農機具を発明する「豊橋のエジソン」。農業経営の根幹にある「農業を遊びつくす」というマインド
公開日:2023年05月14日
最終更新日:
愛知県豊橋市に、自ら農機具を発明したり中古の農機具を改造したりしている異端農家がいます。それが、「豊橋のエジソン」と呼ばれる、柴田隆夫(しばた・たかお)さんです! 発明改造した農機具の数々や、農業観などを取材してきました!
柴田隆夫さんプロフィール
愛知県豊橋市生まれの64歳。愛知県立農業大学校を卒業後、個人事業主や会社員を経験した後、1994年に親元就農する。以降、中古農機具の改造のほか、オリジナル農機具を発明・開発。 現在は12ヘクタールの圃場(ほじょう)で夏冬キャベツを中心に露地栽培を行う。
別事業で成功するも、やりがいが一番強い農業へ
ナス男
柴田さん
夏冬キャベツを市場に出荷してるね。耕作面積は、合わせて12ヘクタールくらい。
業務用のネギをやったり、赤シソをやってた時代もあるけど、今はキャベツ1本のこの作型に落ち着いてるね。労働力は基本的には妻と息子との3人で、キャベツの定植と収穫の時期に期間雇用を数人してるかな。
本格的に就農される前は、別事業や会社員としても成功されていたと伺いました。なぜその成功を捨てて、本格的に就農されるに至ったのですか?
ナス男
柴田さん
個人事業主としては、コインロッカーを設置して運営する事業をやっていたね。何もしなくてもお金が入る仕組みまでできたんだけど、そこまでできたらやりがいが薄れちゃって(笑)
その後、ウエディング会社の社員もしたな。管理職まで昇格して給与も良かったんだけど、ここでも何か満たされない気持ちになったんだよね。
そこで、34歳の時に本格的に農業をしようと思い立った。当時の農業は作業に乗用の農機が導入され始めていて、その乗用の農機を実際に見た時に、「これは面白そうだ、うまく農機を使いこなせればチャンスだ!」と思って始めたね。
「豊橋のエジソン」の原点となった、ゼロから造った赤シソ刈り機
なるほど、乗用の農機を使った農業に可能性を見出したわけですね。柴田さんといえば、農機の発明・改造ですが、いくつかその農機を見せていただきたいです。
ナス男
柴田さん
いいよ! 一番思い入れがあるのが、この赤シソ刈り機かな。
赤シソを栽培してた頃、当時はまだ乗用の赤シソ刈り機が発売されてなかったから、エンジンや部品を取り集めて、ゼロから造ったんだ。
エンジンや部品を取り集めて、ゼロから造った赤シソ刈り機
え! これ柴田さんが造られたんですか! 個人農家が造れるレベルを超えてますよ……
ナス男
柴田さん
当時は時間に余裕もなくてね。朝8時にパートさんに農作業の段取りを教えてから、オレは夜9時まで農機屋に通い詰めて、分からないところを教えてもらいながら造ったね。
当時の赤シソの栽培面積は労働力1人につき10アールが平均だったけど、この機械とか作付機のおかげで1人につき120アールまで栽培できたね!
生産性が当時の平均の10倍以上! 画期的な発明だったんですね!
ナス男
柴田さん
おかげで稼がせてもらったわ! ガハハ!
製作の過程でたくさん苦労はしたけど、おかげで農機の構造や改造のノウハウが学べたよ!
原点になった思い入れのある農機だから、赤シソを作らなくなった今でも、捨てられずに倉庫にあるんだよな。
赤シソの播種(はしゅ)からマルチ張りまで一体でできる作付機。これも改造して造った
農機具は中古で買って改造!
赤シソ刈り機以外にも、たくさんの農機がありますね! 特にトラクター。何台あるんですか?
ナス男
柴田さん
トラクターは6台だね。全部中古で買ったやつ、全部現役だよ!
トラクターだけじゃなくて、運搬車7台や定植機5台も全部中古で買ってそろえてる。
ナス男
柴田さん
そうだよ。例えばこのキャビン付きの55馬力のトラクター、いくらで買ったと思う?
キャビン付きの55馬力のトラクター。故障した部品を、別機から乗せ換えて解決!
うーん、中古といってもキャビン付きで55馬力だから……相場でいくと200万円くらいですか?
ナス男
柴田さん
ナス男
柴田さん
他にも、27万円で買った65馬力のトラクターもある。メーカーにもフロントカバーの交換用部品がなかったけど、テレビのブラウン管や廃材で代用したら解決した。30年前に中古で買ったから、たぶん50年モノのトラクターだけど、今なお現役バリバリだね!
27万円で買った65馬力のトラクター。フロントカバーの欠品をテレビのブラウン管や廃材を代用して解決!
柴田さん
「コスト意識を持ちながら、農業や生活を楽しむ!」ために、中古の農機の改造にも目をつけた。
新品で買うと600万円以上する馬力のトラクターが数十万円で買えるなら、それだけで500万円以上の利益になるじゃん。もちろん、ブームスプレーヤーとか能力がいいものは、新品でも買うけどね。他の農家が修理できなくて手放す農機が、俺にとっては激安の宝の山だな!ガハハ!
それでも、なかなかここまでできる農家はいないですよ……。今の私と同じように、「こんなのまねできないよ。柴田さんだからできるんだよ」って言われることも多かったのではないですか?
ナス男
柴田さん
そうだね。でもむしろ、「諦めてくれてありがとう! おかげで自分にアドバンテージができる」と思ってるね! 新品のトラクターを見かけたら、心の中で手を合わせて感謝しているよ!
みんなが使わないような中古の農機具や廃材でも、工夫して活躍させられたら、最高に面白いじゃん!
農業で成功するために必要なマインド
柴田さんのように、中古の農機を探して改造できるようになれたら、楽しいですね。
でも私のような機械に疎い農家は、何から始めたらいいんでしょうか?
ナス男
柴田さん
機械いじりの初心者だったら、キャブレターの掃除や始動ロープの付け替えとか、比較的簡単なことからやるのがいいんじゃないかな。
ワイヤーや始動ロープのような、消耗しやすくて壊れやすい部品は、常にストックを持っておいた方がいいね。その機械を修理に出して数日返ってこないと、作業止まっちゃって困るでしょ?
あとはYouTubeを見るのもいい! 農機の修理や廃材加工の人気のある動画は、教科書レベルで丁寧で参考になるから見ると勉強になるよ。とにかく手を出してみることだね! 農機の知識を持っているのと、実際に改造してやってみることは、月とスッポンくらい違うからね。
「事極開道(じきょくかいどう)」。オレの座右の銘なんだけど、物事を極めれば、必ず道は開けて来るって意味なんだ。オレも苦労して赤シソ刈り機を造った時に、本当に道が開けていったのが実感できた。だから、とにかくトライ&エラー、そしてたくさん失敗しても諦めないことだね!
散水チューブを巻くリール。タイヤと持ち手の部分にローラーをつけて、トラックに積み込みやすくしてある
ありがとうございます。最後に、農家や新規就農者に向けてアドバイスをお願いします。
ナス男
柴田さん
農業で成功している人が、人生で成功しているとは必ずしも限らないと思うんだ。
「世界で一番笑ったやつが、世界で一番幸せ」だとオレは本気で考えてる。
やっぱり、人生を楽しまなきゃ! 遊びこそ学びだし、農業も本気で遊んでやろうと思ってやってるよ。
身近にいる息子や孫に、「あなたのような人生はとっても楽しいと思う!」と言われたら、最高の勲章だよね!
ビニールハウスの鉄骨などの廃材で作った「回転式シーソー」。お孫さんに大人気の遊具
現在は息子さんに経営を譲ったそうですが、農具やビニールハウスの材料で作ったお孫さんの遊び道具や、農機を紹介してくれている時の生き生きとした表情を見ると、まだまだ「農業で遊び尽くすぞ!」という意欲がうかがえました。
取材させていただき、ありがとうございました!