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農産物の新たな価値となりうる「環境配慮」。現場の取り組みと普及への課題

農産物の新たな価値となりうる「環境配慮」。現場の取り組みと普及への課題

テクノロジーを使って、これまで見えなかった価値をデータで裏付けることが可能になったことは、前回記事でお伝えした通りだ。「味」「鮮度」「安全性」など、消費者に訴求すべき特徴は多くある中、「環境配慮」に付加価値をつける取り組みも生まれてきている。邦銀で初めて設立した農業法人への出向経験がある三井住友銀行の秋山峻亮(あきやま・しゅんすけ)さんに、日本総合研究所の多田理紗子(ただ・りさこ)さんが話を聞いた。

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■秋山峻亮さんプロフィール

2012年に株式会社三井住友銀行(以下、SMBC)入行。総合職として長野法人営業部に配属後、本社へ異動。2022年1月にSMBCなどが出資する農業法人みらい共創ファーム秋田へ出向。現在は銀行から同社の事業運営に携わると共に、フード&アグリビジネス分野での事業開発や脱炭素関連事業への取組に従事。「若い人たちが食・農の分野に参入できる社会づくりに金融の立場から貢献したい」と語る。

■多田理紗子さん(聞き手)プロフィール

2019年に株式会社日本総合研究所入社。創発戦略センター所属コンサルタントとして、農業・農村政策、農産物・食品流通、農村のDXを主な研究分野とし、農産物・食品流通へのデジタル導入による効率化、農業と農村生活の一体的なスマート化に注力。

前回記事はこちら
農産物の価値伝達システム~農産物の多様な価値を消費者に届ける仕組み~
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水田のメタン発生量の削減を実証。次なるステップは

多田さん:農産物は主に形や大きさの規格で判断されてきましたが、例えば、鮮度、安全性、農業者の取り組みや努力など、多様な価値を見える化して伝えることが、価値向上につながると考えています。特に環境配慮の努力について、農業の現場で活動された秋山さんに意見を伺いたいと思います。まず、農業法人での取り組みから聞かせていただけますか。

秋山さん:私が1年間出向したみらい共創ファーム秋田では、今後の付加価値となる環境配慮への取り組みの一例として、ある企業様と共同で、水田で発生するメタン削減の実証を行っています。コメの生産過程には、苗に酸素を供給し、元気にするために水田の水を一度抜く「中干し」という生産工程がありますが、農研機構の研究では、その期間を1週間ほど延長することで水田から発生するメタンの量を約30%削減できるとのデータがあります。そこで、中干し延長によってコメの収量や品質に影響はないか、またスマート農業などを活用して合理的にデータ取得できないかをテーマに、各所と連携して取り組んでいます。

多田さん:日本総研が提唱しているCAVシステム(※)では、価値を裏付けるデータも重要になります。現場でデータ取得を進めるには、生産者が負担なく取り組めることが重要ですね。
※ 農業者の思いを効果的かつ効率的に伝えるべく、既存の情報を集約した「農産物の価値伝達システム」。

生産者による農産物の環境配慮、消費につなげる伝え方

多田さん:先日(3月1日)に「水稲栽培による中干し期間の延長」が、J-クレジット※の新たな方法論として承認されたというニュースがありました。農業の現場で中干し延長は一般的に認知されているものでしょうか。

秋山さん:認知している生産者はいますが、積極的に行うメリットやインセンティブは現在のところ乏しい印象です。中干しの延長は、生産作業スケジュールが後倒しになりますが、作業負担やコストなどに大きな影響が生じる取り組みではないと考えています。今後、生産者にとって負担なく資金化できるような仕組みができれば、新しい価値になると期待しています。

多田さん:中干し延長をしたことで農産物が高く売れるインセンティブがあれば、取り組みが更に広がる可能性もありますね。

秋山さん:環境に配慮した商品が高く売り出されるとして、消費者がその農産物を買う価値を見出すかが肝になるのではないかと考えています。CAVシステムを使って農産物の魅力や価値を世に出していけるといいですね。

多田さん:最近は、環境意識の高い方やSDGsに関心のある方が環境に配慮した商品を選ぶ風潮が見られます。中干し延長を取り入れて作った農産物も、環境配慮の効果を伝えることにより価値を高めることができそうです。

※ J-クレジット:気候変動対策の一環として策定された「J-クレジット制度」により、農林業者、中小企業、地方自治体、公益法人等に対して、温室効果ガスの排出削減量や吸収量をクレジットとして国が認証したもの。

企業を介して環境配慮を可視化、ツールとしてのデジタルサービスの行方

多田さん:SMBCでは、CO2排出量算定・削減支援クラウドサービス「Sustana(サスタナ)」を提供し、多業種の企業が導入されていると聞いています。企業の意識変化として感じていることはありますか。

秋山さん:私が担当するのは食農分野ですが、特に上場している食品関連会社では、生産者との農産物の取引の部分で、GHG(温室効果ガス)やCO2排出量をどのように「見える化」するかを考えるようになっています。

多田さん:「見える化」といえば、今年度から農林水産省が産地の温室効果ガス削減を評価する「見える化」ラベルの実証を始めるなど、政策側では「見える化」への意識が高まっていると感じています。企業側ではいかがでしょうか。

秋山さん:「見える化」を通じた商品ブランド化の一環で、商品へのプリント(ラベル)などを考えている企業はありますが、ごく一部に過ぎず、全体的にはこれからといったところです。今後「見える化」に取り組むためにも、先ずはCO2排出量を把握することが不可欠ですので、そうした目線でも「Sustana」は役立てると思います。

多田さん:当社では、CAVシステムを小売や外食といった企業の皆さんにも役立ててもらえないかという話も出ています。企業が自社商品の価値を消費者に伝える際に使っていただくことができると思っています。

秋山さん:これらの仕組みを使って価値を価格に反映できるスキームができれば、環境配慮に取り組む生産者の裾野が広がっていくと思います。先ほども話があったように、消費者の購買意欲の向上や購買のインセンティブが必要だと思います。

多田さん:農産物の新たな価値を伝えられる仕組みの実現に向けて、今後も両社で連携していきたいですね。本日はありがとうございました。

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