マイナビ農業TOP > 農業ニュース > 【肥料高騰対策を解説】申請方法や支援金の計算方法、コストカットに役立つ補助制度まで詳しく解説

【肥料高騰対策を解説】申請方法や支援金の計算方法、コストカットに役立つ補助制度まで詳しく解説

【肥料高騰対策を解説】申請方法や支援金の計算方法、コストカットに役立つ補助制度まで詳しく解説

世界情勢の変化などから、輸入原材料に頼る化学肥料が高騰している。資材価格の上昇で経営が厳しくなっている生産者は多いだろう。そんな中で農林水産省は、肥料価格上昇分の一部を補助する「肥料価格高騰対策」を行っている。申請にはどのような要件・手続きが求められるのか。結論から言えば、個々の農家が負担する事務作業は少なく、申請がしやすい内容となっている。手順を農林水産省農産局技術普及課生産資材対策室の石原孝司(いしはら・こうじ)さんに解説してもらった。

twitter twitter twitter

そもそも肥料価格高騰対策事業とは?

肥料価格高騰対策は、肥料価格の高騰による農業経営への影響を緩和するため、肥料の購入価格の一部を支援するという内容だ。概要は以下の通り。

対象者

申請ができるのは、5戸以上の生産者が集まる農業者グループ。また、化学肥料の使用量2割低減に向けた取り組みを二つ以上行うことも要件とされる。この農業者のグループの定義や詳細については次の章で詳しく説明する。

対象となる肥料

支援の対象となるのは、2022年6月~2023年5月購入分の肥料。
ただし、2022年秋用肥料(2022年6~10月購入)と、2023年春用肥料(2022年11月~2023年5月購入)は、それぞれ分けて申請を受け付ける自治体もあるので、対象肥料と申請の時期は確認が必要である。

支援の内容

肥料購入費のうち、コスト上昇分の7割を支援金として交付を受けることができる。
支援金の計算方法は以下の通りである。

支援金=(当年の肥料費-(当年の肥料費÷価格上昇率※1÷使用量低減率※2))×0.7

※1:価格上昇率
農林水産省が統計データを基に決定
※2:使用量低減率
化学肥料の低減に向けた取り組みには時間がかかることから、2022年秋肥・2023年春肥は低減率を1割とし、使用量低減率は0.9で計算

【計算例】
例えば、肥料購入費20万円の場合、2022年10月6日農水省発表の高騰率1.4を基に計算をすると、
支援金=(20万円-(20万円÷1.4÷0.9))×0.7=2万8888円

ただし、県など自治体によってはさらに手厚い支援を行っている場合がある。
例えば、47都道府県のうち約半数の県が、国の支援7割に加えて、1~2割の支援金上乗せを独自に行っている。
また、北海道や大阪府のように、国とは別に独自の支援事業を実施しているところもあり、これら独自の支援策を設けている自治体では、国の肥料価格高騰対策と両方を申請することができる。
自分の自治体がどのような支援策を行っているのか調べておこう。

同事業の基本情報については農林水産省のYouTubeチャンネルでも詳しく解説されている。

5戸以上の農業者グループとは

申請に当たっては、上述の通り5戸以上の販売農家が集まって申請することが条件となる。とはいえ、文字通り近隣農家などが集まって申請書を作成・提出する必要はない。
農林水産省は「5戸以上のグループ」として、地域のJAや肥料販売店などを想定している。化学肥料を販売する事業者が、そこで購入した生産者を取りまとめて申請するということだ。

ここで気になるのは、例えばJAで購入した肥料の申請を、別の肥料販売店でも受け付けてもらえるかである(またはその逆も)。この点に関して、農林水産省農産局技術普及課生産資材対策室の石原さんは次のように説明する。「自分の店で取り扱っていない肥料だと、JAさんまたは肥料販売店さんのほうで、それが(申請対象として)登録・届出された肥料かどうかを確認する手間がかかってしまうので、購入した事業所で申請を受け付けているケースが多いと聞いています」

自分たちで申請をする場合

ホームセンターなど、JAや肥料販売店以外で購入した場合、その店舗では申請に対応していない可能性がある。そういったケースでは、5戸以上の農業者グループを作って自分たちで申請をする必要がある。
5戸以上の農業者グループを作る場合、市町村が中心となる農業再生協議会が窓口となっている地域もあるので、まずは自治体の対応を確認して手続きを進めたい。

化学肥料を2割減らす取り組みとは

肥料価格高騰対策事業の申請では、化学肥料の2割低減に向けた取り組みを行うことが、もう一つの大きな条件となる。

2割という数値は、農林水産省が策定した「みどりの食料システム戦略」で示されている「2030年までに化学肥料の使用量を20%減らす」という目標がベースとなっている。
ただし、こちらもそこまで身構えるほどの要件ではない。実際には数値目標の設定や達成度の報告は求められておらず、化学肥料の低減に向けて取り組みを行い、それを確認できれば支援を受けることができる。

また、取り組みの報告義務があるのは、個々の農家ではなく、申請の取りまとめを行う団体となる。JAや肥料販売店に申請してもらう場合、農家は取り組んだことを証明できる書類を残しておき、JAや肥料販売店へ低減に取り組んだことを説明すればよい。

農水省は化学肥料の低減を肥料価格高騰対策の政策目的に掲げる

化学肥料の使用量2割低減に向けた取り組みメニューは、以下の15項目あり、この中から二つを選択することになる。

ア 土壌診断による施肥設計
イ 生育診断による施肥設計
ウ 地域の低投入型の施肥設計の導入
エ 堆肥(たいひ)の利用
オ 汚泥肥料の利用(下水汚泥等)
カ 食品残渣(ざんさ)など国内資源の利用(エとオ以外)
キ 有機質肥料(指定混合等を含む)の利用
ク 緑肥作物の利用
ケ 肥料施用量の少ない品種の利用
コ 低成分肥料(単肥配合を含む)の利用
サ 可変施肥機の利用(ドローンの活用等も含む)
シ 局所施肥(側条施肥、うね立て同時施肥、かん注施肥等)の利用
ス 育苗箱(ポット苗)施肥の利用
セ 化学肥料の使用量及びコスト節減の観点からの施肥量・肥料銘柄の見直し (ア~スに係るものを除く)
ソ 地域特認技術の利用(都道府県協議会において決定)

では、どのメニューが取り組みやすいだろうか。
一般論として、石原さんがおすすめするメニューを三つ紹介してもらった。

ア 土壌診断による施肥設計

土壌診断による施肥設計で、施肥量を適正化することができる。
2017年に行われた調査では、毎年土壌診断を行っている生産者は24%にとどまり、約40%が土壌診断を継続的に行っていない状況がある。また、土づくりコンソーシアムが2009~18年にかけて全国31府県の水田を対象に行った調査からは、リン酸の成分が土壌中にだいぶ残留していることも分かっている。標準施⽤量の半分のリン酸施肥でよい圃場(ほじょう)が全体の約6割、標準~半分の施⽤量でよい圃場が全体の約1.7割と、全体の約8割でリン酸肥料の施肥量削減が⾏える可能性があるとされている。
土壌診断による施肥設計だけでも、化学肥料の低減効果は期待できそうだ。

しかも、肥料価格高騰対策事業においては、「土壌診断を行っても化学肥料を減らせる余地がなければ、必ずしも肥料の使用量低減につながらないこともある」と石原さんは言う。つまり、本事業は肥料低減に向けた取り組みを行うこと自体に主眼を置いているということだ。

エ 堆肥の利用・オ 汚泥肥料の利用(下水汚泥等)

堆肥や汚泥肥料の利用も取り組みやすいメニューである。現在使用している化学肥料を堆肥、または汚泥肥料に置き換えることで化学肥料の使用量低減につながると考えられる。
すでに堆肥を利用している生産者は多いかもしれない。その場合は、さらに使用量を多くして、化学肥料から置き換えることで申請の要件を満たすことができる。

また、近年は下水汚泥などを肥料化する取り組みが進んでいる。汚泥にはリン酸の成分が含まれており、従来の堆肥だけでは補えなかった栄養素も補給することができる可能性がある。

キ 有機質肥料(指定混合等を含む)の利用

有機質肥料への転換も有効だ。
近年は混合肥料も肥料登録されて利用が進められている。混合肥料は豚ぷんなどの堆肥をペレット状に固め、化学肥料と混ぜて施用するものもある。
これまで使ってきた化学肥料を、そっくり有機質肥料に置き換えることに不安を覚える人は、混合肥料への切り替えを検討するといいかもしれない。

左:5mmペレット堆肥、右:散布風景(農林水産省ホームページより)

強化・拡大

前年度までに既に取り組んでいるメニューがあった場合は、さらに強化・拡大する計画として同じメニューを選択できる。
「強化・拡大」という意味について、石原さんは次のように説明する。「例えば、既に土壌診断に取り組んでいるのであれば、実施する回数や圃場(ほじょう)の数を増やすという方法が考えられます。これまでにも堆肥や有機質肥料を使用している方であれば、さらに施用量を増やしていただくことで強化・拡大とすることができます。低減に向けた取り組みが行われていれば十分ですので、非常に取り組みやすい内容になっているかと思います」
前掲15項目の中から既に取り組んでいるメニューの項目欄にチェックを入れ、2022年度・2023年度で実際に取り組んでいることがわかれば、要件は満たせると石原さんは説明する。

他に肥料低減に役立つ補助制度は?

肥料価格高騰対策事業の他にも、化学肥料の低減に役立つ補助制度がある。ここでは参考までに2例紹介する。いずれも肥料価格の上昇分を直接支援するものではないが、今後のコストカットに向けた取り組みを行う上で役立つ内容となっている。
ただし、すでに公募が終わっていたり、次年度も継続するか不明だったり、補助制度は常に同じものがあるとは限らないので、あくまで参考情報としてほしい。

肥料コスト低減体系緊急転換事業

土壌診断や肥料コスト低減に資する技術の導入など、肥料コスト低減を進める取り組みを支援する事業である。リモートセンシングや局所施肥などで用いるスマート機器のリースにも使える。
土壌診断は定額補助、肥料コスト低減に資する技術は2分の1の補助となる。

2022年2月1日に1次公募が開始され、11月24日には6次公募があった(12月21日締め切り。6次公募で本事業は最後となる)。

国内肥料資源利用拡大対策等

肥料の国産化を目指し、堆肥や下水汚泥資源など、国内の肥料資源の利用を進めることを目的とした支援事業である。肥料製造業者、肥料原料供給業者、耕種農家などに向けて、堆肥などの高品質化やペレット化に必要な施設整備などを支援するというものだ。
※2022年11月16日現在、補正予算で事業費を要求している状況

「肥料低減の取り組みを知ってほしい」

肥料価格の高騰を受けての支援策は2008年にも行われたが、今回の肥料価格高騰対策事業は前回よりも手続きが簡素化されている。急騰する肥料価格による生産者への影響を低減するため、申請のハードルを下げた形と言える。

一方で、今回の対策事業は単純な支援策ではなく、化学肥料の使用量の低減も目的となっている。「農家さんには、『みどりの食料システム戦略』を掲げた化学肥料低減の取り組みを知っていただければと思っております。また、本支援策では、JAさんや肥料販売店さんにご負担をおかけするかとは思いますが、農家さんを支援するためにもご協力をいただきたくお願いいたします」(石原さん)。

関連記事
営農を圧迫する肥料高騰。直面する農家の現実的かつ効果的な対策とは
営農を圧迫する肥料高騰。直面する農家の現実的かつ効果的な対策とは
ウクライナ危機をきっかけにした肥料価格の上昇が、農家の経営を圧迫している。農業をとりまく環境が厳しさを増す中で、生産者は肥料代のアップにどう対応し、収益を確保しようとしているのか。2人に話を聞いた。
政府の肥料高騰対策、使用量を減らすほどメリット大きく。目的は「農家の行動変容」
政府の肥料高騰対策、使用量を減らすほどメリット大きく。目的は「農家の行動変容」
中国の輸出規制やウクライナ危機をきっかけに肥料価格が高騰し、農家の経営を圧迫している。農林水産省は農家の負担を軽くするため、肥料の購入費が増えた分の一部を補填する支援策を実施する。肥料の使用量を減らすほどメリットが大き…

あわせて読みたい記事5選

関連キーワード

シェアする

  • twitter
  • facebook
  • LINE

関連記事

タイアップ企画

公式SNS

「個人情報の取り扱いについて」の同意

2023年4月3日に「個人情報の取り扱いについて」が改訂されました。
マイナビ農業をご利用いただくには「個人情報の取り扱いについて」の内容をご確認いただき、同意いただく必要がございます。

■変更内容
個人情報の利用目的の以下の項目を追加
(7)行動履歴を会員情報と紐づけて分析した上で以下に活用。

内容に同意してサービスを利用する