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膨らむ、農産物の加工・業務用需要。国産原料に勝機はあるのか【新連載・需要からみた農業】

山口 亮子

ライター:

連載企画:需要から見た農業

膨らむ、農産物の加工・業務用需要。国産原料に勝機はあるのか【新連載・需要からみた農業】

人口減少が進む日本。食品や農業の業界を取材していると「胃が縮む」という言葉をよく耳にする。だが、そんな時代でも需要が拡大している食の分野はある。加工・業務用だ。農林水産省によると、消費者が食品に支出する金額のうち、加工・業務用は現状でおよそ7割を占めており、2040年には8割に達するという。裏を返せば、生鮮食品として流通する農産物は、今後間違いなく減るこということだ。輸入品の割合が高い加工・業務用の需要に、国産農産物はどうすれば食い込めるのか。本連載では、実需者や流通業者に取材する。

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「食の外部化」が進み、1人当たりの食料支出が増える未来

人口減少に伴って、農産物や食品の国内市場は縮む。しかし、冒頭で紹介した通り、農林水産省は単身世帯や共働き世帯の増加で「食の外部化」が一層進むと見込んでいる。「食料需要は生鮮食品から付加価値の高い加工食品にシフトし、1人当たりの食料支出は増加していくと見通される」(農水省)のだ。

農林水産省「食料・農業・農村をめぐる情勢及び食料・農業・農村政策審議会企画部会におけるこれまでの検討状況等について」令和元年11月より

農水省が推計した上のグラフによると、家計に占める生鮮食品の割合が下がり、その分、加工食品が伸びる。一方「食料支出総額は、1人当たりの食料支出の増加と人口の減少が相殺され、当面はほぼ横ばい、長期的には減少していくと見通される」(同)。つまり、加工食品の需要を取り込めば、国内農業にはまだまだ成長の余地がある。

国産を増やしたい実需者は多いが、3割が外国産という実状

このことを裏付けるデータを見ていこう。野菜を例に挙げると、国内仕向け量における加工・業務用の割合が伸びていて、2020年時点で56%に達している。ところが、この加工・業務用に占める国産の割合は、68%に過ぎない。家計消費用の実に97%が国産であることと好対照をなしている。

農水省「野菜をめぐる情勢」令和4年10月より

一方で、実需者への意識調査「加工・業務用野菜の実需者ニーズに関する意識・意向調査結果」によると、国産食品・原材料を「増やしていきたい」との回答は、食品の製造業と卸売業において5割近くに達する。

農水省「野菜をめぐる情勢」令和4年10月より

それにもかかわらず、現実には輸入品がよく使われている。理由は、定時に定量を安定した価格で購入できるという加工・業務用が求める要件を、国産よりも外国産の方が満たしやすいからだ。輸入品にも相場の変動はあるけれども、総じて安く、安定的に調達しやすい。そのため、原料として重宝されてきたのだ。

なかでも、外国産が圧倒的に多いのが冷凍野菜だ。その流通量は増加傾向にあり、2012年以降は100万トンを上回っている。うち90万トン以上、近年では100万トン以上を輸入が占める。国産の量は減っていて、輸入を増やして流通量の伸びを賄っている状態だ。

農水省「加工・業務用野菜をめぐる情勢」令和4年5月より

定時、定量を満たせるか

加工・業務用の需要を国産が取り込むには、どうすればいいのだろうか。そのヒントを得られないかと、ある業界団体を訪れた。その名も、日本介護食品協議会。同協議会は、食べやすさに配慮した介護食品を「ユニバーサルデザインフード(UDF)」と定めて、その基準作りや普及活動をしている。2022年度は、創立20周年の節目に当たる。

ユニバーサルデザインフードの区分表。この4区分に加え、飲食物に加えて適度なとろみを付けられる「とろみ調整食品」、さらに、通常は硬い食品であっても、温度や水分などの条件が加わった際、食べやすく変化する特徴を持った食品として「拡張」がある(画像提供:日本介護食品協議会)

UDFは、生産数量ベースで年率数十%という驚異的な成長を続けてきた。2021年はコロナ禍の影響を受け、不安定な需給状況から、生産数量は前年とほぼ同水準にとどまったものの、人口が減少し高齢化が進む時代にあって、UDFは間違いなく伸びしろの大きい食品分野の一つである。その市場規模は、出荷額ベースで2020年に500億円を突破した。

画像提供:日本介護食品協議会

加えて、その販売価格は、乳児を対象とするベビーフードと比べても高め。ということは、国産の農産物を使った付加価値の高い商品づくりをしやすいのではないか――。そんな勝手な期待を胸に、協議会のドアをノックしたのだった。

結論から言うと、協議会では加盟する91社(2022年10月時点)の原料への嗜好(しこう)性、つまり国産を使いたいかどうかを把握していない。ただ、UDFに割高感がある分、国産を使いやすくなるかというと、残念ながらそうではないという。

「一つのアイテムの製造数が多くなかったり、食べやすく加工するために人の手をかなり入れなければならなかったりするのが、UDFが割高になる要因です。価格をどう落ち着かせるか、製造する企業は模索しています」
協議会事務局長の藤崎享(ふじさき・とおる)さんがこう解説してくれた。

「国産の原料を使うことについては、企業はやぶさかでないのではないか」としつつも、定時に定量を安定価格で調達できるという、加工食品に一般的に求められる条件を満たすことが必要だろうと指摘する。

なお、一般論として、加工食品の原料には生鮮に比べて劣化の心配が少なく年間を通じて安定的に供給できる冷凍原料が好まれるという。しかし、先に紹介した通り、冷凍野菜の国内流通量に占める国産の割合は、2020年時点で6%に過ぎないという厳しい状況にあるのが現状だ。

日本介護食品協議会事務局長の藤崎享さん

UDFは多品種少量生産だけに、工夫次第で国産原料にも可能性

ただ、国産原料に有利となるかもしれないUDFならではの特徴もある。
「UDFは、加工食品としては、1アイテム当たりの製造数がそんなに大きくありません。『多品種少量生産』といわれる分類に当たります。そういう意味では、国産原料を供給できる余地は、工夫次第であるかもしれません」(藤崎さん)

1製品の製造数が大きい一般的な加工食品に比べて、必要となる原料が少ない分、中国産などに比べてロットが小さくなりがちな国産でも、安定供給できる可能性はあるわけだ。
実需者に国産の原料を安定供給する動きは、少しずつ広がっている。次回はそんな潮流を紹介したい。

日本介護食品協議会

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