繁忙期の労働力不足。都市農業ならではの課題も。
前身のおおさか若者就労支援機構は、若者の就労問題を解決するさまざまな取り組みを行っているNPO法人です。農業体験などの支援の実施が元になり、2010年より農業での就労支援を行う「アグリ事業部」が発足。さらに自立したビジネスモデルを確立すべく、2015年に株式会社化して本格的な稼働を始めます。
株式会社泉州アグリが確立したのは、就労を希望する人を研修や体験プログラムを通じて教育し、最終的に4人1組のユニットとして、労働力を必要としている全国の連携先の農家の下へ、必要な期間、必要な労働力を派遣するという「ユニット型就労」システムです。
立ち上げメンバーである代表取締役の加藤さんは、「繁忙期と閑散期の差がある農業は、繁忙期の労働力不足が深刻であるにも関わらず、経営面から年間を通じての雇用は難しい状況です。また、賃金や労働条件など、他の産業との格差が大きなデメリットとなる都市農業では、高齢化、後継者不足、耕作放棄地が深刻な問題でした」と話します。
一方これまで就労支援を行う中で、引きこもりや障がいを持った人と農業の親和性も感じていたという加藤さん。働きたいけど一歩が踏み出せない人たちと、人手不足に悩む農家をつなぐベストな方法は何なのかを探りながら進めていったそうです。
就労者も受け入れ側の農家もwin-winであるために。
泉州アグリは実際に就労者が働く受け入れ先でもあるため、人材を受け入れる農家側の苦労も理解していました。就労支援という福祉的な側面に偏ってしまっては、農業分野の抱える問題解決にはなりません。就労者も受け入れ側の農家も、お互いがwin-winである必要性を感じていたといいます。
「ユニット型就労の特徴の一つは「仕事の分解」です。これは、能力や経験を問わず誰もが作業可能な業務を抽出し、リスト化しマニュアルを作成するというものです。農業スキルや経験値が必要な作業を省くことで作業スピードを維持でき、農繁期に作業を完了するという目的が達成できます」(加藤さん)
ユニット型就労を支えるもう一つの大きな要素が、ユニットリーダー(就労支援員)の存在です。基本4人1組のユニットを現場へ派遣しますが、ユニットリーダーが農家とのやり取りをすべて行うため、個別で雇用した場合と比べて指示出しなどといった農家側の手間を省くことができます。ユニットリーダーは農業スキルがあるのはもちろんのこと、作業管理や就労者のメンタルサポートも行うため、ユニットメンバーの円滑な就労にも大きく貢献できます。
「ユニット型就労」への高まる評価。どんな分野でも応用可能
後継者や右腕的な存在の担い手を期待する農家にとって、ある種“シンプルな作業のみ”取り扱うユニット型就労は馴染みのない新たなシステムであり、発足当初はなかなか受け入れ先が見つからなかったそう。しかし、徐々にその評判は全国に広がり、今では問い合わせ対応に追われる状況だといいます。北は北海道から南は沖縄まで、扱う農作物も多岐に渡っています。
一方、就労希望者の確保に関しても大阪府下に9カ所を構える「地域若者サポートステーション」や、自立支援の専門機関、ハローワーク等、官民と連携しながら積極的に取り組んでいます。
令和3年度の労働力受け入れ農家数は、目標値10箇所に対して23箇所、就労者受け入れ数も、目標値30名に対して53名に上りました。
「加賀市や北海道などの受け入れ先地域に移住して就労しているメンバーもいますし、事業の意義や成果を大きく実感しているところです。この事業は今期で8期目に入るのですが、全国のもっと多くの地域でユニット型就労が受け入れられていければと思います。また将来的にユニットごとに現地に根付き、その地域で私たちと同じような役割が果たせればいいですね。仕事の分解さえできれば、どんなジャンルでも活用していけるはずです」
と、加藤さんは自信を持って話します。
農業の新たな入り口へ。就農を身近にすることが地方創生の鍵となる。
ユニット型就労の精度を上げていくためには、市場のニーズをより的確に把握する必要がありました。そこで令和3~4年度にかけて農業人材確保・就農サポート体制確立支援事業を活用しました。
「大阪府内の農業経営者の方を対象に労働力の需要に関する大規模な調査が行えたことで、農家の人手不足の状況、その時期や規模、具体的な作業内容を把握することができました。また、就労困難者に対しても農業への関心度や就農への意欲などをヒアリングすることができたので、どれくらいの人が就労可能なのかボリューム感が把握できました」(加藤さん)
今後は、各現場で培った就労支援スキームを基に、他産地においても本格的な就労にステップアップできるよう精度を高めていきたいと話す加藤さん。「農業に携わる人材の裾野を広げることで、農業人口そのものを増やしていきたい」と力強い言葉をいただきました。
問い合わせ
株式会社泉州アグリ
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