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まきやすく低価格! 耕畜連携から生まれた堆肥入り低コスト肥料とは

まきやすく低価格! 耕畜連携から生まれた堆肥入り低コスト肥料とは

2022年、肥料価格の高騰を受けて、農林水産省は「肥料価格高騰対策事業」を打ち出した。支援の条件は、農家自身が化学肥料の低減に取り組むこと。農水省が示す化学肥料低減計画書にはさまざまな取組メニューが並び、中には「堆肥(たいひ)の利用」という項目もある。
そんな中JA鹿児島県経済連は、「耕畜連携による堆肥入り低コスト肥料」を開発。プロジェクト開始からわずか9カ月で発売にこぎつけた理由とは?

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堆肥入り肥料を開発開始から9カ月で発売したわけ

2022年7月1日、JA鹿児島県経済連は新たに開発した肥料を発表した。茶用の「ミドリッチ茶1号」と「ミドリッチ茶2号」、園芸作物用の「アグリッチ」の3種類だ。いずれも「耕畜連携による肥料入り低コスト肥料」として発表会で紹介された。

堆肥入り低コスト肥料3種類(画像提供:JA鹿児島県経済連)

この約1カ月前、JA全農は秋肥の値上げを発表していた。背景には、もちろん2022年の2月に始まったロシアによるウクライナ侵攻もあるが、肥料原料の輸出元である中国が前年の2021年10月から肥料原料の輸出検査を厳格化したことも大きい。
JA鹿児島県経済連で肥料の開発や供給を担当する肥料農薬課の担当者は「中国からの肥料の輸出規制で、農家さんが施肥できなくなるのではという危惧があった」と言う。この影響も考慮して、JA鹿児島県経済連では関係部局が集まり、2021年10月に「耕畜連携プロジェクト」を立ち上げた。その中で、「堆肥入り低コスト肥料」の案が採用されて開発に着手。堆肥の選定やベストな配合割合を模索し、2022年7月に茶栽培用の「ミドリッチ1号」と「ミドリッチ2号」、園芸作物用の「アグリッチ」の3種類の販売を開始した。
プロジェクト始動からわずか9カ月で発売という、スピーディな対応だった。これについて担当者は「とにかく困っている農家さんに早く、安く供給することを優先に進めた」と言う。価格は既存の肥料に比べて15~30%程度安く、当初の予定を大きく上回る受注となった。

現在、研究機関での肥料の効果確認も行われている。研究担当者は「従来の化成肥料と肥効、収量ともに遜色のない効果が出ている」と言う。価格が下がっても効果は変わらないのは、農家にとって朗報だろう。

試験農場のダイコンの畑。右側がアグリッチの試験区。左側の通常の化成肥料の試験区と特に違ったところは見られなかった

畜産県ならではの悩みを解決しながら、みどり戦略に対応

鹿児島県は、全国的にも知られた畜産県だ。豚の飼養頭数は全国1位、肉用牛の飼養頭数は北海道に次いで全国2位、ブロイラーの飼養羽数は全国1位、採卵鶏は全国3位(いずれも2022年)。これらの家畜が出すふん尿の多くは、県内のJAが運営する堆肥センターで堆肥化され、耕種農家に供給されている。

今回、アグリッチなど新開発の肥料に使用したのは、特定の堆肥センターで作られたもので、「牛ふん7割、豚ぷん2割、鶏ふん1割」の配合の堆肥だという。
堆肥と肥料を配合する方法は二通り。まずは、堆肥と化成肥料を混ぜた後に加工する方法だ。

野菜用肥料のアグリッチ。一見しただけでは堆肥が入っているとはわからない

もう一つは、堆肥をペレット化したものを化成肥料と混ぜる方法だ。

茶用肥料のミドリッチ茶1号。ペレット堆肥(円筒状の黒い粒)を混ぜ込んでいる

鹿児島県内では堆肥が余る傾向にあり、堆肥センターは時に散布まで請け負って堆肥の消費に努めてきたが、全てを有効活用できていないのが現状だ。こうした畜産県の状況の解決策として挙げられるのが、堆肥を乾燥・圧縮して固形化した「ペレット堆肥」だ。
ペレット堆肥は、肥料と同じくブロードキャスターやライムソワーでの散布が可能で、臭いもなく散布時の粉じんも少ないため、農家にとって扱いやすいとされている。また、普通の堆肥と違って水分の含有量が少ないため広域流通もしやすくなる。政府が進める「みどりの食料システム戦略」でも地域の未利用資源活用の一環としてペレット堆肥の活用を推進している。

ペレット堆肥

また、みどり戦略では化学肥料を30%削減するとの目標も掲げられており、そうした背景もJA鹿児島県経済連の堆肥入り肥料の開発を後押ししたという。

今回の堆肥入り肥料の生産で使用した堆肥の量は、県内で発生する全量のうちのごくわずか。しかし、今回の肥料が好評だったこともあり、「リッチシリーズ」としてサツマイモ用やサトウキビ用なども開発されることになり、さらに堆肥の活用が見込めそうだ。2022年12月には果樹用の「カジュリッチ」や野菜専用の「ベジリッチ」も発売され、今後もラインナップは増える予定だ。

リッチシリーズとして開発が進んでいる

地域内の耕畜連携の推進へ

このような堆肥の肥料への使用によって、鹿児島県内の堆肥余りの状況は改善し、耕畜連携は推進されたのだろうか。
肥料農薬課の担当者は、「今回使用した堆肥の量はまだ“つまみ食い”した程度」と苦笑い。「現状では、この肥料に使う量だけで地域内循環の状況が改善するまでには至っていない」とのことだ。
耕畜連携の方法としては、堆肥を使う耕種農家と堆肥を作る畜産農家のつながりを作るという形もある。しかしこの方法では個人の取り組みに依存しがちで、広範囲の課題解決にはつながりにくいだろう。そんな中、肥料不足という課題の解決も相まって、地域の堆肥の消費にも寄与する今回の堆肥入り肥料の開発は注目に値する。今後はリッチシリーズのラインナップを増やすことで、堆肥の肥料原料としての需要を高め、堆肥の処理にもつなげる予定だ。

肥料を求める耕種農家のニーズと堆肥を処分したい畜産農家の悩みの解決を両立させた今回の堆肥入り肥料。同様の動きは他の都道府県でも行われている事例があり、今後ますます広がっていきそうだ。

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