品質のばらつき、負担の大きさなど個別の選果に課題
JA全農えひめ(松山市)は、愛媛県が育成したサトイモの品種を「伊予美人」という名前で商標登録し、全国に向けて販売している。
その特徴は、丸々として、形が整っていて、粘りが強く甘みがあり、きめ細かな肉質であることだ。全農えひめは、伊予美人を全国に通用するブランドに育て上げるべく、県東部の東予地区で栽培を広げようとしてきた。
サトイモは、水田の転作作物であり、コメよりも収益性が高い。ただ、多くの農家に転作に組み込んでもらうには、コメのように一通りの作業が機械でこなせることが欠かせない。農家の高齢化に加え、離農に伴う規模拡大が進み、農作業に手間をかけられなくなっているからだ。
そこで、畝立てやそれを覆うマルチシートの展張、たねイモの移植や収穫の機械化に向けた努力が、地元のJAや行政などにより重ねられてきた。中でも昔からの産地として知られるJAうま(四国中央市)では、機械化一貫体系が先んじて確立されている。
しかし、栽培を広めるには大きな課題がもう一つあった。選果作業だ。
サトイモは、茎の直下にある大きな親イモの周りに子イモができ、その子イモの周りに孫イモができる。それらが互いにくっつき合って塊になった複雑な形をしている。
その分、丸さの程度や、くっついていた部分の多さなど、選果の基準が多岐にわたり、かつ細かい。「伊予美人」という一つのブランドとして、共通した選果の基準を設けていたものの、現実にはJAごとに品質にばらつきが出てしまっていた。
農家にとっても、選果は大きな負担となる。この作業をJAで担わなければ、生産量を維持することすら難しい。小規模な選果場を持つJAは一つあったものの、建て替えの時期を迎えていた。
共同選果と産地づくりをセットで
全農えひめはこうした課題を解決するべく、東予地区の4JAを対象にした集出荷施設「愛媛さといも広域選果場」を、2019年に四国中央市に建設した。
その処理能力は日量35トン。建設当初は年間約3000トンの出荷を計画していた。
稼働を始めた2019年度に2800トン強だった出荷量は徐々に増え、21年度には約2900トン。2022年度は、3000トンを超える見込みだ。出荷する農家数は、600戸から650戸に増えた。
全農えひめ園芸農産部に所属し、広域選果場の所長を務める阿部剛久(あべ・たけひさ)さん(冒頭写真)は、建設の効果は主に三つあったと語る。
一つ目は、選果基準の統一だ。「集約して一元管理できるようになり、JAごとの品質の差がなくなってきた。出荷する市場からは『今の方がいいですね』と評価してもらっています」(阿部さん)
二つ目は、量を確保することで、特売の対象になったり、チラシに掲載されたりする機会が増えたこと。愛媛県内はもちろん、関西圏を中心に「指名買い」されるようになった。
以前は「愛媛県産伊予美人」と銘打ってチラシに載せてもらいたくても、量販店が欠品のリスクを恐れて「愛媛県産ほか」と記載したり、他県産と組み合わせて売られたりすることが多かった。
「それが出荷の単位が大きくなって、量販店に県名とブランドをセットにしてチラシを作ってもらいやすくなり、売り場の確保にもつながっている」(阿部さん)
三つ目は、新たに栽培を始める農家が増えたこと。とくに、もともと選果場のなかった3JAで、栽培する農家が徐々に増えてきた。参入の最大の障壁だった選果作業を任せられるからだ。
施設更新の優良事例だけに他産地から視察も
選果場には他県からの視察も多い。
「人手不足と施設の老朽化という問題があるので、建て替えるときには集約化を図る。これが、どこの県にも共通した方向性じゃないか」(阿部さん)
人口減少に伴って、加工・業務用の需要が膨らむなか、実需が求める出荷のロットは大きくなっていく。産地がその需要に応えるには、JAの単位を超えた広域での連携という選択肢が一層重要になる。