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コメ余りの時代になぜパックライスが売れるのか。「サトウのごはん」売上倍増の背景

山口 亮子

ライター:

連載企画:需要から見た農業

コメ余りの時代になぜパックライスが売れるのか。「サトウのごはん」売上倍増の背景

主食用米の需要は近年、年間10万トンほどのペースで減り続けている。この30年で、コメの産出額は2.9兆円から1.6兆円(2020年時点)と半分近く減ってしまった。畜産や野菜、果実の産出額はせいぜい数千億円の増減にとどまる中、コメだけが異次元の落ち込みを見せる。ところが、その需要減退を尻目に、業績を伸ばし続けているコメを使った商材もある。それが「包装米飯」いわゆるパックご飯だ。

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米離れで、パックごはんがすすむ

「米離れで、パックごはんがすすむ」。こんな刺激的なタイトルのプレスリリースが2022年10月末に公表された。

発出元は、パックご飯大手のサトウ食品株式会社(新潟市)。1988年に世界で初めて無菌包装米飯(パックご飯)の「サトウのごはん」を発売した、このジャンルの草分けであり、パックご飯の売上額は国内最高とみられる。

「サトウのごはん」の売上は、2021年度に253億9700万円で、19年度に比べて20.8%増と大幅に伸長。直近の22年度第一四半期は56億8600万円で、前年同期比14.0%と過去最高の実績になったと同社は伝える。そのうえでこう続ける。

「この10年間で主食用米の需要は約90%と下降しておりますが、同期間比較での当社売上高推移は、約2倍、主力商品5食パックは2.6倍となっており、その伸長は当社の想定を遥かに上回る急伸長となっております」

備蓄用から主食へ

主食用米が1割需要を減らした10年の間に、売上高が2倍になった同社。その理由は主に次の三つにあるとする。

コロナ禍で家庭内食が増えたというライフスタイルの変化に適していたこと。家庭で炊くご飯以上の「炊きたてのおいしさ」を目指した「サトウのごはん」というブランドが、より多くの消費者に受け入れられるようになったこと。パックご飯の位置づけが、災害に備える備蓄用や急にご飯が必要になった時のための「お助け食品」から、主食そのものに変化していることだ。

同社を含むパックご飯の市場規模は拡張を遂げている。農林水産省の「食品産業動態調査」によると、無菌包装米飯(パックご飯)の2021年の生産量は20万6000トンで、19年に比べて12.8%伸びた。

パックご飯の生産量の推移(平成22 年~令和3 年)。農水省「食品産業動態調査」より引用

1988年の発売当時は、パックご飯に限らず、冷凍食品や惣菜のようなでき合いの食品を買うことが「手抜き」と捉えられがちだった。そうした風潮は様変わりし、電子レンジもほぼ一家に一台あるところまで普及した。

ご飯を炊く時間はないが、あたたかいご飯を食べたいというニーズ

コメの需要が減るなか、パックご飯の需要が増す。一見矛盾するこうした現象の要因は、そもそも炊くのが面倒だから。無洗米を使う場合もあるが、一般的にはコメを研いで水を吸わせて、40分から50分かけて炊飯して蒸らすので、食事のなかで調理時間が長い。

ご飯を炊く時間はない。でも、あたたかいご飯を食べたい。そんな需要にピタリとはまったのが、パックご飯というわけだ。自宅でご飯を炊く場合に比べて、パックご飯は高価なものである。それでも買い求められるのは、ご飯を炊く時間と手間を買われているとも言える。

品薄で増産に次ぐ増産

予想以上に需要が伸び、いまや「サトウのごはん」は品薄状態になっている。そこで、約45億円をかけて既存のパックご飯専用工場の「聖籠(せいろう)ファクトリー」に新たな生産ラインを増設し、2024年に稼働させる。増設により「サトウのごはん」の生産能力は、現在の日産約103万食から123万食まで拡大する。年間4億食が供給できる計算だ。

そもそも、聖籠ファクトリーは、同社にとって三つ目のパックご飯専用工場だ。2019年に約50億円を投じて建てられ、日産20万食、年間6500万食の生産能力を持っている。大幅な増産を可能にする工場だったのだが、それでも間に合わず、今回生産ラインを増設するに至った。

時短を求める消費の変化と、高齢化の両面から、市場はより広がるはずだ。顧客は高齢者が多いため、今後さらに需要は増えると想定される。
パックご飯が成長を続けるのは間違いない。原料としてのコメの需要は年を経るごとに拡大するだろう。

同社はコメを安定的に調達するべく、JA全農と資本・業務提携を結んでいる。全農は、同社が必要とするコメを積極的に確保、提案している。生産者の手取りを確保し、その経営を安定させるのが狙いだ。

パックご飯の市場規模は、700億円程度。それでも、将来的にはコメ全体の1%程度を使うまで拡大しうると業界関係者は予想する。こうした旺盛な需要を捉えていくことが、今後のコメ産地には欠かせない。

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