関する不安がある方は、保険チャンネルへの相談を検討してみてはいかがでしょうか。