「一生やっていける仕事を」元メーカー営業職が選んだ道は農業
日本海に面する北陸地方にある富山県。3,000メートル級の北アルプス立山連峰から富山湾まで、海・野・山にまたがる多様な地形と豊かな水から、米を中心に白ねぎ、たまねぎ、日本なし、柿、りんご、チューリップ球根など数々の特産品が栽培されています。
友田さんが経営する「Yokubari farm」は富山市にあり、農地は1.3ヘクタール。そのうち0.8ヘクタールで白ねぎを作付けし、残りのスペースで水菜、なす、かぶ、かぼちゃなど多品目を栽培。白ねぎを収益の軸とし、その出荷がない冬期には他品目で利益をあげるよう計画的に複合栽培しています。
友田さんの栽培計画は、消費者としての目線が根底にあります。
「冬場は県内産野菜がほとんど並ばないので、もっと多品目の野菜でスーパーをにぎやかにしたいなという思いで新しい品目にチャレンジしています。自分が食べることが好きなのもありますね(笑)」
友田さんが農業に転身しようと思ったのは、前職のメーカー勤務時代に苦悩したとき。会社員の両親の元に生まれ大阪で育ち、食品メーカーに就職。営業職としてキャリアをスタートさせたものの、家族と過ごす時間がなかなか取れない日々に「このまま一生この仕事で良いのか」と考え始めるようになったそうです。
「『自分が本当に好きなことを仕事にするには』と自身を見つめ直すと、農業が合っているのではと気が付きました。ただ、農業とはまったく縁のない環境にいたので、確実に就農するために働きながら貯金し、3年間の準備期間を設けました」
「とやま農業未来カレッジ」で基礎を1年で習得
友田さんがセカンドキャリアに農業を選んだ時、最初に決めたのが『農業でどういう人生を送るか』ということ。一つは「自分のやりたいことを必ずやる」。二つ目は「家族とできるだけ同じ時間を過ごし、幸せに暮らす」。この二つを実現するために、インターネットで情報を集めながら、農業関連のイベントに積極的に参加しました。
とあるイベントで友田さんが出会ったのが富山県の「とやま農業未来カレッジ」でした。富山県が運営する1年制の研修機関で、農業をゼロから始める人も、米、野菜、果樹、花きなどについて基礎的な知識から実践的な技術まで広く学べ、就農をサポートしてくれます。
当時、結婚し子供もいた友田さんにとって、「1年制」というのは大きな魅力でした。
「貯金があるとはいえ、何年も学校に通っている余裕はありません。農業経験がない自分でも1年で幅広い知識を身に付けられたのはとてもありがたかったですね」
富山について考えてみると、富山県は奥さんの実家があり、何度か訪れ好感を持っていた地。自然が豊かで食べ物もおいしい。子育てもしやすく、実家にも頼れる。このようないくつかの条件が相まって、富山での就農を決意しました。
「とやま農業未来カレッジ」では、座学、県内の先進農家や研究機関のほ場での作物実習、機械操作演習、年2回の農家派遣研修を通して、富山県全般の農業に触れることができます。さらに現役の農家との交流もあり、その中で、自分に合った農業の形を見つけ出すことができます。また、カリキュラムは年間150万円の受給が可能となる国の就農準備資金の対象となっており、友田さんも活用しました。
農家派遣研修では、カレッジの指導員が受講生の希望をもとに派遣農家を探します。「野菜をやりたい」という気持ちがあった友田さんは、米、麦、大豆などで収益をあげながら、西洋野菜やこだわりの品目の栽培に取り組むみずほ農場株式会社での研修が決まりました。自営で農業をしてみたいという気持ちがあったものの、仕事としての農業は未経験という不安もあり、カレッジ卒業後は同社に就職しました。
根回しと準備が肝要。地域に溶け込み、自分がやりたい農業を実現
さまざまな野菜の実践的な技術の習得に励む一方で、栽培計画など経営面にも関わっていきました。就職から1年後には独立就農を本格的に検討し始めた友田さん。「しっかり準備するために独立は2年後」と決め、県の農林振興センターに早めに相談に行きました。
「富山市八ケ山地区で白ねぎのほ場と機械を貸してくれるとの情報を得ることができました。販路もあり、八ケ山地区での白ねぎを軸とした経営体系に決めました。この体系はみずほ農場のやり方を真似させてもらいました」
当時、富山市神明地区に新居を構えていた友田さん。自宅近くにもほ場がほしいと考え、積極的に地域の活動に参加し周囲に「農業をしたい」とアピールしたそうです。すると、農地やハウスの貸付の話が寄せられるようになりました。独立への地盤が整うとみずほ農場を退社し、2021年4月「Yokubari farm」を開園。最初は0.6ヘクタールからのスタートでしたが、地域の人からの紹介で徐々に農地を拡大することに成功しました。
「農業は一人でやるものではないという心構えが大切だと思います。富山の人は優しい方が多く、さまざまな場面で助けてもらいました。周囲との関係性を大切にすれば、いろいろな情報が入ってきて道が開けていきます」
独立3年目の現在、市場や直売所のほか、地元のスーパーとも取引し、白なすやゼブラなす、ミニかぼちゃなど珍しい野菜をつくり、売り場の華やかさに貢献しています。また、補助金を活用して3棟のハウスを増設予定で、冬場に出荷する品目を栽培するそうです。
「目標にはまだ届いていませんが、確実にやりたいことができ、毎年ステップアップを感じます。何よりも一番の収穫は、家族で一緒に過ごせる時間が長いことです」と、これまでを振り返ります。富山は公園が多く、お金をかけなくても子供と遊べる場所がたくさんあるとのこと。混雑していなくて移動時間も短く、満足度が高いといいます。
自分の心と向き合って農業に転身し、理想の生き方を体現する友田さん。「就農を目指す方は、最終的に実現したい目標を心に期してから踏み出してほしいです。そうすれば、多少回り道をしてもすべてが学びになり、ゴールにつながっていきます」とエールを送ってくれました。
富山県農林水産公社が就農まで手厚く支援。8/11には無料相談会も
富山県農林水産公社では、県内の産地や研修の情報、農業法人の求人情報の紹介や、就農に関する相談等、県内4つの農林振興センターや市町村と連携して就農を支援しています。面談や電話での相談のほか、就農ポータルサイト『とやま就農ナビ』でメールやオンラインの相談も受け付けています。
また、2023年から就農コーディネーターを配置し、産地の受入情報や農地・空き家情報の提供など、個々の就農希望者のニーズに沿った支援で就農につなげる体制を整えています。
加えて8月には農林漁業に関心のある方に向けたイベント「とやま農林漁業就業支援フェア」を開催します。
【日時】
8月11日(金・祝)10:00〜15:30
【場所】
富山県総合福祉会館 サンシップとやま1F福祉ホール
〒930-0094 富山県富山市安住町5-21
【実施内容】
■県内の農業・林業事業体との面談
面談ブースを設け、興味のある分野の話を直接聞くことができます。
■就業に向けての個別相談
農・林・漁業、それぞれの就農に向けた相談に個別に対応します。
■各種情報提供
求人、農林漁業体験、研修、資金、田舎暮らし体験など、さまざまな情報を提供しています。
イベントは事前申込不要、入場無料。相談は受付順となります。
「農業をはじめてみたい」「富山県に興味がある」とお考えの方は、足を運んでみてはいかがでしょうか。情報を集めることが、就農への一歩となるはずです。
取材協力
富山県富山市
「Yokubari farm」友田拓造さん
記事に関するお問い合わせ
公益社団法人 富山県農林水産公社
〒930-0096
富山県富山市舟橋北町4番19号 富山県森林水産会館6階
TEL:076-441-7396
FAX:076-444-3851
就農ポータルサイト『とやま就農ナビ』