ベンチャー企業が農業参入、高糖度トマトの栽培に成功
横浜市でも農業が盛んな羽沢地区に建つ100坪(330平方メートル)の新しいビニールハウス。「ホワイトフィールド」と名付けられた農場では、真っ赤なトマトが実っていました。潅水を控える水ストレス栽培で高糖度を狙ったトマトは、樹上完熟で収穫され、モール型ECサイトや地元マルシェのほか、飲食店向けに販売。ECサイトでは1箱6個入り3500円で連日完売の人気商品です。
その生産者、エヌディーワイユナイテッド(NDYunited)は横浜を拠点とするベンチャー企業。代表取締役の遠藤康平(えんどう・こうへい)さんは、主事業のインバウンド向け化粧品・飲料水・サプリメントの需要がコロナ禍で冷え込んだ経験から、将来的に育てたい事業として農業への挑戦を決めました。地元の先輩で三好種苗(本社・横浜市)社長の三好崇一郎(みよし・そういちろう)さんに相談し、「やるなら面白い農業がある」と提案を受けたのが、トマトのシステム栽培でした。
三好さんは「トマトは付加価値の幅が大きい作物ですが、全く農業経験のない人が作るのは難しい。でも、ベテラン農家の勘と経験をシステムに置き換えて自動化すれば、週休2日で農業ができるし、若い人材も入りやすい」と遠藤さんに説明。2021年8月に栽培をスタートし、初代農場長には化粧品の営業をしていた若手社員、関大輔(せき・だいすけ)さん(25)が抜てきされました。
低コストで高い自由度、DIY型の環境制御システムだからできる
同農場のトマト栽培のコンセプトは高糖度・高収量。「おいしいトマトを作ろうとすると収量が減る。収量を増やそうとすると食味が落ちる。相反する2つを狙うなら制御システムが肝心」と三好さん。そこで環境制御システム『アルスプラウト』を遠藤さんに提案しました。ポイントは、低コストと自由度の高さです。
『アルスプラウト』は、ユーザーが必要なセンサと制御項目を自由に選んで組み立てる環境制御システムです。DIYなので低価格で導入でき、部品交換や簡単な修理に自身で対応できます。さらに、同システムの拡張性の高さが、高付加価値トマト栽培に生かされています。
現在、同農場が制御しているのは30項目。気温、風速、日射、温湿度、CO2濃度などをセンシングし、設定条件に応じてハウスの天窓、カーテン、側窓、循環扇、潅水、施肥、CO2施用などの機械が自動で操作されます。モニタリングしたデータはクラウド経由でパソコンやスマートフォンで確認でき、遠隔で強制操作も可能。制御項目は追加できるので、最小限の機能でスタートしても、規模拡大や高度な設定にチャレンジできます。
農業をスマートに楽しくできれば、若い人材が育つ
設立2年目の現在、ホワイトフィールドでは大玉4品種、中玉1品種を栽培しています。そのうち大玉2品種の糖度を測ると、果物レベルの9.9度と10.5度を記録しました。全体的に赤色が濃く、果肉が引き締まり、種の周りのゼリー状の部分は少なく、皮に張りがあり、棚持ちのよいトマトに育っています。
その味に感動して、遠藤さんの友人でプロ野球選手の川﨑宗則(かわさき・むねのり)さんは、自身の合言葉「チェスト」を冠した商標「チェストマト」の名付け親になりました。高糖度でありながら収量は100坪で年間約5トン、売上高300万円が見込まれています。3年目となる2023年は前年比150%を目指しています。
全ての作業が自動化できるわけではありません。苗の定植、定植後の潅水、芽かき、誘引などのトマトに直接触れる管理は手作業で行います。農場長の関さんは、地域の熟練農家、平本喜誉作(ひらもと・きよさく)さんからトマト栽培のイロハを教わりました。昨夏は農業のスキルを身に着けようと、営農計画書を作成し、ハウス横の農地でナスやキュウリなどの露地野菜の栽培にも取り組んだそうです。
「自動で管理してくれるアルスプラウトのありがたさを改めて実感しました」と関さん。同時に分かった農業の面白さ。それを伝えるSNSや動画配信によるプロモーション、ECサイトの運営も担当しています。
省力化して作る高付加価値トマトを、日本のスタンダードにしたい
「3年目はホワイトフィールドにとって大事な年になります」と代表の遠藤さん。目標は、これまで試験的に栽培してきた5品種の中から最も高糖度なものを「チェストマト」の品種として選定すること。そして、トマト栽培をどれだけ省力化できるかを実証することです。
そのために、1年目に複数人で行っていたトマトの作業は、2年目から農場長の関さんが一人で管理。収量に対する作業時間の算出に取り組んでいます。
環境制御システム『アルスプラウト』を販売するサカタのタネ(本社・横浜市)の清水進吾(しみず・しんご)さんは、「新規参入はもちろん、生産者の方々が面積を増やしたり新しい作物に挑戦したりするとき、できるだけ省力化して高品質なものが作れるように、また気候変動による課題もこのような資材で解決できるようにサポートしたい」と思いを語ります。
生産者、販売代理店、サカタのタネが知見を結集してチームで生産に取り組み、生産者同士がデータを共有して教え合えることも『アルスプラウト』を使う魅力です。
「ホワイトフィールドで確立した作り方を広めて、日本のトマトの食味のスタンダード にしたい」と遠藤社長は語ります。その言葉には、食べた人においしいと言ってもらえる生産者の喜びと、日本の農業を高付加価値化したいという起業家の意志が込められていました。
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