地域全体が一致団結して世代交代を進める唐津エリア
朝鮮半島からわずか250キロ、九州の北西部に位置する唐津には、古くから唐(から:韓・唐)など大陸への玄関口(津・港)として栄えてきた歴史があります。また、このエリアでは玄界灘に面した北部や松浦川流域の平坦部、そして天山山麓の中山間地域など、多彩な土地条件を生かし、日本一の生産量を誇るハウスみかんをはじめ、肉用牛やいちご、こねぎ、たまねぎなどを生産。佐賀県内でも有数の農業地帯として発展を続けてきました。しかし、東松浦地域の農業は今、大きな転換期を迎えています。農家の高齢化などにより農産物の生産者数・栽培面積が伸び悩み、かつての隆盛を失いつつあるというのです。
そこで、現在は佐賀県と唐津市、そしてJAからつが一丸となり、新規就農者を全面的にサポートしているところ。その代表的な制度が、受入農家のもとで2年間をかけ、栽培技術や経営のノウハウ、そして地域との関わり方を学ぶことで、農業未経験からでも安心して就農できる唐津版アグリ・トレーニング(通称:唐津版アグ・トレ)です。また、そこに至るまでの就農啓発セミナーや短期研修などの実施にも注力。さらに、唐津版アグ・トレを受けた後にはスムーズに就農できるよう、JA、市町、部会などが連携し、遊休農地や中古ハウスのリストを作成しているのだとか。近年は資材費の高騰が顕著なうえ、いちご栽培を始めるとなれば初期投資にも大きな費用がかかります。新規就農を実現するために、これらの出費を最大限に抑えられるというところも、サポート体制が充実した唐津ならではの魅力だと言えるでしょう。
そして、こうした制度の整備には、アンケート調査などを通じて受入農家の声も色濃く反映されています。県と市、JA、そして現役農家が一致団結し、地域農業を盛り上げるために世代交代を推進している真っ只中だからこそ、ここには新規就農を実現できる絶好のチャンスがあるのです。
唐津版アグ・トレの第一期生が感じている力強い手応え
販売単価が安定しており、頑張れば頑張るほど高収入が見込めるいちご栽培に魅力を感じて新規就農をめざしていた末吉さん。以前は伊万里市の農業法人で米・麦・大豆の栽培に従事していましたが、かねてから独立したいという思いが強く、奥さんの地元である唐津で農地を探していたと言います。最初のうちは、農家さんとの人脈などもなかったため、空いているハウスを見つけては所有者に声をかけていたそうですが、当然ながらどこの誰かも分からない若者にハウスを譲るといった話にまでは進展しません。
そこで、市役所やJA、県農業振興センターなどに相談したところ、「唐津版アグ・トレという新しい研修制度がスタートするから利用してみては?」というアドバイスを受け、その第一期生として参加することに。すると、受入農家となった山﨑さんのもとで学び始めてわずか1ヵ月後には、2年後に独立するための自分のハウスが決まったのだとか。しかも、そこは本圃17アール、苗場10アールという規模。
「これはやはり地域でも注目を集めている唐津版アグ・トレでいちご栽培を学んでいるという事実と、何より山﨑さんの人望が大きかったと思います」と、末吉さんは研修に参加したことによって得られた望外の効果について話してくれました。また、当初は自力でいちご栽培を始めようとしていたことについても、「今から思えば、本当に無謀でしたね!」と笑います。
山﨑さんのもとで学び始めてみると、いちご栽培のみならず、長期的な視野で収量を安定させる技術や資材・経費についてなど、農業経営全般に関する幅広い知識を吸収できているのだとか。そして、何よりも地域で活躍しているいちご生産者との人脈を広げられたというところが、この研修での何より大きな収穫だったと言います。
現在では山﨑さんだけではなく、若手からベテランまで誰もが気軽に相談に乗ってくれますし、準備を進めている自分のハウスについても「資材は用意できそう?」と、いつも気にかけて声をかけてくれるそう。他のエリアから移住して、こうしたネットワークをつくるのはそう簡単なことではありません。そんな人間関係を短期間で構築できるというところも、唐津版アグ・トレの魅力だと言えるでしょう。
受入農家にも好影響を及ぼし、地域全体の活性化へ!
唐津版アグ・トレに、決して欠かすことのできない存在。それが、2年間をかけて新規就農者に栽培技術から経営ノウハウまでを伝授する受入農家です。この受入農家を引き受けることへ真っ先に手を挙げたのが、末吉さんが第一期生としていちご栽培を学んでいる山﨑さん。
実は、山﨑さん自身もおよそ5年前に新規就農を実現し、メキメキと頭角を現してきた若手の筆頭株なのです。以前はプログラマーやネットワークエンジニアとして、IT業界でキャリアを積み重ねていたものの、「形あるモノをつくりたい」という思いで農業に挑戦。唐津は山﨑さんの地元であり、なおかつご両親が農業を営んでいたこともあって、当時はいちご農家の先輩たちから非常に助けられたそう。
その経験から学んだことは、農業というのはいろんな人との関わりを持ち、おたがいに協力し合うからこそ続けられるものだということ。「新規就農したばかりの頃は、本当にいろんな方に助けられました。だから、自分に何か手助けできることがあるのであれば、ぜひ協力したいと自然に思いましたね」と、唐津版アグ・トレの受入農家を引き受けた理由を教えてくれました。
地元出身であり、なおかつご両親が農家だったにも関わらず大変だった新規就農。他のエリアから移住して始めるとなれば、その苦労は計り知れないだろうと思ったそうです。ただ、実際に末吉さんを受け入れてからは、その存在が自分自身のモチベーションにもなっていると気づいたのだとか。「彼は本当に真面目なので、独立したら数年後には自分よりも収量が上がっているんじゃないかって、少し危機感を感じるんですよ。本当に負けちゃったら、良いネタにされちゃいますよね?」と笑いながらも、毎月の部会や高収量の生産者が集まる技術交流会には、かならず末吉さんを連れていきます。
心温まる人情がありながら、全員がおたがいにライバルとして切磋琢磨する。そんな仲間たちが集まり、地域全体のレベルを押し上げ続けている唐津には、今よりもずっと明るい未来が待っていると言えるのではないでしょうか。
受入農家の栽培品目はさまざま。移住支援も充実!
末吉さんが山﨑さんのもとでいちご栽培を学んでいるように、唐津版アグ・トレでは他にもきゅうりやトマト、アスパラガス、ねぎ、そしてなすの受入農家もあります。さらに、県外からの就農希望者であれば、移住支援金や空き家バンクなど、生活面でのバックアップも充実。
唐津での就農に興味がある方は、まずは気軽に問い合わせてみてはいかがでしょうか?
■唐津版アグ・トレについてのお問い合わせ■
東松浦農業振興センター 普及課
〒847-0861 佐賀県唐津市二タ子3-1-5
TEL:0955-73-1121
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佐賀県 農林水産部 農業経営課
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