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輸出に活路を見いだすコメ生産者組織~株式会社百笑市場~

kumano_takafumi

ライター:

輸出に活路を見いだすコメ生産者組織~株式会社百笑市場~

農水省がまとめたコメの輸出実績によると、2021年(1~12月)の商業用の輸出数量は前年より15%増加し2万2833トンになった。清酒や米菓を原料米換算した数量を加えると4万5000トンを超える。国はコメ・コメ加工食品の輸出を2025年までに金額ベースで125億円にするという大きな目標を立てており、さまざまな支援措置を講じている。国内でのコメの需要増に期待が持てないことから“輸出”に力を入れ始めた産地も少なくない。そうした中で生産者みずから輸出を目的にした組織を立ち上げ、輸出専用の精米工場まで建設したのが、茨城県下妻市の株式会社百笑市場(ひゃくしょういちば)である。

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輸出用米を精米する工場を今年建設。真空パックで食味劣化を防ぐ

長谷川さん

百笑市場で輸出を担当する取締役、長谷川有朋(はせがわ・ありとも)さん

話を聞いたのは、株式会社百笑市場取締役で輸出や国内販売の統括責任者である長谷川有朋さん。まず案内してくれたのが、今年1月に完成したばかりの下妻市内にある輸出用米を精米する工場と、それらを保管する低温倉庫だ。この精米工場では、国内の業務用向けと海外向けの輸出用米を精米している。工場の特徴は、食品の安全・安心を担保すべく各工程をエリア分けし、異物混入を防ぐためエアー搬送するなど最新の機器を導入して、国際食品安全規格である「FSSC22000」の認証を取得していること。輸出用精米ラインの最終工程では精米袋に二酸化炭素を充填(じゅうてん)する機器を設置して精米袋を真空パック状態にする。こうすることにより精米品位や食味の劣化を防ぎ、日持ちを良くして海外で販売する時点で新鮮な日本米を提供することができる。

海外で戦うための低コスト生産。未検査と多収米品種の採用

百笑市場の創業は2011年10月。組織の創業メンバー8人が輸出に取り組む決意をした背景には茨城県の存在が大きい。当時の県の産地振興課から「国内の米価は下がる一方で、海外にコメを輸出しないと恒久的なコメ作りはできない」と言われた。
しかし、輸出で戦うには日本産米は高すぎた。2011年のコメの相対取引価格は1俵(玄米60キロ)当たり1万5000円台だったが、その時すでに「1俵7000円で輸出する」ことにした。創業メンバーにとっては先行投資的な意味合いもあったというが、それだけメンバーの志が高かった。親戚が百笑市場の創業メンバーだったことから同社の立ち上げ当初から関与していた長谷川さんは、当時を振り返って「そういう人たちが引っ張ってくれるのであれば必ず成功するだろうという思いが私の中にもあった」という。

等級なしのコメでもアメリカでは売れ行き好調

百笑市場が最初に輸出を手掛けたのは2016年で、その時は精米ではなく玄米で60トンをアメリカに輸出した。アメリカでは日本のような玄米品位検査による1等、2等といった等級格付けをする必要はなく、同社は出荷するコメの量をできるだけ増やすため、ふるい目1.75ミリ以上の玄米であれば未検査でも受け付けた。この玄米を現地(カリフォルニア州チコ)の精米工場で精米したところ歩留まりは89%以上で、特に問題はなかった。

幸いなことに当時はカリフォルニアの日系スーパーに日本から輸出されている日本の品種のコメはそれほど多くはなく、現地で生産されているあきたこまちなどに比べて食味の良さが評価され、評判が良かった。価格も現地生産の日本米に比べ少し高い程度だったことから売れ行きも好調で、次年度は240トン、その次の年は470トンと輸出数量を増やしていった。

低コストをかなえる多収米

それにしてもいかに輸出用米といえども1俵7000円は生産者にとっては安い価格だが、この点については「その価格でなければ海外では戦えないという意識だった」という。だがこれが原動力になり、多収穫米による低コスト生産に弾みをつけることになる。

最初に輸出用に栽培していたコメは茨城のオリジナル品種である「ゆめひたち」であったが、もっと収量性のある品種としてハイブリッドライス「ハイブリッドとうごう3号」を作付けすることになった。「とうごう」は豊田通商が水稲生産技術研究所に協力して育種した品種だが、この品種を百笑市場の社長を務める染野実(そめの・みのる)さんが実証栽培していたこともあって、輸出に取り組む生産者に種子を使ってもらえるようになった。
さらに輸出に取り組む生産者の数も毎年のように増えていった。これには百笑市場の創業メンバーである石島和美(いしじま・かずみ)さんや染野さんらが茨城県産米輸出推進協議会の会長を歴任するなど人望があり、賛同する生産者が多かったという理由もある。参加する生産者の人数だけを示すと初年度8人でスタートしたものが2年目34人、3年目60人に増えたが、それでも必要とする輸出用米の量を確保するにいたらず、作付面積の大きな生産者を一軒一軒回り「輸出用米の取り組みはコメ販売のリスクヘッジの一つです」と言って参加者を募った。

参加する生産者と事前契約を締結。2021年産は286人が輸出用米を生産

2021年産では参加生産者が286人に増え、1145トンを輸出するまでになった。2022年産については「今、契約を推進している段階」(長谷川さん)で具体的な数量が固まるところまでは行っていないが、契約のめどとしては2021年産を上回る数量が確保できる見込み。ただ、これまで契約時点で「単年度契約」をベースにして契約価格を提示していたが、今年の場合あまりにも価格変動が大きいのでまだ価格を提示するまでには至っていない。
価格変動には国内のコメ市況だけでなく、為替の問題も付いてまわる。これは輸出入を手掛けるいかなる企業も同じで、同社も例外ではなく「1ドル100円切ると採算割れになる」という。今は円安で輸出業者にとってはプラス材料だが、同社の場合、自社で直接輸出する量よりも、コメの輸出も手掛けるクボタや全農に輸出用米として販売する量が多く、これら企業への卸値が生産者からの契約価格と連動するようになっている。組織形態としては生産者が出資して立ち上げた百笑市場がコメの販売会社(卸)となって、そこがクボタなどの輸出商社と交渉するという形態をとっている。
精米工場まで作ったのは、玄米で輸出するより精米で輸出した方が単価アップが見込めるから。さらに「生産者の顔が見えるコメの売り方をしたかった」という思いがある。百笑市場ではトレーサビリティー強化のため、消費者が生産者の情報を確認できるシステムを構築している。それが生産者の生産意欲につながるという。しかも自分たちの作ったコメがアメリカやシンガポールで販売されること自体がそれまであり得ないことだったので、それが実現できたことが「生産者の気持ちを奮い立たせることにもなった」という。今でも輸出先に生産者の顔が見えるようにして販売しているところは少ない。しかし、自分たちで販売会社まで持つということになると、その分その会社で抱える在庫のリスクも背負うことになる。そこまでして取り組む理由について長谷川さんは「自分たちで販路を持たないと生き残っていけないという思いがあったからだ」と明確に答えてくれた。
          

自分たちのコメの特徴を消費者に伝える。嗜好(しこう)品としてのコメのニーズ高まる

もちろんそれだけではなく、新設した精米工場では輸出先国で日本産のコメをおいしく食べてもらうため、精米品位のグレードアップとともに品質・食味が劣化しないように二酸化炭素を充填して真空パック状態にしている。輸出用米の場合、精米してから消費者の口に入るまでの期間が長いので、真空パックすることによって賞味期限を2年間まで伸ばした。それまで普通精米で販売していた時は虫の発生によるクレームもあったが、こうしたクレームも無くなった。

真空パック機械

真空パックに袋詰めする機械

特筆すべきは生産者たちが自らアメリカへ出向いて現地の売り場で売り子まで務めていたことで、その回数は延べ50回にもなった。うれしいことに現地で売り場に立つと消費者から「あなたたちが作った米なの? じゃ買うわ」と言ってもらえたことで、「茨米(うばらまい)=UBARARICE(ウバラライス)」というネーミングも知られるようになった。

茨米

コロナ禍で海外へ出向くことも難しくなったが、コロナ収束後には再開する計画で、今年3月に幕張メッセで開催された国際食品見本市にも出展して自社のコメを海外バイヤーに紹介した。
近年、海外でもコメを嗜好品として捉えるニーズも広がっている。同社の輸出用米の主力銘柄「しきゆたか(ハイブリッドとうごう)」については低アミロースでもちもち感があるコメということ、「ゆめひたち」についてはさっぱり系で寿司に向いているということも現地でアピールしている。
今年の目標は第一に輸出先国を増やすことで、具体的には豪州とヨーロッパをターゲットにするほか、台湾の輸入規制が解かれたことから台湾向けも視野に入っている。同時に今最も大きな課題になっている物流問題を早期に解決することで、できるだけ早く2021年産米を輸出し終え、2022年産につなげたいとしている。

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