基本法制定後の20年で起きた変化
現行の食料・農業・農村基本法は1999年に制定された。制定に向けた議論が始まったのは90年代半ば。コメ市場の開放が93年に決まるなど、日本の農業は海外産との競合が激しくなっていた。農政の主な関心は「競争力をいかに高め、輸入に対抗するか」にあった。企業的な経営の普及を目指す日本農業法人協会が、基本法の制定と同じ年にできたのはその象徴だ。
制定から20年余りの時を経て、食料と農業を取り巻く環境は劇的に変化した。気候変動の影響で、食料生産を脅かす自然災害が世界各地で頻発するようになった。それと関連して、二酸化炭素(CO2)やメタンの排出など、農業が気候変動の「加害者」であることも意識されるようになった。
難題が次々に浮上する中で、世界の人口はその間も増え続けた。食料増産の必要性は当然高まった。ところが本来は天候不順で想定していたような食料供給の断絶が、別の原因で起き得ることが明らかになった。新型コロナウイルスとウクライナ危機で顕在化した、パンデミックと軍事紛争のリスクだ。
基本法を改正すべきだという声は、こうした状況の変化に対応するかたちで浮上した。論点はいくつもあるが、ここでは「不測の事態」への対応に絞って考えてみたいと思う。米国などの農業大国が輸出する穀物に頼っていれば、日本の国民に食料を安定供給できるという前提が崩れつつあるからだ。
行政命令で農地や農業機械を活用
法改正について議論しているのが、食料・農業・農村政策審議会の基本法検証部会。同部会が作成した「中間取りまとめ」は、気候変動で食料生産が不安定になっていることや、ウクライナ危機などを挙げたうえで、「不測時の食料安全保障への対応を考えておく必要がある」と強調している。