■阿部有希さんプロフィール
山形県天童市出身。2016年、最上町地域おこし協力隊として仙台市より夫・娘と移住。2019年に阿部有希結婚相談所を開所。結婚したい人や未婚の子を持つ親の相談、現代版仲人や支援者向けの講座、学生向けのコミュニケーション授業などを行っている。 |
家を出るという選択肢のない農家
宮城県仙台市で社会人生活を送っていた阿部さんは、婚活を通して現在の夫・彰彦(あきひこ)さんと結婚、夫の地元である山形県最上町に移住した。
移住に当たって活用したのが、総務省の移住政策事業である地域おこし協力隊の制度だった。結婚支援を地域課題としていた最上町に協力隊として入職し、町の事業として結婚相談などの業務に携わった。
協力隊としての約3年間、阿部さんが受けた相談は250件以上にのぼる。内訳は、男性がやや多め、年齢層は20~60代と幅広い。最上地域内の相談者が多かったが、遠くは米沢市から来る人もいた。
協力隊としての任期を終え、2019年に阿部有希結婚相談所を開業した。
2020年からの新型コロナウイルス感染拡大の影響で結婚相談の件数が大きく減ってしまったものの、コンスタントに相談者の支援を行い、年間2組ほど成婚に導いている。
最上町は人口約8000人規模の山間部にある町であり、相談者の中には農家も多い。阿部さんは相談に訪れる人たちの特徴について次のように語った。
「年齢層は40代が多いですね。結婚の条件としては、親との同居、現在の生活の維持、家族の介護など、親御さんの期待に沿うようなものが多いです。『家のため』『土地のため』など、自分よりも他人のために婚活をされている方が目立ちます。そのことを東京など都市部で相談所をされている方に話しても、『どうして他人のために婚活を?』と、なかなか理解されないですね」
特に農家は、農地のためにその地域から離れるという選択が取りづらい。家の近くに農地があるため、親との同居を結婚の条件とする傾向にある。
自分ではなく、他の誰か・何かのために行動するこの地域の男性たちについて、阿部さんは「とにかくやさしいです」と、人柄の良さを強調する。
一方で、他の誰か・何かの正体は、「結婚すべき年齢」や「地域からの目」といった田舎特有の世間体と言えなくもない。そうした受け身の動機で結婚しようとするところに、一つ大きな問題があると、阿部さんは指摘する。
「親御さんが相談に来られることもあるのですが、その際、『一度別々に暮らされてはいかがですか』とお話ししています。親御さんと一緒に暮らしていると、生活に不便を感じる機会が少ないですよね。でも、人は不便を感じた時に、『誰かの助けがほしい』『誰か一緒にいてほしい』と思うようになります。そういう不便さから心寂しさを感じるようになり、結婚相手を求めるようになるのです」
「寂しい」という感情から生まれる自分だけの動機を持つことこそが、婚活の原動力になるのだと阿部さんは言う。
結婚に至りやすいケースとは
たくさんの相談を受けてきた中で、うまく結婚に至る人について阿部さんは次のような特徴を挙げた。
・行動が早い
・素直にアドバイスを聞く
・相手を迎え入れる準備ができる
行動が早い
相談者の中で成婚率が高いのは30代だという。40代に次いで相談者の割合が多いのに加えて、動きが早いことを阿部さんは理由として挙げる。
相談に来たある若い男性は、阿部さんの紹介された女性ともう少しで話がつきそうな段階まで来ていた。ところが、その男性は直前になって、どこかに納得できていない部分があったのか、その女性との結婚をためらってしまう。
「女性は、男性のためらいに敏感です。気づいた女性のほうからお断りされてしまいました」
この失敗を反省した男性は、次に女性を紹介された際に、スピード感を意識して話を進めることにした。結果、すぐに結婚が決まったという。
機を見てすぐに行動に移すことがとても重要であり、特に30代にその傾向が強いそうだ。
素直にアドバイスを受け入れる
阿部さんは相談者に対して、身だしなみや写真の撮り方、メール文のつくり方、会った時のやりとりなどのアドバイスを行っている。
結婚相手の見つからない人の多くは、異性から見た場合に、これらの点がウィークポイントになっているケースが目立つ。第三者から指摘された時に、すぐにアドバイスを受け入れて改善できる人は、結婚相手が見つかりやすいという。
相手を迎え入れる準備ができる
結婚後、親との同居を望むのであれば、家の設備や心構えの上で、相手をしっかり迎え入れる準備が必要だ。
トイレが水洗ではなかったり、シャワーがなかったりすると、そうした暮らしに慣れていない人には選んでもらえないだろう。家の改修が難しい場合は、実家の近くでアパートを借りるといった選択も検討する必要がある。
また、男性であれ女性であれ、外から来た人はその地域に根付くのに時間がかかる。縁もゆかりもない土地に来る人の気持ちを考えてあげることが大切だ。
そのほか、結婚に必要な要素をさまざま挙げた阿部さんだが、やはり積極的に自ら動くことの大切さを説く。
「相談に来られる方は、よく『いずれしたい』『いつかしたい』といった言葉を使われますが、結婚相手を見つけるまでに4、5年かかる方も珍しくありません。結婚の必要性に気づいた時には、すでに出遅れているぐらいに思っておいたほうがいいです。とにかく早めに動いておくことが大切です」
農家は農作業を計画立てて進めるはず。婚活も仕事と同じように、しっかり目標を立てて向かっていってほしい、と阿部さんは言う。
別居婚という新しい結婚スタイルに注目
今、阿部さんが注目しているのが別居婚や週末婚だ。婚姻関係にはありながらも、片方は都市部で仕事を続け、週末などだけ地方に住むパートナーに会いに行く。そんな結婚生活を、一つの形として阿部さんは勧める。
「結婚後もキャリアを維持したいという女性は多くいます。でも、『田舎へ行って癒されたい』という思いもあるわけです。結婚したら夫の家に入るものという、昔からの考えが根強い地域には、なかなか受け入れられない考え方のようですが、移住する前から私の夫も仙台から毎週帰郷してましたからね。できないことはないはずです」
そういう阿部さんは、別居婚の良さをアピールするため、亡父が遺した宮城県内の住宅を活用し、自ら二拠点居住の生活を実践している。
別居婚もそうだが、女性が仕事を続けることを望んだり、スマホのマッチングアプリを使う人が増えたりと、昨今の結婚観は大きく変化している。阿部さんは、そうした現在の結婚事情を、独身者の親世代の人たちに伝える取り組みも行っている。
「地方では、結婚相手を探す人の世代よりも、その親御さんたちの世代のほうが圧倒的に多いわけです。私は『現代版仲人』と呼んでいるのですが、その年代の方々が考え方を変えていかないと、現代の結婚は難しい」
繰り返し阿部さんの話を聞くうちに、他の人にも阿部さんの話を聞かせようと自ら動いてくれる人も地域に現れるようになった。
世の中の動きに合わせて自らを変えていくことが重要なのは、結婚に限ったことではない。人口が減り、経済が低迷していく地域が明るさを取り戻すためには、昔からの凝り固まった考え方を更新していく必要があるだろう。
結婚支援という事業を通して、地域の活性化に取り組む阿部さん。今後の活躍に期待したい。