自動車業界で活躍する技術者からイチゴ農家に転身!
大手自動車メーカーが九州に置く生産拠点で、技術者として活躍していた楠元さん。その技術力を競う大会で優勝、九州No.1の座を獲得し、海外からも技術者たちが集まる全国大会にまで出場しました。自動車業界で将来を嘱望されていたにも関わらず、楠元さんが農業に興味を抱いたきっかけは、リーマンショックに端を発した世界的な不況だったと言います。大手自動車メーカーのグループ会社に勤めていたとは言え、その生産台数は激減。将来に不安を感じるようになり、「独立して自分で何かしたい」と考えていた時に知ったのが、不況に強いと言われる農業でした。
とは言え、それまで農業とは縁もゆかりもなかったため、まずは知り合いづてに南島原市で20年以上イチゴ栽培を続けるベテラン農家を紹介してもらい、どうやったら農業を始められるのか、どんなところに面白みを感じられる仕事なのかといった話を聞きに行ったのだとか。すると、その農家の方は初対面にも関わらず、本当にイキイキと農業の魅力を熱く語ってくれたそうです。会社に勤めていた頃は、誰と話しても話題の多くは愚痴ばかり。「この仕事は本当に楽しいよ!」と嬉しそうに話す人と人生で初めて出会い、楠元さんの気持ちは完全に固まりました。
そして、長崎県には、まったくの未経験からでも新規就農をめざせる研修制度があることを知り、躊躇することなく参加することに。まず最初の2ヶ月間で農業の基礎を学び、その後、10ヶ月をかけて諫早市の受入農家でイチゴ栽培の技術とノウハウを学びました。ただ、その間に独立するための農地を見つけることができず、もう1年間研修を延長し、次は隣の長崎市内のイチゴ農家で経験を積むことに。少し遠回りはしたものの、結果的にはそれが功を奏したと楠元さんは当時を振り返ります。というのも、やり方ひとつで収量に違いが大きく出るということを学べ、なおかつイチゴ農家の人脈をつくれたところが、研修2年間の大きな収穫だったそうです。
未経験から新規就農を目指せる長崎県の研修制度とは?
楠元さんが参加した1年間の技術習得支援研修は、農業の基礎的な知識や技術などを身につける2ヶ月間の基礎技術研修と、就農品目の実践的技術を現地でマンツーマンで学べる10ヶ月間の受入農家派遣研修で構成されています。就農品目は楠元さんが選んだイチゴ以外にも、アスパラガスやきゅうり、ブロッコリー、みかんなどさまざま。現在、開講は6月、10月の2期に分けて開催されています。平成27年度から始まったこの技術習得支援研修を修了した研修生は、7年間で170名以上。そのうち、約8割が新規就農を実現しました。また、このほかに、長崎県内のJAや市町においても研修体制が整ってきています。新規就農に向けては研修以外にもさまざまな支援制度を活用することができるので、やる気のある方は未経験からでも思いきって農業にチャレンジできます。
<技術習得支援研修以外に活用できる制度>
■研修中の生活支援
研修に専念するための国の支援制度(就農準備資金:年間最大150万円を最長2年間交付)を活用できます。
※就農時年齢50歳未満など一定の条件があります。
■経営が軌道に乗るまでの支援
新たに経営を開始するための国の支援制度(経営開始資金:年間最大150万円を最長3年間交付)を活用できます。
※就農時年齢50歳未満など一定の条件があります。
■就農後のフォローアップ
就農後5年間、地域就農支援センター(各地域の県振興局等)が農業経営の安定化に向けて栽培技術や経営を支援します。
■市町のバックアップ
さまざまな支援制度の窓口となります。
製造業の生産方式を応用し、右肩上がりの成長を実現!
2年間の研修が終わり、楠元さんはその研修先の産地でついに就農。最初は7.6アールからのスタートで、4年間で10アールにまで規模を拡大したものの、この産地ではそれ以上の拡大ができず、2020年に移転することを決意。移転と同時に『JA長崎せいひ』のハウスリース事業を利用できるチャンスにも恵まれ、現在は最先端の設備の数々が導入されたハウスで28アールにまで農地を拡大しています。
新規就農して1年目の収量は、10アールあたり4.7トン。そこから右肩上がりに収量を伸ばし、現在では10アールあたり7.8トンにまで伸ばすことに成功しているのだとか。それは、スマホで遠隔操作できる炭酸ガス発生装置や暖房機、環境モニタリング、自動換気システム、自動潅水システムなど、設備がより充実したからというだけではありません。楠元さんは大手自動車メーカーで学んだ生産方式をイチゴ栽培へと応用し、徹底してムダを排除することで生産効率を高めているのです。
ひとつひとつの作業にかかる時間を細かく計測し、1秒でも早く正確に完結させるやり方を、イチゴ栽培を始めてからは常に模索してきたそう。
「たった1秒の効率化でも、その作業を1万回するとなれば大きな差になります。自動車業界で技術者をしていた頃に叩き込まれたこうした考え方を、イチゴ栽培に生かせているというのは、大きなアドバンテージになっていると感じますね」と、楠元さんは話してくれました。
農業は完全に未経験からのスタートでしたが、現在では年収も会社員をしていた頃の2倍以上になっているとか。「頑張れば頑張るほど、自分のやり方次第で目に見えて成果が上がる。それが、農業の醍醐味だと思います。本当に夢がある仕事ですよ」と語る楠元さんの次なる目標は、6次産業化にまでチャレンジすること。実際、すでにスムージーやパフェ、アイスクリームなどを製造する加工場と直売所を兼ねた施設を、農場の近くにつくる準備を進めているそうです。
技術習得支援研修では、楠元さんたち先輩農家の講義も。
1年間の技術習得支援研修で、まず最初におこなわれる2ヶ月間の基礎技術研修では、楠元さんをはじめとした先輩農家の講義も実施されます。農業未経験から新規就農を実現した先輩たちの成功体験を聞くだけでも、きっと勇気づけられるはず。「農業をはじめてみたい!」とお考えの方は、まず『長崎県新規就農相談センター』に相談してみてはいかがでしょうか。
【長崎県特設ページ】長崎で、農業をはじめよう。
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【問い合わせ先】
長崎県新規就農相談センター(長崎県農林水産業担い手育成基金)
〒854-0062
長崎県諫早市小船越町3171番地
TEL:0957-25-0031
FAX:0957-25-7716
取材協力:楠元 航平さん
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