農家は箱わなで捕獲がベスト
狩猟の経験がない農業従事者が自分自身で捕獲をしなければならない場合、どんな方法が一番適切なのでしょうか?
結論から言うと、「農家は箱わなで捕獲!」
私はいろんな農家の人たちと一緒に獣害対策をしてきましたが、これが最も安全で、比較的農作業に負担なく行える捕獲方法だと考えています。
箱わなとは?
読んで字のごとく、箱型のわなが箱わな。写真のように金属製の丈夫なメッシュでできたものが一般的に普及しています。
「檻(おり)にエサを置いて動物をおびき寄せ、中に入ったら扉をガシャーンと閉めて閉じ込めてしまえ!」というのがコンセプトのシンプルなわなです。
片手で持ち運びができる小型のものもあれば、容易には運搬できない大型のものもあります。また、形や構造もさまざまで、中にはカラスの群れの捕獲用に設計された大型の箱わななどもあります。
捕獲したい鳥獣の種類や、設置する条件に合わせて、対応する大きさや構造を選びましょう。
箱わなのメリット
私が箱わなを農家さんにお勧めする理由は4つあります。
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・農家さんでも空いた時間で手軽にできる
・ある程度自分の予定に合わせて捕獲ができる
・比較的安全に捕獲ができる
・錯誤捕獲(※1)にも対応しやすい
例えば、箱わなでイノシシを捕獲したい場合。
1日に1回程度、通りがかった時などに米ぬかなどのエサをまくだけでOKです。
捕獲の際は、丈夫な捕獲檻の中に閉じ込めるので、イノシシが逃亡したり、人を襲ったりする心配もありません。ですから、「今日は午前中は散布があるから、午後からにするか」といった具合に、余裕を持ってイノシシの処理が行えます。
また、小~中型動物の場合は箱わなに動物を入れたまま持ち運びができます。どうしても自分で処理ができない場合は、そのまま猟師さんや指定機関に持ち込み、処理をしてもらうことも可能です。
わなには狙っていない動物がかかってしまうこともよくあります。
特に熊のような自分では対応しきれない大型獣だった場合は大変です。
くくりわな(後述)のような耐久性が低いわなだと、傷を負った害獣がわなから抜け出すなどの危険な事態を招く恐れがあります。
この場合も箱わななら余裕を持って自治体や専門家に相談・対処してもらえます。
※1 誤って許可を得ていない獲物を捕獲してしまうこと。その場合放獣しないと違法行為になってしまう。
くくりわなは危険! やめておこう
下記の写真を見てください。これはワイヤーなどで動物の足をくくって捕らえるくくりわなにかかったイノシシです。
100キロ近い大きなイノシシですが、周囲を荒らしています。
朝7時半ごろに確認したときの写真ですが、すでにこの状態。これが半日もたつと大変な惨状になるし、最悪の場合イノシシが自身の足やワイヤーを切って逃げ出す可能性もあります。
よって、くくりわなの場合は毎朝のわなの見回りに加え、止め刺し(後述)もすぐに行わなければいけません。
また、近づくと鋭いキバを持った巨大イノシシが自分めがけて突っ込んできます。
猟師の私だったら遠くから銃で処理できますが、銃がない人は近づいて処理しなければならない事態となります。
命をかけて獣害対策をする必要はありませんので、箱わなの方で余裕を持って捕獲してください。
箱わなのデメリット
ここまで箱わなをお勧めしてきましたが、箱わなも完全無欠ではありません。多少のデメリットはあります。
私が思う箱わなのデメリットは
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・わなの価格が高め
・大型獣用の箱わなは重いので、設置場所を頻繁に変えるのは難しい
・長期間エサをまき続けなければならない
の3点です。
ただ、箱わなの設置については費用の補助制度のある自治体も多くあります。また、設置場所についても自分の農地を守るためのものと考えるとそうそう場所を変える必要もありません。
農家だからこそ軽減しやすいデメリットでもあります。
箱わなを設置するためにすること
では、箱わなを設置するためにどのような手順が必要なのでしょうか?
捕獲許可をとる
まずは自治体の担当者に連絡を取り、相談をしましょう。
基本、鳥獣を捕獲するためには捕獲許可が必要だからです。受付や代表電話で「有害鳥獣を捕獲したい。担当者につないでください」と言えば大丈夫です。
担当者からはおおむね「①狩猟免許取得 ②自治体に申請 ③捕獲許可」の手順を案内されます。
土地所有者の許可を取る
小~中型の箱わなであれば持ち運びが簡単にできるので、あまりトラブルになることはありません。
しかし、大型の箱わなを設置する場合は注意が必要です。茂みや獣の通り道の近くなど、捕獲に最適な場所に設置しようとすると、結果、他人の所有地になってしまう場合があるからです。
移動もすぐできないような大型の箱わなは置いてほしくない、自分の土地で殺生をしてほしくないという人もいるので、箱わなを設置する前に、必ず土地所有者に確認をとりましょう。
バックアップ体制を整える
箱わなといえど、相手は野生鳥獣です。想像以上にさまざまなトラブルが発生します。
処理の際に思わぬけがをしてしまって助けを呼ばないといけない状況になることもあります。一緒に捕獲活動をしてくれる仲間を探しておくことをお勧めします。
また、いざという時にかけつけてもらえるよう地元猟師に声をかけておきましょう。
捕獲した害獣の止め刺し方法
獲物にとどめを刺すことを、狩猟用語で「止め刺し」と言います。
ここでは、農家にお勧めの箱わなの止め刺し方法を2パターン紹介します。
止め刺し方法もいろいろありますが、ここでは農家向けに私が独断でお勧め方法をチョイス。比較的技術が不要で、なるべく動物を苦しませない、農家自身にも精神的負担が少ないといった点に考慮しました。
廃棄前提の止め刺し
処理後、解体処理場などに持っていかず廃棄する場合は、電気で止め刺しするのがお勧めです。血も流れませんし、動物もあまり苦しまないので、農家自身の精神的苦痛が軽減できます。あまり技術も必要ありません。
ただし、感電には十分気を付ける必要があります。必ずゴム手袋とゴム長靴を着用して行いましょう。また雨天時には行わないようにしましょう。
電気ショックは、プラスとマイナスの極を動物の体に当てて電気を通して電殺する方法と、片方の電極をグリップなどで箱わなに接触させ、もう片方の電極を獲物に当てる方法の2つがあります。自作する人もいますが、複数の大手のわなメーカーが完成品を販売しています。
ジビエ前提の止め刺し
食肉利用、いわゆるジビエ利用を前提として処理する場合、血抜き作業が必須となります。
より多く血抜きをした方がよりおいしいジビエになりますので、ナイフで動脈を切って失血死させるのが食肉利用としてはベストな方法と言えます。
獲物をジビエ加工処理施設に持ち込む場合には、その施設が指定する処理方法に従ってください。
止め刺しする場合、動物も必死ですから必ず暴れ回ります。動物をなるべく苦しめることがないよう、下記の手順で行うことをお勧めします。
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1. 金属ワイヤーで鼻(上あご)や足、胴などをくくって保定する
2. ナイフで心臓近くの大動脈を切る
保定にはそれなりの経験が必要なので、最初は時間がかかると思います。
もしも保定できなければ、電気ショックで止め刺しをしたあと動脈を切っても大丈夫です。血抜きは十分にできませんが(※2)、それなりにおいしく食べられるので自家消費には十分と言えます。
※2 獲物が息絶えるまでは動き続ける心臓のポンプを利用して血を抜くため、電気ショックによって心臓が停止した状態では抜ける血の量は減ってしまう。
止め刺しした害獣の処理方法
止め刺しした個体は、自治体のガイドラインに従って処理をしましょう。
ごみ処理場や有害鳥獣減容化処理施設(※3)での廃棄を推奨している自治体もあれば、自身で埋設するよう指導する自治体もあります。
また、ジビエ処理施設が地元にある場合は、処理施設が指示する方法に従うとよいです。処理施設の担当者が止め刺しして引き取ってくれる場合もあります。
※3 捕獲した有害鳥獣を微生物の働きなどにより分解し処理する施設。
埋設の場合は注意が必要
浅く埋設すると、他の動物やカラスなどを誘引する原因となります。
特にクマがいる地域は要注意です。クマにとって動物の死体は栄養価の高いごちそう。知らず知らずに農地にクマをおびき寄せることになってしまうこともあります。
私の経験と文献をいくつか読んだ結果ではありますが、個人的に下記の深さでの埋設をオススメしています。
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・クマがいる地域は深さ1メートル以上
・クマがいない地域は深さ0.5メートル以上
自分で有害鳥獣の捕獲をしたいという人は、ここまで説明してきたことを基本として、できる限り安全に気を付けて捕獲を行ってください。また、有害鳥獣捕獲のプロである猟師にバックアップしてもらう体制を整えることも、引き続き検討しましょう。